(公)日本鳥類保護連盟・元理事 栁澤紀夫先生とバードウォッチングしてきた/森のヒト
この日はあいにくの雨模様。
1秒でも傘を差していなければ、びしょびしょになるくらいの本降り。
そんな雨の日、前回の記事でも登場した、鳥博士である栁澤紀夫先生に鳥のことを教えていただきながら、バードウォッチングするために、国立科学博物館の附属自然教育園へやってきた。
附属自然教育園は、港区白金台という大都会の中にある森。車通りの多い道路の脇を歩き、園の門をくぐると、緑に包まれる。
まるでワープしたかのような、不思議な感覚を味わえます。園内では、オオタカが営巣するほどで、植物だけでなく、さまざまな鳥たちが暮らしています。
ただ、この日は雨。鳥も雨はあまり好きではないらしい。
鳴き声はたまに聞こえるものの、なかなか姿を見せてくれないなぁ、なんて思いながら歩いていると、栁澤先生はなにかをじっと見つめていました。
わたしも同じように、目線の先を追ってみる。
目線の先には、園内にある沼があって、その沼に雨の波紋が描かれていました。
栁澤先生は、その沼上にせり出た木を指し示し、
「あそこの木に何かいる?」と。
その木の下は、他の部分と比べ、明らかに波紋が多く、そこに集中的に雨粒が落ちていることがわかります。
あ、なるほど。その木に鳥がいて、鳥が動くことによって雨粒が落ちているのかも、と推測したのか。
わたしのような素人は、わかりやすく空を飛ぶ鳥を探したり、
こんなふうに堂々と歩く鳥を見つけたりすることしか発想がなかった。
鳥と向き合い続けている方は、こうした自然が示す鳥のサインをきっと逃さない。かすかな鳴き声、そこに生えている木々の種類、ちょっとした変化をじっと観察して、あの鳥がいるかも、そこに何かいるかも、と推測を立てているんだ。
そして、推測できるくらい、鳥が棲む環境、つまり鳥の食べ物である植物のこと、土や岩のことなど広く知り尽くしているんだ、と素人ながら感じた。
その証拠に、栁澤先生は園内に生えている植物についてもたくさん教えてくださった。
こうした何かととことん向き合い続けている方の姿勢や視点に触れると、自分だけでは見つけることができなかったものが見えるようになる。新しい目をもらった感じ。たのしい。おもしろい。
「森のヒト」はじめます!
「サントリー 天然水の森」は、たくさんの生命や水にとっての理想の森を追い求めています。そしてその活動は、サントリーの力だけではなく、水の専門家、植生の専門家、鳥の専門家などさまざまな分野のプロたちが集結し、もっともっと理想に近づけるように森と向き合い続けています。
そして、話を聞いていると、そんなプロたちは、知識が豊富なのはもちろん、ユーモアに溢れた、人として魅力的な人たちばかりのようなのです。
そんなの、一度お会いして、お話を伺って、そしてnoteで紹介したいではないですか。
ということで、「森のヒト」と題して、「サントリー 天然水の森」に関わる方たちを順番に紹介していこうと思います。
実はしれっと、このシリーズは始めていて、わたしの森の師匠である山田健さんのことを以前紹介しました。
そして、今日は冒頭からお話ししている栁澤紀夫先生をご紹介していきたいと思います。
改めまして。
栁澤先生は(公)日本鳥類保護連盟の元理事で、中学生の頃から鳥を見続け、鳥のためならどこへでも足を運ぶ鳥博士。
ツルが来ることで有名な鹿児島県出水市に行った時も、その場にいたほとんどの人と顔見知りだったらしい。(一緒にいった父が驚いていた。)
そして、現在80歳にもかかわらず、鳥の観察はもちろん、猛禽類の保全など、一貫して野鳥と自然環境の保全に関わり、今なお精力的に活動をされています。
栁澤先生とサントリー
栁澤先生とサントリーの関わりは約50年にもなる。(来年50周年だ!)
