COVID-19の医学情報をどう扱い行動するか(4)唾液の量と質を確保する
「ウイルス侵入のリスクを少しでも減らすために、私たちが出来ること」は、ここまでお話したそれぞれのシステムを確実に作動させるということです。それに必要なものは何か、考えてみましょう。
いちばん多いのは、唾液
粘膜の防御システムの鍵を握っているのは「粘液」だとお話ししました。
新型コロナに最初に暴露される領域での粘液には気道粘液、涙液、そして唾液がありますが、その分泌量には大きな差があります。
気道粘液;鼻腔からノド、気管、そして末端の気管支に至る気道に分泌される粘液の量は1日あたり10~100mlです。この量で呼吸器粘膜の防御機能を担っています。
涙液;いわゆる「なみだ」です。常に目の表面をおおってを乾燥を防いだり、酸素や栄養を届けたりする働きをしている涙の量を「基礎分泌」といいます。これが不足するといわゆる「ドライアイ」になるのですが、その正常な分泌量は1日にわずか2~3mlです。もちろん、目に異物が入ったり、悲しかったり感動したりといった時には分泌量はもっと多くなります。
唾液;防御バリアのほかに食事の時にも大量に分泌される唾液は、トータルで1日に1~1.5リットルもの量が分泌されています。食事が1時間、睡眠が7時間と仮定するとそれ以外の安静時には1日あたり300ml弱(1分間に0.3ml)が分泌されていることになります。気道粘液や涙液と比べて、唾液の分泌量はかなり多いことが分かります。
ですから、食事などの刺激がない安静時の唾液分泌が減った状態、ドライマウスは粘膜の防御機能をトータルで低下させる恐れが大きいといえるでしょう。実際、呼吸器のウイルス性感染症とドライマウスの関係を指摘した研究も発表されています。
「安静時唾液」を減らさない
唾液について整理してみましょう。唾液を分泌しているのは耳下腺・顎下腺・舌下腺の三大唾液腺と、口腔内に無数に存在する小唾液腺です。
3大唾液腺
森永宏喜 著「歯周病はすぐに治しなさい!口腔から老化と心臓・腸・脳の大病がはじまる!」(株式会社さくら舎より2020年5月刊行予定)より引用
唾液には普段から持続的に出ている「安静時唾液」と、食事をした時などに大量に分泌される「刺激時唾液」があります。刺激時唾液の中心選手は耳下腺ですが、ドライマウスに関わりの深いのは安静時唾液で、その6割を担っているのは顎下腺です。
ドライマウスを避けるためには、そうなる原因に対処する必要があります。加齢に伴う減少など避けられないものもありますが、そうした生理的な減少よりも頻発するのは、病的な原因や人為的な原因によるものです。
唾液が減少する病気
糖尿病が発見される症状のひとつに「口が乾く」というのがあります。貧血や腎機能障害でも唾液は減りますし、自己免疫疾患のシェーグレン症候群の代表的な症状がドライマウスです。これらの病気への治療はドライマウス対策にもなります。水分をしっかり摂って脱水状態を避ける必要があるのはもちろんです。
薬剤の副作用
抗うつ剤や抗ヒスタミン剤、降圧剤など、唾液分泌を減らす副作用のある薬剤は非常に多くあり、沢山の方が服用されています。可能であれば他の薬剤への変更が望ましいですがそう簡単ではなく、難しい対応をせまられます。ドライマウスの方がこのような薬剤を服用していたら、主治医に相談してみるのも大事なことです。
「ストレス」で唾液が枯れる
ちょっと違う角度から考えると、唾液腺の機能を低下させるものに色々なストレスがあります。精神的ストレスは緊張系の自律神経である交感神経を優位にします。すると唾液腺をはじめとする消化器官のはたらきは抑制され唾液の量は減ってしまいます。新型コロナによる将来への不安や自粛疲れなどは粘膜の防御力を奪い、ますます感染リスクを上げることにもなるのです。
「酸化ストレス」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。簡単に言えば「体を錆びさせて、様々な機能を傷害して病気や老化を加速させる」ということですが、特に唾液腺はこの酸化ストレスに弱いことが分かっています。
ドライマウスと歯周病の「密」な関係
酸化ストレスの発生源は様々ですが、ドライマウスと直接関連していて、しかも私たちの大多数にとって無視できない問題が歯周病です。次の記事からは、成人の8割がかかっているともいわれる歯周病が唾液の力、そして免疫力や老化にどのように関わっているのかをお話ししていきます。
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