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【上野原講座】里山を中心に流域でみていく保全と再生(2022年3月)

開催日時:2022年3月5日(土)・6日(日)9:00〜18:00

●概要
鶴川から、支流の仲間川流域の水脈機能と人の動線をつなぐ作業。作業前のミーティングで、地方図、流域図、地形水系図、字図を見て、全体の位置関係及び、本流河川(ここでは相模川)の上流から河口までを把握し、その支流(仲間川)各ポイントで行われる流域水脈の環境改善作業を理解します。

鶴川沿い桜並木の環境改善

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集落の方から、鶴川の土手にある桜並木がだんだん弱ってきたという相談を受けて始まった環境改善作業は、今年3年目を迎えました。
道路からの泥水流入や根周囲の水脈の目詰まりによって土が締まり、空気と水が浸透しなくなっている表土と地下の脈をつなげ、桜の根の通気改善を行う作業です。

ツルハシや三叉鍬を使い、桜の木から見て、土手の傾斜の高いほう(道路側)に道路に沿うように溝を掘り、その溝から緩やかな蛇行を描きながら河原まで溝を掘り、要所要所に点穴を開けていきます。水が滞る場所は、溝を掘るとグライ化が見られます。土手斜面を雨水が走らずに地下浸透をするよう意識しながらの作業です。炭と落ち葉などの有機物を混合したものを撒き、溝が泥やアクで詰まらないようにカバーしていきます。さらに「風の草刈り」を行うことで、暴れるように伸びている草の太い根が細根化し、全体を風がつくる穏やかな風景になるようにしていきます。2日間にわたって作業を行いました。年々良くなってきているので、今年の開花が楽しみです。

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雨水の流れを予想して、水が走らず、縦に浸透するような溝と点穴を掘る。
風が草を揺らすポイントで刈る「風の草刈り」後の風景。

大欅まわりの通気環境改善

鶴川近くの社にある大きな欅が傷んできているので、根のまわりの通気を促すために、周辺の大地にエアスコップで点穴を開けて、溝を掘り、草刈りと竹やぶの整備を行うなどしました。風通し間伐を行うことで大気圧に押されて、地上と地下の空気対流がつながっていきます。

田んぼの苗代の下地づくり(場所:芦垣地区)

田んぼの藁を移動して、畦の内側に沿って周囲にぐるりと10センチ程度の溝を掘り、溝に炭をまいていきます。そのうえに、藁を戻してカバーします。
溝を掘ることで、空気が土の中に入ります。さらに、夜間に水蒸気が表層に上がってくるので霜柱ができ、それが日中解けて……を繰り返すうちに、表層がやわらかくなって、ひび割れていきます。冬の間に地面がひび割れて空気がよく通る状態になっていれば、春に田んぼに水を入れたときに、ひび割れに水が浸透しますが、底のほうは、ひび割れずに粘土層が保たれて、湿地帯状態になります。

田んぼは畦に囲まれていることによって、水がなくても空気はたまっている湿地状態になっています。なので、乾燥して底が抜けるということはなく、常に水が保たれています。それが畑と田んぼの大きな違いです。
溝や点穴に炭を入れるのは、土の詰まりを生み出すアクを消す目的( ①通気通水②保水保気③耐圧④泥コシ)で、炭の通気性と緩衝機能、磁気的な循環機能を利用するために、状況に応じて大・中・小の炭を使い分けます。

溝を掘ったあとに炭を撒くことで、土の詰まりを生み出すアクを消す。 この後、枯れ草などを被せることで、溝に泥が溜まるのを防ぐことができる。

畑の環境改善と春夏野菜のタネ蒔き(鶴川地区・甲東地区)

1日目は、夏野菜のタネを蒔く畑の畝立てとタネ蒔きを行いました。畑の土の詰まりを改善するために、人が歩く通路と畝の際に点穴を開けます。できるだけ人が踏まないところに開けることが大事。穴に炭を一握り入れて、枯れ草などでカバーします。畝を立てるときには、鍬、三角ホー、移植ゴテを問わず、イノシシが穴を掘るように8の字を描くような掘り方をします。タネを蒔くために引く筋も、同じように8の字を描くように浅く掘っていき、タネを筋蒔きしたら風が土を運ぶように細かな土を軽く被せます。一般のように耕して均してという直線的な方法をとらない理由は、自然の風や雨が大地にしているのにならっているのです。これを意識してやることで空気と水が縦方向と横方向に動き、土が締まりにくくなります。

