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わが研究人生(道半ば)

研究者の視点からのエントリー第1号です。このエントリーでは、私の専門としている分野、研究活動を始めた時期ときっかけ、研究へのモチベーション、の3点についてまとめます。

何を研究しているのか

私が専門としている分野は「公共経営」です。公共経営はとても守備範囲の広い分野ですが、研究対象と研究手法(アプローチ)を簡潔に整理すると以下のようになります。

・研究対象:中央政府、地方公共団体、公営企業、公益法人、NPO法人などの公的組織
・研究方法:基本的には経営学的アプローチ

日本における公共経営の歴史はとても浅く、「NPM(New Public Management)」と呼ばれる考え方が浸透してきた20世紀後半頃が起源と言われています。NPMとは、公的組織のマネジメントに民間企業の経営手法を取り入れることで質の高い公共サービスを提供しようという概念のことです。NPMの考え方が公的組織のマネジメントに浸透していった一方で、民間企業では、CSR(Corporate Social Responsibility)に代表されるように社会的な責任に応える経営が重視されるようになりました。このように、20世紀後半以降、公的組織と民間企業のマネジメントの考え方や手法の垣根は相対化しつつあります。

公共経営の分野の中でも私が長年取り組んできているテーマは、公共事業の効率性です。公共事業には「国民の利益を追求する」という大目的があり、その実施に際しては最も機能の高いモノを最も安く手に入れることが求められます。つまり、公共事業を実施する国や地方公共団体は、少ないインプットで多くのアウトプットを出さなければなりません。このアウトプットの量をインプットの量で測ったものを”効率性”と呼びます。

この効率性を定量的に、かつ正確に分析することと、公共政策が公共事業の効率性に与える影響を検証することが私の研究テーマです。詳細は別の記事にまとめようと思いますが、最近は、国や地方公共団体といった、いわゆる"行政"と民間企業が連携して公共施設等を整備する「PFI(Private Finance Initiative)事業」と、空港や上水道、下水道などの「公益事業」を対象に研究を行っています。

いつから研究しているのか

何を以て「研究を始めた」と言うかによって答えは大きく変わってきますが、私にとっての研究人生のスタートは高校時代だと思っています。

私が通っていた高校は大学の付属校だったため、定期試験で7~8割の成績を収めていれば本格的な受験勉強をせずに大学に行くことができました。その代わりに私は、社会勉強のつもりで地元・横浜を拠点にしていたまちづくり系のNPO法人のインターン生として活動していました。

そのNPO法人での活動を通じて、私は自然と"公共"の世界に関心を持つようになりました。NPO法人制度について研究していたと思えば都市計画系の本を読み漁っていたり、日本の大都市制度について研究したりと、関心の対象は幅広かったように見えますが、"公なるもの"への探究心は一貫していたように思います。

高校時代の経験から大学では公共経営を学びたいと考え、進学先を決めました。大学進学後は行政経営論を専攻するゼミに所属し、行政改革を中心に学びました。大学3年生の時にはゼミの仲間と書いた論文が外部のコンクールで賞を取りました。このことが論文を書く楽しさを知るきっかけとなり、社会人になった今でも研究を続けるモチベーションにつながっています。大学に入って初めて公共経営を体系的に学ぶことができたわけですが、大学での学びは間違いなく今の私の礎になっています。

ちなみに、私のこれまでの関心の対象の移り変わりは以下のとおりです。これからも変わっていくのかそれとも変わらないのか、神のみぞ知るといったところでしょうか。

【私の関心の対象の変遷】
NPO法人⇒都市計画⇒行政改革⇒公共事業(PFI・公益事業)⇒???

なぜ研究するのか

研究の面白さは分野によると思いますが、私の研究へのモチベーションは、"新しきを知る喜び""高い壁への挑戦心"が源泉となっています。

大げさに言うと、研究という行為は今まで明らかになってこなかったことを自分の手で明らかにすることができるわけです。私はまだ研究者として未熟であるため査読付き論文(他の専門家から成果を認められた論文)を持っていませんが、そのレベルの論文を書き上げた時の喜びを味わってみたいと常々思っています。そういったある種の憧れに似た感情が私を突き動かしているのかもしれません。

また、公共経営のように公共的な課題に向き合う分野には絶対的な正解はありません。存在するのは100点満点の答えではなく、課題に関係する人々(ステークホルダー)が納得するような"最適解"です。この最適解というのは非常に厄介で、人によって合格点が異なっている中で全員の合格点を超えるような答えを探し出さなくてはなりません。それゆえ、答えにたどり着くまでに途方もなく時間がかかります。しかし、そのような高い壁への挑戦心も私の研究へのモチベーションの源泉の1つとなっています。

私の大学時代の恩師は、「公共的な課題に対する答えの質は、それを導き出すのに費やしたコストに比例する」とよく言っていました。その言葉を胸に刻み、私は今日も終わりなき旅に出ています。

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