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水の味が変わる!?「花崗岩」の成り立ちを探ってみた。Part 2

さて、前回、太古の地球での花崗岩かこうがんの誕生についてお話ししました。
今回は、ついに北アルプスと南アルプスの花崗岩の成り立ちのちがいを探っていきます。

それを理解するためには、まず、地球の“動き”を理解する必要があるので、そこからお話ししていきたいと思います!

まだ読んでいない方は、まずこちらをどうぞ!

動く地球

「大陸移動説」という言葉を知っていますか?

1912年。
アルフレッド・ウェゲナーという人が、

「大西洋を挟む南北アメリカと、ヨーロッパとアフリカを合わせた海岸線の形が、海をなくせばぴったり一つにくっつくぞ」

と発見し、実は地球のすべての大陸は、かつては一つの超大陸で、それが分裂して今の大陸分布があるのだと提唱した学説です。

当然世界中の学者から小バカにされていたのですが(天才って一度は絶対小バカにされがちですね)、その後、次々に、この学説を支持するような発見が続きます。

ただ、どうしてもわからないことがありました。
それは、陸を動かすためには、それを駆動する大きな動力が必要だという点でした。
一体何の力が動かしたの?状態だったんですね。

その点を解明したのが、「プレートテクトニクス」という理論だったのです。

簡単に言うと、地球の表面は、いくつものプレートに分かれていて、それぞれのプレートの境目で、古いプレートは地下深くに沈み込み、プレートの反対の「海嶺」と呼ばれる部分で、地下深くから玄武岩溶岩が上がってきて、新たなプレートを作り続けているのだ、という説です。

この地球にはまだ謎が多くて、このプレートの沈み込みがいつ何で始まったのかは、まだ解明されていないみたいです。
おそらく、前回お話しした、太古の地球で花崗岩のかさぶたが次々に誕生していたような時代に小惑星の衝突があり、その結果、誕生から時間がたったために冷えて重たくなった玄武岩地殻がマントルへの沈み込みを始めたのがきっかけだったのでは・・・なんて仮説が唱えられているみたいです。

まぁとにかく、このプレートが動き、沈み込むことによって、プレートの沈み込み帯特有の火山活動が誕生し、北アルプスと南アルプスをつくる、花崗岩の元となる花崗岩マグマが誕生するのです。

プレートの沈み込みでできる花崗岩

さて、プレートが沈み込むことで、なぜ花崗岩が誕生するのでしょうか。

こんな風にマントルの中にプレートが沈み込みます。
地球の内部に沈めば沈むほど、プレートは熱く、高い圧力がかかります。

さらに、沈み込むプレート上部の海洋地殻は水を含んでいます。

海水を含んだ玄武岩は、高温高圧の地下に沈み込むにつれて変成作用を受け、一部の鉱物が「含水鉱物」という、分子の中に「水」の元になる酸素と水素をもっている鉱物に変化します。
(海水の一部は、浅いところで絞り出されて、温泉水のもとになってるのもあるらしい)

そして、その含水鉱物が、地下110キロと170キロあたりの2か所で、更に高い温度と圧力によって変成され、再び水が絞り出されるのです。

さぁ、出てきました。「水」です。
前回も散々登場しましたが、水は鉱物の融点を下げる役割がありました。

プレートから絞り出された水が上にあるマントルに供給されると、マントルの融点が下がり、溶けやすい成分から溶けていきます。部分融解です。

すると、何が起きるか覚えていますか?

