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親が介護士になって気づいた「AIアバター」の可能性~3児の母がソフトウェア開発に懸ける想い~
私は、守興 麻理絵(もりおき まりえ)と申します。
現在、Anystar株式会社というソフトウェア開発会社を経営しながら、3人の子どもを育てている一人の母親でもあります。仕事と育児を両立するだけでも慌ただしい日々ですが、ここ数年、私の中で大きな変化をもたらしたのは、親が介護士として働き始めたことでした。
それまでは、介護現場にどこか距離を感じていた私。しかし、親を通じて話を聞くうちに、人手不足や負担の増大、一部では深刻化する利用者さんへの虐待問題など、介護施設が抱える課題の大きさに気づかされました。とはいえ、スタッフの方々の熱意や、利用者さんとの間に育まれる温かいコミュニケーションなど、ポジティブな側面もたくさんあります。だからこそ、この現場を少しでも支えられないか――その思いが、私が手がける“AIアバター”と介護・メンタルケアの結びつきを考えるきっかけとなりました。
本記事では、一人の母として、そして介護士を親にもつ娘として、私がどのような想いでAIアバターの開発に携わっているのかをまとめています。また、臨床心理学の教授との共同研究についても触れながら、AIアバターを、介護現場のメンタルケアの文脈でいかに活用できるかを考えていきたいと思います。
親が介護士として目にした介護現場のリアル
私の親はここ数年の間に、まったく異なる業種から介護の世界へ転身しました。転職前は「いつかは人の役に立つ仕事がしたい」という気持ちがあったようで、その思いを実現するために行動したとのことです。実際に働き始めてみると、やはり現場は想像以上に忙しく大変だったようです。
人手不足によるスタッフ一人当たりの負担の大きさ
夜勤や早朝勤務などの厳しいシフト
認知症の方や外国人の方など、多様な利用者への対応
思うように情報共有ができず、スタッフ間でもコミュニケーション不足になりやすい
とくに痛感したのは、「もっと利用者さんとじっくり話したいのに、時間がない」という嘆きでした。忙しすぎるあまり、利用者さんもスタッフに遠慮してしまい、「本当は不安を抱えているのに言い出せない」という状況がしばしば起こるそうです。また、業界全体では、そうしたストレスの蓄積や人手不足が一部での虐待や不適切な対応にもつながってしまう――この厳しい現実を知り、私も強い衝撃を受けました。
子どもを育てる母として実感する“コミュニケーションの力”
3人の子どもを育てながら、ソフトウェア開発を行う私にとっては、日頃から「言葉を交わす」大切さを何度も思い知らされています。忙しいからといって子どもの話を適当にあしらえば、子どもは自分の気持ちを言葉にする場を失い、いつの間にか大きな悩みを抱えてしまうこともあります。逆に、たとえ短時間でも向き合って話を聞けば、気持ちが落ち着いて問題解決がスムーズになる――そうした経験を重ねてきました。
この視点を介護現場に当てはめると、「じっくり話を聞いてあげたいのに、スタッフには余裕がない」という状況が見えてきます。コミュニケーション不足によって利用者さんの不安やストレスが放置されれば、いずれ大きなトラブルへと発展してしまう可能性もあるのではないか。私の親から聞く話は、そんな危機感を抱かせるものでした。
介護・メンタルケア領域での課題と“センターピン”
Anystar株式会社として、実際に介護業界の方や専門家に話を聞く中で、下記のようなペインが顕在化しています。
スタッフの人手不足・負担過多
シフトの穴埋めに追われて、余裕がない。
新人スタッフの離職率が高く、教育負担が大きい。
スタッフ自身のメンタルヘルス
疲労やストレスが蓄積しやすい業務環境。
コミュニケーションが不足すると、言葉遣いが荒くなるなど、不適切な対応のリスクが高まる。
利用者の多様性・孤独感
外国人や認知症の方など、一人ひとりに合ったアプローチが必要。
「忙しそうだから」と気遣ってしまい、本当の悩みを言い出せない利用者さんも多い。
情報共有の煩雑さ
服薬管理やリハビリ、他職種との連携など、管理すべき情報が多い。
スタッフ間での伝達ミスが利用者さんの安全に直結するため、プレッシャーが大きい。
こうした悩みの背後には、コミュニケーションの余裕が足りないという共通点があるように感じます。もともと私たちが開発してきたAIアバターは、決して介護のために生まれた技術ではありません。しかし、その“対話型のインターフェース”を活用すれば、コミュニケーションの空白を少しでも埋められるのではないか――そう考えたのが、私たちの出発点です。
AIアバターの可能性:本来の用途と介護への応用
AIアバターの誕生と特徴
AIアバターは、画面上に表示されるバーチャルキャラクターが、まるで人間のように会話をしたり、情報を教えてくれたりする技術です。Anystar株式会社では、もともとエンタメや教育分野での対話体験を向上させる目的で研究・開発していました。たとえば、ゲームのキャラクターがリアルタイムでユーザーの質問に応答したり、語学学習のパートナーになったり――そんなイメージです。
介護現場での使い方
このAIアバターを、介護の現場やメンタルケアで役立てられないか、と私たちは考えています。具体的には、以下のような活用法を想定しています。
夜間や手が足りない時間帯の声かけ
AIアバターが定期的に「大丈夫ですか? 何かお困り事はありませんか?」と話しかけ、利用者さんの状態を確認。深刻な症状やSOSワードがあれば、スタッフにアラートを送る。服薬リマインド・簡単な健康管理
決められた時間に「そろそろお薬の時間ですよ」と促したり、血圧・体温など簡単なバイタルチェックを案内したりする。気軽な雑談・ストレス発散
