森信雄の風景 飛べない鳩の源さん①
源さんはブハラトランペッターという鳩である。顔も隠れて見えないし、トランペッターのような羽毛が足にからんで、飛べない。愛玩用に生まれてきたらしい。妻がペットショップの片隅で見つけて、通うたびに値段が下がっていた。ある日行くと二羽いたはずが一羽になっていて「買おうか」と言うことになる。「たまたま輸入してきたのですが、珍しい鳩なので可愛がってくださいね」店長さんに説明を聞いて我が家に来ることになった。
一日目、源さんはうんともすんとも言わず静かながら、反応がなかった。私は例によって寝転んで詰将棋を作るのだが、数日後のことだった。源さんが将棋盤の隅のひょっこり乗った。驚いて見るとすぐに戻っていく。翌日は盤の上で二歩進んだ。それから数日後に私の側まで来たのだ。愛想のない鳩やなあと思っていたので、コミュニケーションを取りに来たのが意外だった。
いつしか私に慣れたのか、寄ってきてじっと側で過ごすようになった。そのうちに餌もしっかり食べるようになり、ケージから出して一緒に過ごすようになった。私が動くとついて来る。居眠りすると、そっと静かにそばで添い寝するような関係になった。トイレやお風呂までついてきて、じっと待つようになった。
当時パグのトビオも部屋で一緒に過ごしていたが、トビオも私の横で雑魚寝するのが得意だった。源さんは気丈にトビオには対抗心を燃やした。私は二人に挟まれて過ごすのだが、ときどきは衝突しないか冷や冷やしていた。
私は子どもの頃から、犬、ニワトリ、カメを飼っていて世話をするのが好きだったので、今も似たような暮らしぶりである。そんな中でも源さんは私を自分の連れ合いと思っていたようだ。妻が通りかかると闘志をむき出しにして威嚇する。
実がペットショップでは雄と聞いていたので「源さん」と名付けたのだが、実は雌であることが判明する。ある日卵を産んだのだ。かわいそうな命名をしてしまったと後悔したが、なじみ深い源さんで行くことにした。卵を抱えてからは、妻を通じて私を呼び「卵を見ていてよ」と言う表情で私をにらみつける。私は源さんがえさを食べる間、じっと卵を抱えていた。食べ終わるともういらないとばかりに、私も戻らされる。
いろんな動物たちと一緒に過ごしたが、もう一度会いたかったのが源さんである。ペットショップで源さんのブハラトランペッターと言う種類の鳩が全国にいないか尋ねたが「いませんね」それほど貴重な種類の鳩だったのは知らなかった。<続く>