はい、玄武岩マグマが生まれます。(イラストの★の部分)

玄武岩マグマはマントルの中を上昇して(マントルより軽いから)、大陸地殻の直下で一旦マグマだまりを作ります。

この時、大陸地殻の最下部にある水を含んだ玄武岩地殻に熱が供給されて、再び部分融解が起こり、花崗岩マグマが誕生します。(イラストの◆部分)

このメカニズムは、太古の地球でかさぶたができたのと同じです。

ただ、プレートの沈み込み帯の花崗岩マグマについては、これとはちがう方法で誕生する花崗岩もあるらしい。

ややこしいな、もう。
この辺り複雑すぎてわたしは大混乱。
師匠に何度「ちょっと待った」したことか。

寄り道花崗岩

このネーミングが正しいのかは置いておいて、花崗岩になる前に別の岩になるよ、ということです。

玄武岩マグマがマグマだまりの中で(イラストの◆の下部の部分)で、熱いまま長い間滞留していると、カンラン石や輝石などの、重く、結晶化しやすい成分が、マグマだまりの下に沈殿していきます。

そうするとマグマだまりの上部はそれらの成分が抜けたものになります。それが、玄武岩と花崗岩の中間的な組成の安山岩質マグマです。

その後、カルシウムに富んだ斜長石なども結晶化して沈殿し、マグマの成分はどんどんケイ素やナトリウム、カリウムなどの軽い成分に変化していきます。

そして、花崗岩質マグマができるわけです。

成分だらけでややこしく感じるかもしれませんが、、、
これまでお話ししてきたのは、玄武岩の一部が「溶けて」花崗岩ができていました。
今回は、玄武岩マグマの一部が「結晶化」して、安山岩が、安山岩の一部が「結晶化」して花崗岩ができたということです。

こんな風に分類されています。

余談ですが、大陸地殻の下部の玄武岩が部分融解してできた花崗岩マグマ(「プレートの沈み込みでできる花崗岩」でお話しした花崗岩)と、下から上がってきた玄武岩マグマが混ざりあうことでも安山岩マグマは生まれます。
そして、日本の安山岩火山の大部分は、このタイプみたいです。

リサイクル花崗岩

もうひとつ、成り立ちが異なる花崗岩があります。
それは「リサイクル花崗岩」です。名前の通り、一度別物になり、そして再び花崗岩になったもの。

実は日本列島の骨格は、ほぼ付加体ふかたいでできています。
この付加体というのは、大陸の花崗岩などが風化し、砂や粘土になったものが、海の深いところまで流され、高い水圧で砂岩や泥岩などの堆積岩となります。

それがプレート移動により、大陸の下に沈み込む際に海洋地殻からペリペリとはがされ、大陸のヘリにくっつきます。(砂岩・泥岩だけでなく、石灰岩やチャートなども一緒にはがれてくっつきます)

それが付加体です。

その付加体の中に花崗岩マグマがぶつかることで、その温度で付加体の堆積岩を溶かします。それらは、溶けて混ざり合うと、再び花崗岩になります。これがリサイクル花崗岩の正体です。

ちなみに、元は花崗岩でほぼ同じなので、ほとんど見分けはつかないらしいですが、専門家が分析すれば、はっきりとちがいがわかるらしい。すごい。

そうやって、この花崗岩はどこからやってきたものなのか、わかるということですね。

しかも、その分析によって、これまで説明してきた異なる成り立ちの花崗岩が混じり合ってできた花崗岩なんてもののあるらしく、一言で「花崗岩」と言っても、それぞれにちがいがあるみたい。。。

奥が深すぎる。花崗岩。

北アルプスと南アルプスの花崗岩は、どう違う?

ということで、これまで花崗岩の成り立ちを説明してきましたが、ついに本題である、北アルプスと南アルプスの花崗岩のちがいを探っていきます。

ここまで長かった。

沈み込み帯の花崗岩は成り立ちがたくさあるんだぞ、と言っておきながら、この二つの花崗岩は、共に大陸地殻下部の玄武岩の部分融解という意味では同じみたいです。(「プレートの沈み込みでできる花崗岩」でお話しした花崗岩)

ただ、出来た時代と岩体の大きさがまるでちがう。

まず、北アルプスの花崗岩。
元々大陸はひとつだったなんて話をしましたが、日本列島は実は中国大陸のヘリにくっついていました。

北アルプスの花崗岩は、そんな6000万年前に地下深くで誕生しました。

その頃、イザナギプレートというプレートが存在していました。
(ちなみに日本列島の元となる付加体をつくったプレートらしい)

