病院から地域へ、精神障害に悩む方の「日常」を支え続ける。いまコモレビが描く未来
「どのような境遇のひとにも、尊厳をもって生きられる場を。」というビジョンを掲げる、株式会社ソシエテを経営する森本真輔と申します。
現在は、自宅に訪問してのメンタルケアサービス「コモレビ」という事業を中心に運営しています。2018年7月に独立してソシエテを立ち上げ、今月で創業5年目を迎えました。
最初はたったひとりではじめたこの会社ですが、メンバーも利用者も増え、最近は本当にサービス・体制が充実してきました。
コモレビをスタートしてからはまだ1年3カ月ですが、その準備期間を含め、試行錯誤の連続だった5年間を、節目に入るタイミングで振り返りたいと思い、noteを書くことにしました。
これまで得られた手応えも踏まえつつ、これからチャレンジしていきたいこと、メンタルヘルス領域で実現したいビジョンなどを記しましたので、ご関心を持っていただけた方は、ぜひお読みいただければ幸いです(記事の末尾に、一緒に働いてくれる仲間の募集情報も掲載しています)。
2018年7月~2019年末:暗中模索期
ソシエテという会社は、ビジネスモデルを練り込み、仲間や資金を集めて華々しいスタートを切った、というような会社ではありません。
わたしが自分で会社・サービスをやろうと決めたのは、2018年1月。イギリスのソーシャル・セクターのリーダーたちと現地で議論・交流する機会を持ったことがきっかけでした。(そのときのことはForbesに寄稿にしました)
そのイギリスでの経験を踏まえ、また、その2か月前に父が亡くなったことを受け、当時、あらためて自分自身の「これから」を考えたときに、
「自分自身が『こうあるべき!』と思える社会像に対して正直でありたい」
「自分が思い描く理想の社会には『どのようなサービス・インフラがあるべきか』、ゼロから、利害関係なく、考えたい」
「そうした理想を実現するために、自分の時間を使いたい」
と思うようになりました。
そして、当時「雇われ社長」として働いていた会社に退職を伝え、その会社の決算上の区切りである6月末まで責任をまっとうし、卒業。
2018年の7月に入り、ソシエテという「箱」を、とりあえず作りました。
最初はとにかく暗中模索でした。
メンタルヘルス領域とだけ決めていたものの、良いアイデア(=いまの社会にはないが、実現すれば社会的インパクトが大きいもの)がなかなか見つかりませんでした。
アイデアを探しているだけでは食べていけないので、これまでの人生で頂いた「縁」の中から、ヘルスケアやソーシャル・セクターのコンサルティングの仕事をいただき、生活をしていました。
正直この時期については、具体的なサービス・アイデアが浮かんでこない苦しさやつらさのほうが強くこころに残っています。
それでも、あらためて幅広くヘルスケア・医療の領域/エコシステムを学び直せたという意味ではとても貴重な時間でしたし、この時期を支えてくれた仲間には感謝しかありません。
2020年~2021年3月:準備期
いま取り組んでいるメンタルケアサービス「コモレビ」の
「メンタル不調の早期介入につながるような精神科訪問看護」
「カウンセリングのように利用できるサービス」
というコンセプトが見えてきたのは、2019年11月頃。
2020年の頭に「これに取り組もう!」と決め、そこからリサーチや、メンバー集め、サービス準備を進めました。
精神科の経験を持つ看護師の方や精神科医、当事者の方から就労移行支援事業所などの周辺プレイヤーまで、数十件のインタビューを実施し、仮説を進化させていきました。
一番苦労したのは、サービスの核となりコモレビのコンセプトを体現できる看護師メンバー探し。それでも、妥協をせずに探したことで、本当に素敵なメンバーに出会えたなと思っています。
「質」を重視して準備を進めた結果、実際にサービスをスタートできたのは2021年4月。着想からスタートに1年半近くかかってしまいました・・・。
2021年4月~現在:コモレビのスタート・拡大
準備の時期は思った以上に時間がかかり、まったく順風満帆ではなかったのですが、サービスのスタート後はさらに「強い逆風」という感じで、まったく思い通りにモノゴトが進みませんでした。この1年も本当につらかった。苦笑。
行政書類の申請ミスがあったり(これは完全に自分のせい)、コアメンバーの緊急入院やコロナ感染などが相次いだり、思わぬところで足元をすくわれることが何度もありました。
わたし自身もずっと現場のオペレーションにかかりきりになり、会社経営に頭を使う時間がほとんど持てませんでした(それでも、経営者は「経営」をしないといけないので、本当に反省しています)。
そんな中でもコモレビのサービスが徐々に浸透する中で利用者も増え、また、目指すところに共感してくれる新しいメンバーも加わりました。
ようやく先月ぐらいから体制の拡充・整備が進み、あらためて目線を上げることができるようになってきました。
いま考えているコモレビのこれから/ビジョン
コモレビは、精神科訪問看護の枠組みで提供する保険適用の対話サービスと、全額自己負担のカウンセリングという2つのサービスから成り立っています。
2つのサービスから成るという意味では、コモレビ自体はサービスではなく「ブランド」と言った方が良いかもしれません。
どちらも大切なサービスですが、どのような経済状況にある方でも、こころの問題に悩んでいる人であれば、だれでも利用できるという点で、わたしがいまブランドの基盤としたいと考えているのは前者の精神科訪問看護のサービスです。