1973年にサントリー株式会社(当時)が始めた愛鳥キャンペーンに、当初から協力されていて、「天然水の森」の鳥類に関する助言や提言を通して、今もなおサントリーとの関わりは続いています。
「サントリー 天然水の森」は現在日本全国に21ヶ所あります。それらの森はひとつとして同じ森はありません。
だからこそ、まずはそれぞれの森を知る必要があります。
どんな環境なのか、どんな植物があるのか、どんな鳥がいるのか、そしてどんな課題があるのか。徹底的に調査をします。その結果を元に、その森との向き合い方を決定していくのです。
鳥の種類、生態、そして鳥が棲む環境としての課題を栁澤先生に助言してもらうため、これまで何度も、共に「天然水の森」へ入ってきた。
助言をもらいながら森を歩いたり、
みんなで双眼鏡をのぞきながら、鳥を観察したり。
栁澤先生のおかげで、生まれたプロジェクトもある。
「天然水の森」では、生態系ピラミッドの頂点に位置する猛禽類の保護のために<ワシ・タカ子育て支援プロジェクト>を展開しています。
ワシやタカが子育てできる環境、というのは、彼らにとっての食糧となる小動物も元気に生きている環境。そして小動物が元気に生きている、ということは彼らの食糧となる植物なども豊富にある環境・・・。ワシやタカが子育てできる環境、つまり、そこは豊かな森なのです。
だからこそ、「天然水の森」では、<ワシ・タカ子育て支援プロジェクト>に取り組んでいるのですが、そのプロジェクトのアイディアは、なんと栁澤先生とわたしの森の師匠がお酒を飲みながら雑談していた時に生まれたものらしい。
あるなぁ。こういういいアイディアってなぜか、お酒の場で出てきて、「え、素晴らしくない!?」ってなって、ポンポンと企画が進んでいく、という。
その後も、栁澤先生のさまざまな助言の元、プロジェクトは順調に進行しています。
他には、 “バードウォッチング講座”もよく開催されていたようです。
栃木県栃木市にある、“サントリースピリッツ 梓の森工場”。
ここにはコナラやクヌギの群落が広がり、里山として利用されていた頃のことを偲ばせる森には、多様な生き物が暮らしているようで、この日も多くの昆虫や鳥を見ることができたらしい。
例えば、こちら。
アオジの巣立ちビナ。かわいすぎる。モフモフしている。絶対ダメだけど、触りたい。ずっと観察していたい。わたしならそう思う。
でも、栁澤先生は、その時いたメンバーに対して、
「そろそろ、行きましょう。我々がここにいると、親鳥が雛のところに行ってあげられませんから。」
と伝えたらしい。
うん、そうですよね。
この言葉から、栁澤先生の自然に対する真摯な姿勢が感じられる上、わたしたちが自然に対する上で、忘れてはならないとても大切なことが、込められている気がします。
先生のそういった姿といえば、もう一つエピソードがある。
2013年10月、サシバというタカを観察しに、愛知県の伊良湖岬を訪れた時。主に猛禽類の見分け方のレクチャーをされていたようですが、その合間でミユビシギを見つけた時のこと。
当時わたしの父も同行させてもらったみたいですが、ミユビシギにカメラを向ける栁澤先生の姿をみて、こんな文章を残しています。
それほど、カメラを構える後ろ姿に感銘を受けたようです。わたしは常々写真ってその撮影者らしさが丸見えだよな、と感じるのですが、きっと構えから栁澤先生の鳥や自然に対する姿勢が表れていたのかもしれません。
おわりに
園内を進んでいると、傘を地面に置いて、何やら作業をしている職員の方がいました。(写真左部)
全員びしょ濡れで、採寸したり、植物を観察したり。
その様子を見て、
「わー雨の中大変そうですね。」
わたしは、こう発言した。
それに対して、栁澤先生は
「楽しそうじゃないですか。みんな好きなことやっていて。」
と。
はっとしました。
わたしはすっかり、彼らが笑顔で作業しているということを見落としていたのです。
鳥のこと、環境のことだけではなく、人間としての視点もいただきました。
鳥の話をしている時の栁澤先生は本当に素敵な笑顔をしています。心から楽しいと思えるものを知っていて、それと同時にその奥深さや厳しさも知っている方だからこその視野の広さ、視点なんだろうなと思います。
今回の附属自然教育園でのバードウォッチングや、父から聞いた昔の話を通して、栁澤先生の人としての奥ゆかしさを、心から感じました。
それが、皆さんにも伝わっているといいな、と思います。