【人生、転職やり直しゲーム 第二章 転職と地獄の研修の巻】
【オービーカントリー】
バスは、大雪茄子ヶ飯高原の
会員制高級ゴルフ場、
「オービーカントリー」の駐車場に止まった。
「ここの客層をよく見ておけ」
洗脳さんが偉そうに言ったので、
俺は、ミニバスの窓から、
ゴルフ場に出入りする人間を観察した。
日焼けした、ジジイ達が、
ベンツから、ゴルフバックを出してゴルフ場に入っていった。
ゴルフ場から出てきたジジイ達もちょっと金持ちっぽい。
今どき運転手つきの車で帰って行く奴もいた。
恵まれていて、なんかムカつく。
俺らを観察していた洗脳さんが聞いた。
「ここの客層、どう思う?」
俺は思わず言った。
「会員制ゴルフ場っすか。
平日の昼間っからゴルフできる奴って、
金持ってそうな年寄りが多いっすねぇ、
俺なんてゴルフ、
1回もやったことねぇのに」
「無能君、君の感じた通りだ。
あの年寄り達は、
日本が景気がよかった時代に、
土地を元手に財産を貯めたり、
株でもうけた
成金達が多い。
不労所得で生きているんだ
その上、国から年金も貰っている」
「そうなんですか。
何か、
ずっこいですね
土地を借りた人間から、
金を貰って、
働かないでゴルフですか?
株の配当金でウハウハっすか?
楽しそうで
何かムカつきますね」
俺は、研修が就職試験も兼ねているのを
忘れて、
不満をぶちまけてしまった。
世の中に対して
ネガティブ発言しちゃったかな。
評価が下がるかな、
そう思ったが、
「よく分かっているなー」
洗脳さんは、満足そうに俺を見た。
こんな回答で良かったんだろうか?
「それじゃ、ちょっとメシにしよう。
コンビニで弁当買ってやる。
そこでも人間観察だ。」
ミニバスは、
工業地帯のコンビニに止まった。
ちょうど昼休みで、
昼飯を買いに来る
ブルーカラーって言うんだろうか、
作業着姿のオッサンでレジが混んでいた。
緑、青、紫…
作業着ってどうしてこんなわかりやすい色なんだろう。
まばらな白髪オッサン達の後ろ姿は、
高い確率で猫背だ。
作業着の襟が擦れ切って、生地が薄くなっていた。
白くなった繊維がなんとも貧乏くさい。
作業用安全靴をドタドタいわせて
トイレから出てきたオッサンは、
漫画と弁当と麦茶を買って、
店から出ると、
トラックの中で、
漫画を読みながら、
肉に食らいついていた。
俺達は、人間観察しながら、
買った弁当をミニバスの中で食った。
弁当代は洗脳さんが皆の分、
運転手さんの分も払い、
領収書をレジで貰った。
洗脳さんが、食いながら、俺達に聞いた。
「このコンビニを利用する人間については、
どう思った?」
「えーと…」
「猫田さん、どうぞ」
「労働者ですね。
自分の時間と労働力売って、
賃金を貰っているというか…」
「そうだな。
そして、お前らは、
あの、労働者にもなれなかった人間だな?
そうだろう?」
「えっ…」
「菅四輝以外は、
何か理由があって仕事を辞めたんだろう?
まず、
会社で大事にされている
そこそこ高給取りの人間は、
そのまま辞めないで働いているよな。
有能で、
ちょっと仕事を変えたいなら、
独立するか、
ヘッドハンティングされるだろうし、
ハローワークで職探しなんて
しないよなぁ」
「…」
グゥの音も出なかった。
ムカつくが、
洗脳さんの言う通りだ。
「でも、俺は、
お前らがバカだから、
ブルーカラー以下の仕事、
まぁ、バイトなんかの
低賃金労働しか出来ない…
なんて、言わな〜い!
お前らは磨くと光る原石だっっ!」
上げたり下げたり忙しいなぁ。
「ただ、
今の日本の現状が、悪すぎる。
人口ピラミッドって
学校で習っただろう?
