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恋人の話

 わたしは頭の中で文章をしゃべりながら生きています。というか描写する癖があるらしく、集中しなくてはならない場面でもふっと別の思考が入ってきてトリップしてしまうタイプです。
たとえば、

・二人で向かい合わせでお酒を飲んでいる
・鰤がひと切れ残っている
・話が盛り上がっている

っていう場面だとしたら(このレベルなら箇条書きしようと思えばできるのですが)、わたしの普段の思考だとぜんぶがひとつに繋がってしまって


「お酒が進むにつれて白熱していくわたしたちの会話を、放置されたひと切れの鰤が黙って聞いている」

……みたいなことになっちゃうんですね。脚色癖があるのかもしれません。

 所謂論理的思考や論理的な話し方っていうのがものすごく苦手なのは、上記のようにすべてを同レベルの事象としてまとめて捉えてしまうからだと思います。そのせいで物事をひとつひとつ切り離して考え、取捨選択をしたり順番を入れ替えたりする作業ができない。こういう自分の思考の癖に最近やっと気がつきました。

 こういう脚色癖が活かせるのってなんだろう、と考えてみると、やっぱり恋愛的なロマンチックな場面の描写ではないかとたどり着いたので(迷走)、恋人とのエピソードをちょっと書いてみようと思います。勝手に載せて怒られそうだなぁ。

 井の頭公園の桜は、もうほとんどがその短い盛りを終え、薄桃色の絨毯として最後の仕事をこなしていた。時々柔らかな春の風が吹いて、枝にしがみついていた花びらを突然に世界へ旅立たせる。それらは幼いこどもの手のひらとカメラのレンズに追いかけられて、まるで逃げるようにひらりひらりと軽やかに舞っていた。ふと、開花のタイミングを寝過ごして置いてけぼりを食らった赤く小さい蕾が、これまた小さな葉っぱを引き連れて、隣を歩く彼の頭上に静かに降りてきた。わたしは彼の髪の毛に着地したその蕾をつまみ、怪訝そうな表情の彼に
「付いてたよ、これ」
と笑い、赤い実をそっと手放した。

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