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夢の中へ帰る

夢を見たことを久しぶりに起きた後も覚えていた。

以前よく夢の中に出てきた、知らないはずなのによく知っている場所に私は居た。

煙のように消えてしまった、あの町へまた帰って来たのだ。


今までと少し違っていたのは、その町から別の町へ電車に乗って出かけ、またあの町へ帰ろうとしていることだ。

だけれど、私は帰れない。
降りる駅の名前が思い出せない。

夢の中で私は迷っていた。

仕方がないので次の駅で降りることにして、徒歩であの町へ戻ろうと思った。

そしていつも通り、これは夢だと夢の中でわかっている。

頭上を電車が走る薄暗い高架下の道を私は歩いてゆく。
あの町へ帰ろう。
町の名前が口をついて出そうなのに、あともう少しのところで思い出せない。

そうだ、今度また他の町へ行く時は、スマホでビデオに撮りながら歩けばいいのだ。
目に付く建物や店の名前、今どこを歩いているのか声に出して録音もしておけばいいのだ。
現代版ヘンゼルとグレーテルのように目印として記録しながら行くのだ。
我ながらいいアイディアじゃないか。

そこで目が覚めた。


夢の中で考え事をしていたせいか、いつもよりもひどく疲れていた。
夢のつづきを見ようとしたり、コントロールしようとすると、とても疲れる。



どこからかライラックの匂いが
僅かに開いた窓から部屋へ忍びこんでくる

香りを辿りながらライラックの咲く場所を突き止めたくなる

あれ?この感じ、夢の中でも覚えがある

夢の中でもライラックが咲いていたのだろうか…

白夜の夏は
午前零時になっても仄かに夜空は明るく
朝4時にはもう陽が昇り始める

此処では夜がとても短く
昼間はとても長い
少しづつ時間がズレ始め
人々はあまり眠らなくなり
夜更けまで外を歩き廻る

月も星も見えない薄明の夜に
ライラックだけが
呼吸するように薫っている












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森野 しゑに
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