あの子の日記 「さよならリボン」
日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集
誰かが椅子を引いた。椅子の脚と床がこすれた音はトロンボーンの音色に似ていて、シより半音低い音程だった。
もしかしたらどこかに奏者がいるんじゃないかと周りを見回してみたけれど、ショッピングモール内の小さなフードコートには私たちと似たような中高生がいるだけだった。
「さっきの聞こえた?」
「なにが?」
「椅子引いた音がB♭だった。あそこの東高の子たちのところ」
3年前、受験で落ちた東高の制服は県内トップクラスの可愛さだった