「バベットの晩餐会」と豪華なランチ
今年こそゴールデンウィークに京都に行こうと思っていた。ところが色々あって行けなくなった。仕方がないので、近くの温泉に行ったり、家で映画を見たり、断捨離やご無沙汰していた人と会う約束などもした。何もしなくていいわけでもないし、それなりにする事はある。
ある日の午後、たまたま見た「バベットの晩餐会」。19世紀後半、ユトランド半島の質素で禁欲的な暮らしの漁村が舞台。
牧師の父が亡くなった後を美しい姉妹が引継ぎ村人も教えを守り暮らしていた。そこにフランスからバベットという女性が現われ、家政婦として働く。あまりの質素な食事に驚くが黙々と食事を作る。
ある時、彼女が宝くじが当たり大金を手にする。姉妹に最初で最後だと願い出て牧師の生誕100年を偲ぶ晩餐会で贅を尽くしたフランス料理を作る事になる。
ところが、姉妹や村人達は、彼女がフランスに戻り買い集めてきた海亀や鶉などの食材を見て驚く。村人達は、料理について何も語らない事にする。
晩餐会の日、パリでも暮らした事がある将軍も参加し料理の解説を始める。しかし、皆は頑なに料理の話を避け、感情を押し殺していた。ところが食べるうちに顔が綻んでしまう。
将軍は、「この芸術的な味を出せるのは一人しかいない。」と言う。実はバベットは、パリの一流レストランの女性シェフだった。
結局、彼女は、その後もこの村での暮らしを続けると言った。
映画を見た翌日、少しご無沙汰していた人達から連絡があり、3人で食事会をする事になった。
私は、「どうせなら豪華なランチにしよう」と話した。
そして、ゴールデンウイークの真っただ中、盛岡のレストラン「和かな」へ行く事にした。
この階段は久し振りだ。一段ごとにワクワクしてしまう。
メニューを開き選んだのは、和かなの厳選のお任せ肉といわて短角牛。
それぞれ違うコースを焼いてもらいシェアがいいとなった。
前菜はマスの料理。
低温で時間をかけて調理されたマスは、レアの様に見えるが、しっかり火が通っていた。
スープは、色々な肉のエキスで満たされ、味わい深い。
目の前の鉄板は十分に熱を持ち、いよいよ踊りだす食材。
始まりはアイナメ。
鉄板から浮き立ついい匂い。3人の目の前で焼き色がついていく。アイナメの変わる姿に見惚れている。
魚がますます好きになる。
サラダは瑞々しい地元の野菜たち。
いよいよ、主役の登場だ。
見ているだけで楽しくなる。
焼けて変わる色。塩コショウだけで味付けしていく。
この輝きを帯びた茶褐色に、舌が潤い待ち構え、胃も騒ぐ。
鉄板のステージもいよいよ佳境。野菜たちも輝きだす。
目の前の白い帽子の調理人は、食材の話をしながら焼き加減を見ている。
焼き加減は、ミディアムにした。
グルメではない私はレアが苦手。皿に載せられた肉は見た目はレアっぽい、と思ったが、口に入れるとしっかり火が通っている。とても美味しい!
特にもいわて短角牛には心掴まれた。固すぎずに弾み、柔らか過ぎず、いい食感。噛むとジワリと広がる肉の旨味。その後に続く甘み。思わず微笑んでしまう。いわて短角牛は、素晴らしい。
ご飯はガーリックライスにした。
ほかの2人はパンだったが、横目で見ていた。
デザートも甘さ控えめで言うことなし。さくらのアイスクリームも美味しかった。
思い出さずにはいられない、見たばかりの「バベットの晩餐会」。映画の中で、メニューの解説役の将軍が、「彼女は食事を恋愛に変える」と言った。何かにつけて、昔の事まで引き合いに出し、いがみ合う事が多くなっていた村人達は美味しい料理で湧き出てくる自然な微笑みを交わす。
贅を尽くしたご馳走も質素な日々の料理も「食」というものは、大切なんだと思った。
和かなを出ると、一人がすぐ近くに見えた盛岡城址の辺りを散歩しようと言う。三人は、少し弾んで歩き出した。
ゆっくりと城跡を一回りして解散。
私は、帰れ道で、猫君にとっておきの鰹節を買って帰り、可愛らしい小皿に出す事にしようと決めた。
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