イザナギプレートが中国大陸に沈み込むときに(今は完全に沈み込み、存在しない)、大陸地殻下部の玄武岩を部分融解させてできた花崗岩のようです。

「天然水北アルプス」の水源になっている餓鬼岳がきだけ周辺の花崗岩は、6000万年の歳月の間に上に乗っていた堆積岩をすべて崩落させ、さらに花崗岩の上部も崩しながら地下深くから隆起してきたものです。

もともと巨大な花崗岩体の中心部分に位置しているため、鉱物の分化も進んでいて、石英やカリ長石の割合が多く、カルシウムの多い斜長石の割合が少なくなっています。
(先程の成分表で言うと、かなり右側のような特徴)

水への影響としては、結晶が大きく、水との接触面積が小さいこと、石英やカリ長石は、斜長石に比べて風化が進みにくいため、鉱物からのミネラルの溶け出しも比較的少ないので、すっきりした超軟水になる傾向があるということです。

一方、南アルプスは、というと。

北アルプスの花崗岩に比べると、とても新しい花崗岩です。

といっても、できたのは1400万年前。

この時期は、中国大陸からはすでに離れていました。

日本列島はまったく今の形とは異なり、東北日本と西南日本でわかれ、間にフォッサマグナという大きな溝がつくられ、さらにその割れ目に向かって伊豆島弧の最初の島々がぶつかってきた時代です。

ものすごいざっくりしたイメージはこんな感じ。

プレート移動の様子(渾身のざっくり絵)

とにかく、このあたりは、溝ができたり、ぶつかったり、いろいろあって、そういう複雑なプレートの沈み込みで生まれた花崗岩のひとつ。

いろいろと大変な中で誕生した花崗岩のためか岩体自体は比較的小さい上に、現在頭を出しているのは、岩体の周縁部のため、鉱物の分化が比較的進んでおらず、斜長石や角閃石などの有色鉱物の割合も比較的多いのが特徴らしい。
(先程の成分表で言うと、花崗岩マグマの中の左側のような特徴)

そのあたりの河原に転がっている花崗岩の割れ目を見ると、おもしろいものが発見できる。

マグマが上昇してくる途中で、周辺の堆積岩が落ち込んで、溶けないで残り、軽く変成した黒や灰色の「捕獲岩」。
本当に囚われたみたいになっていますね。

こちらは泥岩の捕獲岩。

泥岩の捕獲岩

こちらは砂岩の捕獲岩です。

砂岩の捕獲岩

「捕獲岩」が多数見られるのも、この地域の花崗岩の特徴のようです。

水への影響でいうと、もともと斜長石が多いため、カルシウムやナトリウムが溶け出しやすい上に、先述しましたが、結晶の大きさが比較的小さいので、水に触れる面積も大きく、そして、この地域は白州断層という巨大な断層と、それに付随する細かい断層が縦横に走っているため、その断層のはたらきで鉱物の風化が進んでおり(擦れるため)、その結果、北アルプスに比べると、ミネラル分が多く、キレのある味わいのミネラルウォーターを生み出しています。

それによって、
「北アルプスの水は、花崗岩層の大地に磨かれた、やや甘さがあり清涼感がある味わい。一方
南アルプスの水は、同じく自然のろ過装置である花崗岩層かこうがんそうをくぐり抜けた、まろやかさとキレがある味わい。」

という、前回の記事の冒頭でお話しした、「サントリー 天然水」の北アルプスと南アルプスの味のちがいが生まれてくるというわけです。

以上、「水の味が変わる!?「花崗岩」の成り立ちを探ってみた。」でした。

近くに「北アルプス」「南アルプス」がない方は、ぜひ旅行などに行った際にチェックしてみてください。(東京は大体「南アルプス」があります!)

ちなみに、今回紹介しなかった「阿蘇」は安山岩。「奥大山」はデイサイト(まーた新しい名前出てきちゃって)。この辺りの話はいつかまた師匠に聞きたいと思います!!

これらの故郷については、こちらで紹介しているので、合わせて読んでみてくださいね。