少し抽象的な書き方になりますが、社会的にマージナライズ(周縁化)されていたり、弱い立場に置かれた人たちにこそサービスを届けたいという思想が、その根底にあります。
この思想は、アフリカの辺境で感染症対策に取り組んでいたときも、不登校支援の会社で働いていたときも、根底にあるものとして変化していません。
少し話が逸れましたが、精神科訪問看護のコモレビを社会のインフラにし、こころのサポートを必要とするすべての人に届くサービスにするとは、具体的にどのような意味を持つのか。どのような社会の実現を目指すことなのか。
ここでは、いま見据えている3つのビジョンを書きたいと思います。
(1)精神科に入院される方を減らす(ゼロを目指す)
日本の精神科の病床数(人口当たり)は、OECD諸国の中でも突出して高い水準にとどまっています。
また、平均の在院日数も突出して高いことから、病院の外=地域で、精神障害に苦しむ方をサポートする体制がまだまだ弱いと言えます。
OECDはこうした日本の「脱施設化」の遅れを課題として指摘しており、近年は厚生労働省も強い危機感をもって取り組みを進めています。
近年は少しずつ改善が進んでいるとはいえ、精神障害に悩む方が自立した、自分らしい生活を送れるように支援をする地域のリソースはまだまだ足りていません。
もちろん、入院病床がゼロというのが理想かどうかは分かりません。それでも、人口当たりで日本の10分の1、20分の1という病床数で精神医療が実践されている国が欧米にはあります。
こうした日本の精神科医療の現状において、
より多くの方に早い段階でリーチし、重症化を予防する(=新規入院者の削減)
退院後の地域での生活もしっかりと支援する(=再入院の回避)
この2つの機能・性格を徹底して強めること、特にこれまでの精神科訪問看護が十分に役割を果たし切れていなかった「重症化予防」という面で価値を発揮することで、コモレビが日本の精神科医療の変革に貢献できるサービスとなっていけると思っています。
また、個人的には、地域の精神科医療・福祉のリソースが充実することで、結果として医療費削減=国の財政課題にも貢献できると確信しています。
(2)精神障害に悩む方への早期介入と早期改善を実現する
精神科訪問看護というサービス・カテゴリ(=制度)は、メンタルの不調に悩む方であれば、本来だれが使ってもいいサービスです(注1)。
にも関わらず、いまのところ一般の方にはあまり知られていません。
これは、これまで精神科訪問看護という制度が厚生労働省が主導する精神科の入院病床削減を背景に拡大してきたためです。
よく言えば「精神障害に悩む方が、退院して地域で生活するための支援に注力・特化してきた」と言えますし、一方で「(入院を必要とするような)重症の方の支援に、サービスの提供が限定されてきた」とも言えます。
このような現状を変えるために、いまコモレビでは、
「フルタイムで働いているものの長年うつ病に悩まされており、定期的につらい気持ちを吐き出したり、困っていることを整理する場を必要とする方」
「現在は休職中だが、職場復帰に向けて生活のリズムを整えたり、自分がどのような状況でストレスを抱えがちか、内省を進めたい方」
というような、これまでこのサービス・カテゴリを使ってこなかった方のご利用を広げています。
これまでになかったご利用ケースをつくっていく中で、「コモレビさんだったら、この方の役にも立つのでは?」という期待を込めて患者さまをご紹介してくださる先生方にも、とても助けられています。
一度入院するほどまでに状態を悪くされた方にサービスをとどめることなく、もっと病気の早い段階でリーチし、早期の症状改善に貢献する。
こうした新しい流れを、更に加速させていきたいと考えています。
(3)精神障害に対するスティグマをなくす
日本では、精神障害に対するスティグマがまだまだ根強く、ときには精神障害に悩む方ご自身のセルフ・スティグマが、状態の悪化につながってしまうということも少なくありません。
セルフ・スティグマが強いために、なかなか社会的なサポートを受けることができないケースなども多く、この状況ではわたしが(2)で掲げた「早期介入」は絵空事となってしまいます。
これは自戒を込めてですが、われわれのような支援・サービスを提供する側の人間こそが、スティグマを産んでいる側面もあるように思っています。
「では、どうやってスティグマをなくしていくのか」については、ここでは具体的なことはいまはまだ書けないのですが、会社のひとつひとつの発信や勉強会であったり、スタッフひとりひとりの利用者との関係の作り方であったりに、現れてくるところかと思っています。
最後に
上述したビジョンをただの夢物語にせず、実際に「あるべき社会の姿」として実現していくために、いま全方位でソシエテ/コモレビに関わってくださる方を探しています。
ひとりひとりの利用者と向き合い、回復を支えたいと考える看護師の方
利用者と地域をつなげ、サービスの円滑な利用を促す精神保健福祉士の方
サービス開発や組織づくりに関心をもつビジネスバックグラウンドの方
メンタルヘルス領域に関心をもち、インターンを希望する大学生・大学院生の方
など、ご関心をお寄せいただける方は、ぜひご連絡ください。会社のフォームからでも、わたしのTwitterのDMからでも、どこからでも構いません。
また、看護師向け採用説明会も月に1~2回実施しています。
上記以外の方でも、精神科の医療従事者の方や研究者の方など、興味を持って下さる方、アドバイスいただける方、ぜひ情報交換をさせていただけると大変ありがたいです。
ということでだいぶ長くなりましたが、5期目もコモレビ/ソシエテをどうぞよろしくお願いいたします。
注1:利用に際しては精神科の医師の指示が必要です