生えている草は、タネの発芽の邪魔にならないように、根本から刈って、畝間に置くことでクッションになり、畝間の土が直接踏まれて固くなるのを防ぐことができます。また、なかなか発芽しない場合は、タネの周囲に小さな点穴を開けて、空気の循環を促します。2日目はジャガイモも植えました。

畝を立てて、通路と畝の際に、ジグザグに点穴掘る。

2日目は、別の畑で、周囲にぐるりと畦溝を掘り、畑の中にも畝の間に溝を掘ります。重要なのは、周囲の畦溝を畝溝よりも低くすること。畦溝に比べて、畝溝が低かったり、同じレベルだったりすると、排水されず、畑の中に空気と水が滞ってしまいます。

畑周囲を囲む溝は、畝溝のレベルよりも低くことで通気排水を促す。
田んぼと畑の空気と水の流れ(対流)の状態。

お茶(寒茶)の採取(甲東地区)

お茶は、主に初夏に新芽を採取するものと思われていますが、実は冬の寒い時期の厚い葉には栄養があり、美味しいことも事実です。そこで、みんなで寒茶摘みをしました。

環境改善としては、お茶の木1本ごとに周囲に5cm(モグラ穴的)点穴を開けて、空気と水の通りを促しました。ほぼ一列が枯れている場所があり、そこの土を掘ってみると、土の中に氷がありました。空気と水が滞っている証です。隣りの列のお茶の木は元気に育っているので、同じ畑でも、植えたときの状態やその後の管理などで大きな違いがあることがわかります。

お茶の木一本一本のまわりを囲むように、移植ゴテで点穴を開ける。

縄文トイレの簡易補修

木と木の間に、深さ1メートルほど(深さはケースバイケース)の穴を掘り、笹などで囲い、屋根をつけた縄文トイレ。周囲から笹を刈って囲いの補修を行いました。縄文トイレは、用を足した後に落ち葉などを被せておくと、土壌微生物が分解し、周囲の木の根が吸う循環型のトイレ。災害時などにも役立ちます。

講義から抜粋した言葉

環境改善作業とは、大地と生きもの呼吸の関係を紡いでいくことにほかならない。そのためには自然にならい、自然地形と同じような「安息状態」にすること。安息状態とは、空気と水が永続的に、大地と大気の間を等加速運動しながら対流している状態。

大地には、上空1万メートルの大気圧がのっているが、空気と水の抜け道があることで循環が保たれているのが自然本来のすがた。ところが、現在の人の開発(主にコンクリートによる構造物)により、大地の水と空気の抜け道が塞がれて、循環が損なわれている。水脈は、人の体にたとえれば血管のようなもの。この詰まりが大地の呼吸不全を生み出している。大地に施す小さな改善作業を行うことで、そこに棲まう動植物たちがその作業を助け、水脈につなげるバトンリレーが行われる。表層約5センチを移植ゴテで掘ることで、動植物たちが動きはじめ、水脈がつながり、大地が呼吸を取り戻し、流域全体が改善されていく。人の作業と動植物たちの作業のキャッチボールが重要。

老木が枯れるとき、枯れたからもう終わりというのではなくて、枯れたからこそ空気を通してやると、枯れ木は息を吹き返す。そしてその木らしい役割を最後まで担っていく。また、本来木が枯れるというのは、まわりが詰まっていて、自分が枯れることで、詰まった環境に空気を通そうとしているすがたでもある。ポツポツと枯れていく植物たちは、枯れることで空気の抜け道をつくり、そこから大地の空気循環を呼び戻そうとしている。枯れた木の実態を大事にしていけば、次々とプラスのバトンリレーが見えてくる。次の命が育まれるまで、やりきって朽ちていく老木のすがたは本当にすごい。人も最後の最後まで、こう在りたいと思う。

次回は2022年4月の講座についてまとめます。


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