利用者さんが抱えている悩みを吐き出せる“窓口”になりうる。とくに「スタッフに迷惑をかけたくない」と感じる方にとっては、バーチャルな相手のほうが話しやすい場合もある。
もちろん、AIが人間の心の通ったコミュニケーションを完全に代替するわけではありません。ただ、忙しい現場の“コミュニケーション空白”を少しだけ埋めてあげることで、スタッフが本当に時間をかけて対話すべき場面で余裕を持てる――そんな効果を期待しています。
臨床心理学の教授との共同研究:メンタルケアへの展望
メンタルヘルスへの関心
私たちは、臨床心理学が専門の大学教授とも共同研究を進めています。介護現場では利用者さんだけでなく、スタッフ自身も大きなストレスに晒されがちです。そこで、AIアバターがメンタルケアの一端を担えるかどうか、科学的に検証しようとしているのです。
スタッフのストレス度合いを定点観測する仕組み
利用者さんとの対話ログの分析から、孤独感や不安を早期発見する方法
対話内容に応じて、専門家につなぐ基準を策定する(例:過度にネガティブな発言が続く場合など)
AIアバターがもたらす心理的ハードルの低減
臨床心理学の視点から興味深いのは、「バーチャルな相手のほうが、デリケートな悩みを言いやすい場合がある」という点です。人間同士だと「嫌われるかもしれない」「こんなこと言って大丈夫かな」と思い、相談をためらってしまう方でも、AIアバターなら安心して心の内を吐露できるかもしれない。実際、そのような可能性を示す研究結果も少しずつ出てきています。
本来、AIアバターは娯楽や教育コンテンツの分野で利用が進められてきましたが、こうしたメンタルケアの文脈で活用できるのは意外な広がりです。教授との共同研究で得られる知見をさらに深め、介護現場での実験や導入につなげていくことが、私たちの今後の大きな目標になっています。
ソフトウェア開発会社としての強み
コストを抑えた導入
Anystar株式会社は、ハードウェアではなくソフトウェアを中心に開発を行っているため、既存のタブレットやディスプレイ、パソコンを活用しやすいのが強みです。大型のロボットを導入する場合に比べて初期コストを抑えられ、施設単位での横展開もしやすいメリットがあります。
アップデートで機能拡張
クラウド経由のソフトウェアアップデートで、新機能の追加や不具合修正を素早く行える点も魅力です。たとえば、利用者さんの声をもとにUIを改善したり、スタッフの操作画面をよりシンプルにするなど、現場からのフィードバックを即座に反映できます。
サブスクやリースモデルの検討
一括導入だけではなく、月額制(サブスク)やリースモデルなども検討中です。機器のメンテナンスやバージョンアップも含めた形で提供することで、介護施設が資金面で導入しやすい仕組みを整えたいと考えています。
今後の展望:AIアバターが作る“ゆとり”ある介護・メンタルケア
夜間や過度なストレスへのフォロー
私たちが目指すのは、AIアバターが夜間やスタッフが少ない時間帯に利用者さんの声を拾い上げ, 朝になったらスタッフがそのログをチェックして必要なサポートを行う――という二人三脚の体制です。スタッフが24時間体制で対応するのは難しいからこそ、AIがカバーできる部分を担うことで、余裕が生まれるはずです。
“介護 × メンタルヘルス”へのアプローチ
また、臨床心理学の教授との共同研究を活かし、利用者さんだけでなくスタッフのメンタルケアにも取り組んでいきます。AIアバターが日々のやりとりから小さなサインを捉え、必要なら心理カウンセラーや医師にリファラルするシステムを確立できれば、未然に深刻化を防ぐことも可能でしょう。
AIアバターは“補助”だからこそ意味がある
大切なのは、AIアバターが人間のコミュニケーションをすべて置き換えるわけではないという点です。むしろ、スタッフや専門家が本当に時間を割くべき事柄に集中できるよう、AIがその前段階の雑談や簡単な見守りを代行するイメージが理想です。私たちは、あくまで「AIがあるから人との対話が減る」のではなく、「AIがあるからこそ人がもっと対話に時間を使える」状況を作りたいと考えています。
最後に:一人の母として、そして親を介護士にもつ娘として
私が3人の子育てをしながらソフトウェア開発に打ち込む原動力は、「人との対話が生む価値を、少しでも多くの場所で守りたい」という気持ちにあります。親が介護士になり、現場のリアルな声を伝えてくれるようになった今、「忙しさやストレスでコミュニケーションが薄まり、結果として利用者さんやスタッフが苦しむのはもったいない」という思いがますます強まりました。
そこへ、私たちがもともと研究してきたAIアバターが、新たな光を投げかけてくれています。臨床心理学の視点を交えながら、適切なメンタルケアやコミュニケーションの補助ができれば、介護業界の抱える課題に対して少しでも前向きな変化をもたらせるかもしれません。もちろん、簡単に解決する話ではありませんし、実証研究や導入事例の蓄積が欠かせません。
それでも、「技術が人を孤独から救う」可能性を信じて、私たちは一歩ずつ進んでいきます。もし興味を持ってくださった方がいらっしゃれば、ぜひAnystar株式会社までご連絡ください。小さな実験から大きなイノベーションにつなげていきたい――そんな希望を胸に、これからも“介護×AI×メンタルケア”の領域を探求し続けます。
お問い合わせ先
Anystar株式会社(ソフトウェア開発会社)
代表取締役 守興 麻理絵(もりおき まりえ)
Email:info@anystar.ai
AIアバターが、忙しい現場にほんの少しの“ゆとり”を生むきっかけになれば――
一人の母親として、そして介護士を親にもつ娘として、そう強く願っています。