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【宮沢賢治と私】④~詩人・画家 いせひでこさんとの出会い
1998年の秋、「風の又三郎絵本原画展~違う感性で描かれたふたつの又三郎」を企画しました。一作は小林敏也さんの『風の又三郎』、そしてもう一作がいせひでこ(伊勢英子)さんの『風の又三郎』でした。いせさんの原画をお借りするのは初めてのことでした。私はいせさんに熱烈なラブレターをお送りして思いをお伝えし、『風の又三郎』の他に、『ざしき童子のはなし』もお借りすることになりました。
いせさんの東京のお宅に直接原画をお預かりに伺うことになり、夫の酒井潤一に運転してもらいました。様々な打ち合わせをすませ、いせさんはコーヒーを入れて下さって、部屋の隅に黙って座って待っていた夫にも「運転手さんもどうぞ」と声をかけて下さいました。初対面で私が夫を「運転手です」と紹介したからです。夫は黙ってコーヒーを頂き、帰り際に、いせさんに名刺を渡しながら自己紹介したのです。「あらやだ、ご主人だったのですね」と、一気にうちとけました。
新宿の画廊でいせさんが個展をひらかれた時、やはり夫と一緒に出かけました。そこで「麦畑の自画像」という100号のアクリル画と出会いました。宮沢賢治とゴッホの共通点を見いだし、研究をされているいせさんですが、この絵は、手前の麦畑と奥のひまわりの間を、切り裂くように「よだか」が飛んでおり、その中に「賢治?ゴッホ?いせさん?」がたたずんでいるという意味深な大作です。これは、私が持つべき絵だと確信しました。察した夫がこの時この絵を購入してくれたのです。お陰で森のおうちの宝物として「いせひでこ絵本原画展」の時には、たびたび皆様にご覧頂いております。
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植物をテーマにした絵本が多いいせさんは、地質学者である夫とも親しくさせていただいております。NHKカルチャー松本教室で、夫が講師をつとめた「氷河時代の日本」4回講座にも通っていただいた事もあります。なんだか、童話作家でありながら、様々な科学にも精通していた宮沢賢治が結んでくれたご縁ではないかと思うのです。
いせさんは数多くの名作絵本を生み出し続けておられ、毎年「いせひでこ絵本原画展」で新しい世界を来館者にご覧頂いておりますが、いせさんと私たちの出会いの原点は賢治絵本『よだかの星』、『ざしき童子のはなし』、『風の又三郎』、『水仙月の四日』 なのです。賢治の世界を全身でとらえ、まるで自分の身を削るように作品に取り組まれるいせさんの精神性が、見る人の心に伝わるからこそ深い感動を呼ぶのです。ことに『よだかの星』の最後、よだかが星になるシーンは魂をふるわさずにはいられません。生命へのいとおしさ、生きとし生けるものへの深い思いは、その後のいせさんの作品の随所に表現されています。
28年の当館の歴史を振り返りつつ、大切な原点をわすれてはならないと感じています。
(絵本美術館 森のおうち 館長 酒井倫子)
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