カツセマサヒコさん『夜行秘密』お洒落小説だと思って読むと大火傷します。
本日はカツセマサヒコさんの『夜行秘密』をご紹介します。
なんだかものすごい小説を読んでしまったという感じです。
私はカツセマサヒコさんの本を読むのも初めてなのですが、完全に心を掴まれました。
一言では語り尽くせない。
心が壊れそうになるので、気をつけて読んで欲しいです。
この本は映画を観たあとのように、誰かと感想を話してみたい作品です。
indigo la Endのアルバム『夜行秘密』をもとに編み出された小説ですが、先入観なく読んでみて欲しいです。
「お洒落系小説では、断じてない!」
ということだけ最初に書いておきます。
私はこの物語には主人公なる人物がいないと解釈しました。
注目すべきは、登場人物たちの「念」であって、人そのものではないのかもしれません。
しかし、核となる人物はいます。
宮部あきら。
無名映像作家時代に映画の脚本で複数の脚本賞を受賞してから、時代の寵児としてもてはやされていきます。
映像制作や脚本、コピーライティングの会社を経営し、富を得ています。
しかし、才能はあっても、仕事もプライベートも裏切り行為を平気で行うので周囲からの信用がありません。
感情面で何か欠落しているような。
心の中にいいようのない闇が支配しているような人物です。
宮部に翻弄される登場人物たちは、それぞれバラバラの人生を送っているのですが、仕事の人間関係や、何かの悪縁によって繋がりを持っていきます。
宮部が起こした決定的な事件が、さらなる憎しみの連鎖を生み出します。
帯やしおりにも書いてある、「それは、彼女と僕だけの秘密です。」には、震えました!!
この言葉はとても重い意味を持っているのです。
そして、切ない愛の告白にもとれる。
このセリフとタイトルがカチッと一致したときに、放心状態になりました。
緻密に計画された「復讐」の首謀者が誰かということがわかったときに、愛情が消えたあとの冷酷すぎるほどの恨みを知りました。
愛した事実はどこに消えていくんだろう。
様々な人間模様から浮かび上がる、愛の終わりがとにかく恐ろしいです。
人は必死で生きて何かを成し、誰かを愛して愛されたいはずなのに、「怒り」の増幅はそれらをどうしようもなく叩き壊してしまう威力を持っているように思えてなりません。
物語に出てくる彼らも普通の人だったのです。
最初はどれもが小さな過ちだったのかもしれません。
しかし、破滅するしかない終焉を迎える救いのなさに、茫漠としました。
ポイント・オブ・ノー・リターン。
そこを過ぎると、人はもう後戻りができなくなるのかもしれません。
そのような逆鱗の粘着的な恐ろしさと、コントラストで浮かび上がるピュアすぎる愛を描いたのが『夜行秘密』の魅力です。
痺れるような心の痛みと小説の持つ迫力を、体感して欲しいです。
お洒落な薄っぺらい小説なんかでは、決してない。
小説を読んでから聴くと、世界観がまるで変ってしまう。