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2024.06.16 第16回シアターX(カイ)国際舞台芸術祭2024踊る妖精『ものみな歌で終わる』


創作舞踊を長年踊り続けてきた女性ダンサー6人のソロダンスが6つ並ぶ『ものみな歌で終わる』。
それぞれが約20分間、舞台を自由に使い、自分のダンスを表出させる。
全員70歳以上のメンバーなので、ン十年間踊りに携わってきたそれぞれの歴史が濃厚に表れ、全く違う6つの作品が並んだ。

会場の両国・シアターX(かい)

一番鮮明なメッセージが伝わってきたのは南貞鎬(ナムジョンホ)の『2024年6月東京』。
骨組みだけの傘にキラキラ光る大きいスパンコールをいくつも付けて、観客席の後ろの扉から「Don’t Worry Be Happy」にのって、傘をさして踊りながら出てくる。
明るく軽やかに、浮き立つような音楽とステップ。
白いワンピースに真っ赤な靴下をはいて踊る姿は、小さい女の子が買ったばかりの真っ赤な長靴をはいて、雨降りを喜んでいるよう。
観客席を通って上手から舞台に上がり、軽やかに踊っていたと思ったら今度は観客に向かって「私は71歳です。みなさん一緒に71まで数えましょう」と言う。
1,2,3…と数える観客の声とともにグルグルグルグル回り始める南。
数える声を手振り身振りであおりながら、最後は満身創痍のグルグルグルグル。
71まで数えると息をゼエゼエさせながら、地を這うように踊り始める。
舞台上に置いてあった傘を持って開こうとするが、錆びついているのか、なかなか開けない。「まるで私みたい…」というつぶやき。
その後傘を持ってウワーッと振り回し、観客席にバーンと投げつけた。
 
傘が無くなった南はどこかホッとしたような、毒気が抜けたような表情で、気ままに踊りを楽しむ。
最後は次の出番である竹屋啓子から「ナムさーん、時間ですよ」と呼びかけられ、「仕方ないなあ」とでも言いたげに踊りを終わらせて帰って行った。
前半の軽やかな少女のイメージとは打って変わって、『千と千尋の神隠し』の湯婆婆のように強欲な老婆が現れるときがあり、力強くて、潔くて、自由で、少しやり切れなくて、「生きていくってこんな感じだよな」という妙な説得力があった。


ロビーに置いてあった彩られたピアノ


 
そして特筆すべきは山田せつ子の「ないてたらねあそぶ」。
黒のワンピース姿で、植物をさしたペットボトルを手に歩いて登場。
カン、カン、カンという無機的な金属音が弱くなったり、強くなったりしながら鳴り響いている。
音と闘うように、闇と闘うように、自身の弱さと闘うように、劇的な構成や演出をすることなく、ひたすら自分の体で何ができるか実験を繰り返しながら踊る。
手に持っていたペットボトルを舞台下手に置くと、さらに動きは激しくなり、顔をつかんだり、床に転がったり、厳しさと切なさが透けて見えてくる。
 
山田は手の表情がいい。
年輪を重ねた筋張った手で観客にまじないをかけるような動きや、仏像の印を思い起こさせる高貴で美しい形など、次から次へ、めくるめくフォルムが湧き出てくる様は即興ダンスを追求し、言葉をしゃべるがごとく、ダンスのフォルムを追求してきた山田ならでは。
老若男女の観客にエンターテインメントとして舞台を楽しませる南とは対照的に、闇を背負い、見る者にも容赦しない厳しさを突き付けるようなダンス。
金属音は決して耳心地のいい音ではないが、山田のダンスを展開させ、イメージの扉を開くにはうってつけの音だった。
そしてダンスは厳しすぎるゆえの諦めのように、ほころびや緩みが顔を出し始める。
短調のクラシックにのってだんだんほどけていく姿は、許しや妥協、譲歩、折り合い、「うまくいかないことばかりじゃないよ」とでも言いたげな、辛い中にもかすかな希望が見えるような展開だった。
 
全体として70代でもここまでできる、踊れる、動ける、メッセージを伝えたい人々がいる、ということが励みになるような舞台だった。
創作舞踊の畑に長年座り込んでいるダンサーたちはやはりしぶとい。

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