知ってはいたものの、初めて入ったケーキ店、盛岡市「ル・グ・メルヴェイユ」
場所も店の名前も知っていた。でも、なぜか入ったことがなかった
「ル・グ・メルヴェイユ」
仕事の帰り道、たまたま近くを通った時、助手席の人が「ル・グ・メルヴェイユ、知ってます?」と聞く。
「うん知ってる」
「なんでも美味しい店は知ってますね~」
「いや、名前と場所だけ、食べたことはないよ」
寄ってみることになった。
一人だと頭をかすめても通り過ぎただろう。
店に入るなり、並ぶ綺麗なケーキ。ショーケースに吸い寄せられる。
店の人に、一番人気を聞いた。
「はい、イチゴショートなんです」幅広い年代に愛されているという。
生クリームを纏った真っ赤なイチゴが誘ってくる。手が伸びそうになる。
みずみずしいタルトも並ぶ。
焼き菓子も美味しそうだ。
2人とも迷いに迷ったが、各々気に入ったものを買った。コンビニで珈琲を買い、盛岡中央公園でひと休み。
空は青く春の予感。
私は、「宮崎産の完熟キンカンのタルト」。タルトの台が敷かれた紙にくっついている。蜂蜜だろうか?
空を背景に、このみずみずしさ。思わず微笑んでしまう。甘さを抑えた感じで後味もスッキリ。そもそも好きなキンカンは言うことなし!小さな花も咲いていた。美味しく素敵なタルトだ。
食べながら、ふと思い出した。
中学2年、雪深い静かな町に転校した。学校までは十数分。その夏のある朝、学校へ向かっていると、女子2人が追い越しざまに
「おはようございます!」
後輩のようだったが、返事もせずにポカンとしていた。
翌日も元気な挨拶。でも返事をしようと思っても声にならない。雪の日も続いた。ジィ~っと、こちらを見たり、睨むような顔の日も。3年生になって時間をずらしてみたりした。
卒業も近づいた3月、後ろから明るく賑やかな声。横から挑戦的な口調で「おはようございます!」
自分の心に突然、アドレナリンが湧き上がった。
横を向き、「おはよう」
2人は手を叩き、飛び跳ねた。それから数分、並んで歩いた。
「返事してくれた!」
「どうして今日なんですか?」
「先輩、もうすぐ卒業式ですね。」矢継ぎ早に飛んで来る言葉と笑顔。
下駄箱で靴を履き替えながら、とても清々しい朝だと思っていた。
助手席の人は「宮崎の日向夏のタルト」を持ち、頬が緩んでいる。
箱の中には、丸くした仕切りがついていた。これならケーキも転ばない。
翌日の午後、珈琲を淹れケーキを食べた。「バッカス」という名で、
チョコレートとたっぷりの洋酒で大人の雰囲気。品のある艶々が滑らかに喉元を通り過ぎた。
「あ~ 美味しいなあ~」と声にしてみた。
「果肉や木の実を上手に使う店だなあ~」また声にした。
焼き菓子も美味しかった。
今日は2月の雨。
満足して思いにふける午後。
今頃、あの2人の女子は、どうしているだろう。