【安曇野から発信する潤一博士の目】54~松本盆地 その3~火山灰層
松本盆地南部には、主に木曽御岳火山起源の火山灰が分布しています。古い順に、梨ノ木ローム層、小坂田ローム層、波田ローム層と区分されています。これらの火山灰層には、九州など遠方の火山の火山灰が薄い層ではさまれています。九州各地や山陰の大山などの火山灰です。これらは広域火山灰と呼ばれ、松本盆地と各地の堆積物を対比するのに役立っています。御岳火山の火山灰の中にも、関東地方にまで広域分布するものがあり、松本盆地の堆積物と関東地方の堆積物を対比するのに役立っています。前回に触れたように、房総のチバニアン決定に古期御岳火山の火山灰が役立ったのです。
(1)梨ノ木ローム層(78万年前~40万年前)
古期御岳火山起源の火山灰層で、松本盆地では梨ノ木礫層中にはさまれています。辰野の荒神山では梨ノ木ローム層の風成層が厚く分布していましたが、開発によって失われてしまいました。伊那谷でも風成層の全容は不明です。
(2)小坂田ローム層(写真①②③④⑤)
新期御岳火山の前半にもたらされた火山灰層で、継母岳をつくる火山噴出物に対応しています。この時期の御岳火山は爆発的な噴火が多く、多量の軽石を噴出しました。その代表が御岳第1軽石(Pm-1A)(写真①の白い層,④,⑤)で、関東地方にまで広く分布するうえに、10万年前という噴出年代が測定されているので、各地の研究に役立っています。松本盆地南部や伊那谷では、Pm-1Aの厚さは30~50㎝に達します。小坂田ローム層の年代は、ほぼ10万年前~7万年前。
(3)波田ローム層
ほぼ6万年前~3万年前の新期御岳火山の後半の火山灰層。御岳山周辺では、同火山灰層基底に一層の軽石層(千本松軽石層)をはさむ外はスコリア質の火山灰層で、松本盆地南部では厚さ数mに達します。盆地内の波田段丘面上に厚く(3~5m)堆積しており(写真⑥)、山形村や松本市波田では小石一つない農地を形成しており、長いもやスイカの産地として貢献しています。
(地質学者・理学博士 酒井 潤一)