はい、
忘れたって奴のために、
カレンダーの裏に書いてきたぜ。
ジャジャーン!」
洗脳さんは、図を出した。
用意がいい。
日本の人口ピラミッド。
「壺型」
「ここで、
中学社会の復習。
少子高齢化が世界一進んでいる国は?」
「はい、日本です」
「菅くん。さすが、帝国大学のエリートさん、
回答が早い。」
俺だって知ってるっつーの。
「ところで、
お前の借金はいくらだ?」
「うーん、よく、分かりません」
菅四輝も借金あるのか。
「そうだよなぁ、
借金の年利計算なんて
学校で教えたら、
誰も奨学金借りねぇよなぁ
文系の学部なんて全部潰れちまうよな。
菅くん、お前は、
地元で名前の知れた一流大学生だけれども、
3流大学卒業した、無能!
お前の友達で、
非正規雇用の奴、どのくらいの割合だ?」
俺の大学の卒業生をを非正規雇用の母体にすると…。
「ほとんどです。」
「文系Fラン大卒だとそうなるな。
日本の非正規雇用の平均年収、
知っているか?
チチチチチ…
ブーッ、
答えは、168万円だ。
こんな安月給じゃ、
暮らせねぇっつーの。
舐めてんのかよ。
ところで、
どうしてお前らの周りは皆貧乏なのか知っているか?」
「…」
「日本の全世帯の貯蓄割合は、
60歳以上が7割を占める。
そして、
60歳以上の高齢者の
平均貯蓄高は、2000万円以上。
その上、
平均、月18万円の厚生年金まで貰っている。
月、18万は、
コンビニで見た作業着のオッサン達の
平均月収だ。
日中からゴルフで遊んでるアイツら、
俺らの税金でゴルフしてんだぜ!
腹ただしいよなぁ?
それだけ金持っているにも関わらず、
年寄り共は、
金を使わず、
溜め込む。
年寄りが死ぬ時の平均貯蓄高は、
3000万円だ。
俺らのターゲットは、ここだ。
ここにセールスして、
アパートをバンバンおったてて、
1パーセントを報酬として、
会社から歩合を頂く。
ジジイ共がさらに家賃で儲かるのはシャクだが、
おまえらも、
歩合で面白いように儲かるぞ
金持ちジジイに便乗して、
稼げ!」
そうか、
頑張ったら、
歩合もあるし、
悪くない仕事かも。
「た・だ・し!
研修で残った奴だけ、
採用だ。
まず、我を抜かないといけない!
この、地獄の研修を生き抜け!
一生に1度しか受けられない研修だから、
心して、かかってくれ!
はい、拍手、拍手~!」
俺達は、
この、新人教育のカリスマに
手が痛くなるほどの
割れんばかりの拍手を送った。
「もうすぐ、目的地の寺に着く。
研修のプロが待っている。
心して受けてくれ!」
俺は聞いた。
「洗脳さんは研修のプロではないのですか?」
「俺は単なるアシスタント的立ち位置だ。
俺より凄いカリスマ研修係が待っているから、
心して研修に望め!
これから向かう
寺の住職は、
研修界のフェラーリと呼ばれる男だ!
世界最高クラスの研修を
ななな、なんとぉ、
パワハラパレスの金で受けられるんだから、
お前らは選ばれた人間だ!
F1に挑むレーサー、アイルトン・サセオだっ!
ジャン・アレンジだっ!
お前ら!
金持ちになって、
芸能人とやりまくろうぜ!」
F1レーサーやら芸能人とやれるやら、
話が大袈裟に飛躍しすぎだ。
うさんくさい奴だ。
「え!芸能人とできるんですか?」
菅四輝は興奮した声で叫んだ。
この、エロ男め!
「泣く子も黙るパワハラパレスの社員だぞ!
サラリーマンでも、金持ちなら可能だぁ!
やれる!
ここだけの話、
パワハラパレスのスポンサー番組に出演する
アイドルがねらい目だ!
柊坂か?地獄坂か?
ぐふふふふ」
おいおい、そんなうまい話あるか。
いや、ちょっと信じたい、
うーん、本当かな?
おれもやりたい。
選民意識を植え付けたいんだろうか、
芸能人とやれるのは言い過ぎだと思うが、
洗脳さんの熱い口調のせいか
俺の股間がむずむずして口元がにやけだした。
平田さんは嫌そうに横を向いた。
女にとってはセクハラになるのかな。
集合場所からバスに乗って、
3時間ほどたったかな。
これだけの時間で
俺らをやる気にさせた
洗脳さんでも十分顎が固い(口がうまい)と思うが
さらなるカリスマとこれから会うのか
フェラーリは大袈裟と思うが…
住職ってどんな奴だろう。
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(第2章の始めからやり直す)