スズメはまねっこが得意!街歩きがちょっとたのしくなる野鳥のひみつ【愛鳥週間】
前回の投稿で、桜がきれいだなんて話をしましたが、わたしがいる東京では、もうすっかり桜は散って、季節はどんどん梅雨、夏へと向かっています。
皆さんのお住まいの地域ではどうですか?
わたしは満開の時期もそうですが、
桜が1枚1枚舞う時期もきれいで好きなんですよね。
風がたくさん吹かなくとも、はらはらと落ちる様子も目を奪われますよ。
そんな中で、花ごと落ちている桜を見たことがある方はいらっしゃいませんか?
こんな感じです。
わたしは昔の記憶で、学校や学校の帰り道に5枚の花びらがすべてついた、花ごと落ちているのを発見し、ラッキーなんて拾った記憶があります。
よくよく考えてみれば、何故だろう。
桜自身がそうしているのか、風で取れるのか、はたまた誰かがちぎったのか。
でも桜はそもそも花ごと落とすことはしないらしい。
子孫を増やすためには、付け根についているタネを作る部分は落とすわけにいかないから。だから花びらを1枚1枚落としていくけれど、花ごと落ちることはないみたい。
なぜ落ちるのでしょうか?
その答えは後ほどお話ししたいと思います。
街中には、さまざまな植物や鳥、虫がいて、知っていたり、見ていたりはするけれど、そのひとつひとつの行動を考えることはあまりしていない気がします。でも少し知見を得て考えて、妄想してみると自分の世界が広がって楽しいです。
今日はそんな経験をしたわたしの話です。
教えて、栁澤先生!
今回、知識をわけて下さったのは、わたしの森の師匠ではなく、栁澤紀夫先生です。
栁澤先生は、元日本鳥類保護連盟の理事で、中学生の頃からバードウォッチングを続けている鳥博士。現在80歳にもかかわらず、猛禽類の保全など、一貫して野鳥と自然環境の保全に関わり、今なお精力的に活動をされています。お元気すぎて正直驚きます。
1973年にサントリー株式会社(当時)が始めた愛鳥キャンペーンに、当初から協力されていて、「天然水の森」の鳥類に関する助言や提言を通して、サントリーとの関わりは続いているらしい。
もう50年もサントリーと関わりがあるってことです。わたしの歳の約2倍と考えるとすごい。
そんな栁澤先生については、また今度詳しく話そうと思うのですが、先日先生とお話しする機会があって、合間の時間に花ごと落ちている桜のナゾについて教えてもらいました。
ヒヨドリの舌の先は筆のよう
わたしは都内に住んでいます。
都内にいる鳥といえば、カラス、ハト、スズメくらいしかいないと思っていました。というか見分けようとか、他の鳥がいるかも、とかそういう思考にまず至ってなかった。
でも少し前に師匠とバードウォッチングをして以来、なんだかわたしの周りに鳥が増えたような気がします。
なにも、師匠がわたしに特殊な何かを埋め込んで、鳥たちが寄ってきやすくした、なんてことは当然なく、わたしが彼らを「認知」し始めたんだと思います。
そんな中で最初に見分けがつくようになったのが、「ヒヨドリ」です。
ボサボサ頭で、チークしたように赤いほおが特徴です。よく聞いてみると声がやたら大きいかも。
彼らの大好物は花の蜜。
花の蜜には栄養があります。植物は花粉を運んでもらうための報酬として花から蜜を出して、虫や鳥を誘き寄せ、彼らに花粉をつけて運んでもらっています。
花粉の運び屋のメインは虫だけど、ヒヨドリも一役買っています。
よくクレープを口いっぱいに頬張ってクリームが口や鼻の先について、
「あ、ついちゃった!」
と悔しくもかわいい技を持っている人がいるけれど、まさにそんな感じで、
ヒヨドリも、花に顔を突っ込んで蜜を吸うもんだから、顔にメイクしたみたいに花粉をつけているらしい。おちゃめ。
(桜ではそこまでつかないらしいけど、ツバキとかはたっぷり付くみたい)
まぁ、ヒヨドリはあざとさなんて微塵も考えてもいないだろうけど。
そして実は、ヒヨドリ(メジロも)の舌、筆みたいになっているんだそうです。
鳥には歯がなく、食べ物を食べるのに舌が重要な役割を果たす。なので、くちばしだけでなく、舌も食べ物に合わせてそれぞれ多様な進化をしていて、ヒヨドリの舌は、花の蜜を効率的に吸い上げるために、筆のように先端が細く枝分かれしているみたい。
たしかに書道で筆に墨をつけると、じわっと上まで墨が浸透しますよね、あんな感じです。きっと。
余談ですが、同じく蜜が好きな世界最小の鳥、ハチドリの舌はストロー状のような管状になっていてすっと吸い上げるらしい。
進化ってすごいな〜。
スズメはまねっこが得意
スズメはきっとみなさんにとっても身近な鳥ですよね。
地面をぴょんぴょんと跳ねては、何かをつついていたり、ちゅんちゅんとかわいく鳴いていたり。
よく見るとほおにある黒い模様がもみあげみたいだったり。
そんなスズメは、よく他の鳥を見ています。
そしてもちろん、ヒヨドリがちゅーちゅー桜の蜜をおいしそうに吸っているのも見ているわけです。
スズメは元々草の種食なのです。
ですが、ヒヨドリのそんな姿を見て、スズメたちは
「私たちも、桜の蜜吸いたいわ」
なんて思うらしいのです。
でも、想像してみてください。
スズメのくちを。
口ちっさ!
くちばし丸っこ!
