しっかりとした科学考証は本格SFの道標 / 芝原博士の『ウルトラマンアーク科学研究室』第7回
『TSUBURAYA IMAGINATION』にて、「芝原博士の『ウルトラマンアーク科学研究室』第7回」が公開されています。
今回は、第13話と第14話を対象に、映像作品から読み取れるさまざまな事柄について、科学的解説・考察がたっぷり綴られています。
このシリーズを読むたびに、『ウルトラマンアーク』の作品世界はつくづくよく考えられているし、結構冒険しているものだと思います。
ヒロイズムとSFイズムの間に・・・ / 「ヒーローはかっこいい」は正義!しかし・・・
特撮ヒーロー作品においては、まずはヒーローをカッコよく描くことが作品の(商業的)至上命題。
そのためには、
ヒーローのキャラクターを親しみやすいものにして、感情移入し易くすること、
シリーズを通しての悪役を設定し、善対悪の戦いを通して、物語をシンプルにし、没入感を高めること
が最適解として考えられます。
ウルトラマンゼロの登場以降、ウルトラマンシリーズは、概ね上記の戦略によって進んできました。
すなわち、
・ウルトラマンに喋らせる
・魅力的な悪役を登場させる
実際円谷プロの営業成績は増加を続けているので、商業的には正しい選択です。
一方で、ヒーロー性を追求するあまり、ウルトラシリーズの持つ「SFアンソロジー」という側面を少なからず切り落としてきたこともあったと思います。
業績回復が、新境地への冒険を産んだ
昨年の『ウルトラマンブレーザー』から、シリーズには大きな変革が起こりました。
・ほとんど喋らない野生的なウルトラマン
・リアルでSF性の高いハードなストーリー
この路線変更は、円谷プロがテレビシリーズのみ作っている会社なら、かなりの冒険だったでしょうが、今は条件が違います(多分)。
ウルサマなどのイベント、「ツブイマ」などの配信ビジネス、海外展開と、収入源は多岐に渡り、しかも堅実(に見える)。
作品も、国内向けアニメ「SSSS. GRIDMAN」シリーズや、全世界向けの「ULTRAMAN」「ULTRAMAN: RISING」、本家ウルトラマンTVシリーズも多言語で世界同時配信と多彩。
豊富なキャラクターの権利を持つ円谷プロ・円谷ホールディングスが、マーチャンダイジングライセンスを適切に管理できれば、経営は安定するでしょう。
エンターテインメントに限らず、この世界では、どれほど夢を語ろうとも、資金がなければ/資金を集めることができなければ、夢を現実にすることはできない。
キングコング・西野亮廣さんの言葉は至極真っ当です。
そんな経済的余裕から生まれた(と思う)『ウルトラマンブレーザー』。
制作時期を考えると、『ウルトラマンアーク』も、従来のニュージェネフォーマットからの脱却・新しい方向性とファンの開拓を念頭に企画されたに相違ありません。
今から考えれば、『ウルトラマントリガー』『ウルトラマンデッカー』も、冒険の一つだったのかもしれません。
SFアンソロジーへの回帰大作戦
ミリタリー的なリアルさを全面に出した『ウルトラマンブレーザー』に対し、『ウルトラマンアーク』は、地に足のついた、より現実感あふれるSFドラマの構築を目指しているように見えます。
そこで選ばれたテーマは『怪獣災害』と『科学調査』。
「怪獣災害」という言葉は、『ウルトラマンティガ』第5話「怪獣が出てきた日」を皮切りに、シリーズで何度も使われてきましたが、作品のテーマとして選ばれるのは初めてです。
SKIPの目的は怪獣災害の発生および被害拡大の予防で、科学調査及び避難誘導等を行います。
怪獣の殲滅や被災者の救助を目的とした組織ではなく、防衛隊と棲み分けがされています。
この設定により、調査・分析を行うシーンが豊富となり、これまでのシリーズ以上にストーリーや小道具の科学的考証が必要になったと考えられます。
科学考証自体は軍事考証とは違い、メカのかっこよさには結び付かず、玩具の売上には直接寄与するものではありません。
そのため、『ウルトラマンアーク』のストーリーが大きく科学に振っているのを見て、「頑張ってるなあ」と感心した次第です。
その科学考証を支えているのが、芝原暁彦先生率いる産総研発ベンチャー・地球科学可視化技術研究所株式会社(地球技研)。
「地球の歴史を可視化する」がテーマ、特撮と親和性が抜群ですね。
高精細な箱根の地形モデルを見たとき、第14話で「オニキス」が浮上した狐が森の地形を思い浮かべました。
昨年はドラマ『ブルーモーメント』にて、気象学者の荒木健太郎博士(気象庁気象研究所)が気象監修にクレジットされています。
今後、ウルトラマンシリーズに関わらず、さまざまな映像作品でも、しっかりとした科学考証が進み、ドラマの面白さに華を添えてくれることでしょう。
願わくは、作品を見た視聴者、とくに子どもたちの科学への好奇心が大いに刺激され、一人でも多く科学の世界に進んでくれることを願ってやみません。
四国の田舎からエールを送ります。
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