そして舌も短いし、筆のようにもなっていないらしい。
スズメは、かたくても割れる、もしくは、かたい殻を取り除けるように、短めで上下に力を加えることができる、くちばしをしているらしい。
そうです。
花の蜜を吸いたくても、ヒヨドリと同じようには吸えないんです。
それでも彼らは諦めません。最初は上手くできなくても、試行錯誤を繰り返します。
そしてたどり着いた方法が、桜の花の付け根をかじること。
蜜は付け根部分に溜まっているので、そこからほんの少しの甘さを感じることができるのです。
ほら、こんな風に。
突然すぎる、冒頭のナゾの答えの発表です。
花ごと落ちている桜は、スズメの仕業だったのです。
ヒヨドリのまねっこをして桜の蜜を味わいたかったスズメの食べ残しなのです。
そして、これ、すべてのスズメができるわけではない、というのがおもしろいところ。
遺伝子的に、桜の付け根を噛めば甘い蜜が味わえる、と知っているわけではないのです。
ヒヨドリを見て、真似をしたくなって、かつそのやり方を思いついたスズメだけができる技。そのため、そのスズメがいない区域では、桜の花ごと落ちている、という現象は見られないということです。
この話を栁澤先生に教えてもらったのは、つい先日。
花ごと落ちている桜をよく拾っていたわたしにとって、ものすごいたのしいお話しだったのに、もうすでに桜が散った頃。
「桜が舞う時期に知りたかった〜」なんて頭を抱えると「ハハハ」なんて優しく先生は笑っていました。
はぁ、来年見つけるか、なんてしょぼくれていたのですが。
街中を歩いていたら、
あれ。
これってもしかして!スズメの仕業なのでは!?
近くて見てみると、ちぎったような、噛んだようなあとがあるかも。(そう思いたいだけ)
先生!これはスズメがヒヨドリのまねっこをして蜜を味わった跡ではないですか!!
そう思って栁澤先生に聞いてみたところ、
桜の蜜を吸う場合は、この写真のように付け根数ミリのところを噛むらしいので、わたしが見つけたものは風か何かの仕業の可能性が高そうでした・・・。
それでも、
もっと桜が咲き誇る時期にスズメはじっとヒヨドリが蜜を吸う様子を見ていて、うらやましくなったのかな、とか、かじってみて甘い味を感じたときどう思ったのかな、とかいろいろな想像が広げることができました。
この雑学を知らなければ、そもそも今回は花ごと落ちた桜に目もくれていないかもしれないし、見たとしても、「かわいい〜」くらいにしか思わなかったかもしれない。
こういう雑学を知るってやはり、楽しいですね。得して生きているという感じ。
鳥は環境のバロメーター
ご存知の通り、野鳥は空を飛べます。
そしてわたしたちが想像しているよりもずっと頭がよく、目もいい。
だから自分たちが住みやすい場所を選べるわけです。
つまり、野鳥が生き生きと棲んでいる環境は、人の生活にとってもいい環境ということになります。
逆に言えば、野鳥がいない環境は、壊れてしまった環境なのです。
師匠が始めた「天然水の森」の活動よりも前の1973年。
野鳥は環境のバロメーターだ、と気づいたサントリーは「愛鳥キャンペーン」を展開します。
その頃はちょうど第一次オイルショックの時。
それまでの高度経済成長期で環境汚染が露呈していたときだったようで、今一度環境に目を向けよう、鳥がいないこの環境に気付こう、と約20年間で100回以上も新聞広告を打ち出したらしい。
それから、「サントリー世界愛鳥基金」を作ったり、アホウドリ保護を目的としたアホウドリのキャンペーンを実施したり、とさまざまな活動をしてきたそうです。
今回お話を聞いた栁澤先生は、1973年の新聞広告からサントリーと一緒に活動しています。
そんな「サントリー愛鳥活動」について栁澤先生と師匠が話している動画を見つけてしまいました。(お二人ともちょっと若い!)
そして、サントリーは「日本の鳥百科」というページも作っているのですが、その鳥の特徴の説明部分は栁澤先生の知見がたっぷりと反映されているみたい。
例えば、スズメのページはこんな感じです。
人のそばで暮らしているのに、人にいちばんいじめられていたというのも驚きですし、だからあんなに大慌てで逃げていくのか、という納得感もあります。
他の鳥についても、今回お話ししたようなちょっとした雑学も盛り込まれています。
ぜひお気に入りの雑学を見つけてみてください。
鳥を見て妄想する1週間
身近にいる鳥について知れば知るほど、まったく別の世界を覗き見しているようでおもしろいです。
こういう特徴があるなら、こうなのかな、ああなのかな、あれはどうなのかな、とか勝手に想像が膨らんだりして。ちょっと愛着が湧いてくるというか。
さてさて、5月10日から5月16日までの1週間は「愛鳥週間」って知っていましたか?
「愛鳥週間」は栁澤先生が元々理事をされていた日本鳥類保護連盟が定めたもの。
詳しくは、ぜひこちらを見てみてください。
さまざまなイベントや活動が行われたりもするようですが、なにも、実際に鳥を守るための何か行動しなくてはいけない、というわけではないと思います。
登校するとき、出勤するとき、散歩するとき、何気ない日常の中で、耳を澄ませて鳴き声を聞いてみたり、わたしが今日お話ししたみたいな雑学から、何かを妄想してみたり・・・。
せっかくの「愛鳥週間」。
街にちょっとくり出し、鳥に思いを馳せる1週間にしてみたらおもしろい発見があるかも、と思います。
もし何か見かけたり、新しく知れたことがあれば、ぜひ教えてくださいね。