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農業・漁業を肌で感じる教育旅行は、茨城で|森と未来の学校 茨城教育旅行モニターツアー 2日目レポート

茨城県の旅を通して、子どもたちの学び・体験のアップデート茨城の社会問題を旅で解決することを目指す「森と未来の学校」。アーストラベルだけでなく、茨城教育に関心のあるメンバーが集まり立ち上げた一般社団法人です。

「森と未来の学校」では、2023年2月11日(土)・12日(日)の2日間にかけて、茨城の良さを知ってもらい、教育旅行の可能性を知ってもらおうと、関東近郊の小中高の教員向けにモニターツアーを実施しました。

本記事では、アグリDayと題して、自然体験や農園を見学した2日目の様子をレポートします。

国内有数の科学の街・つくばを訪れた1日目の様子はこちらから

農業大国・茨城!普段の食卓を彩る野菜の約半分は茨城県産!?

出発は、午前8時。宿泊先の「ホテル日航つくば」からバスに乗車し、まずは、関東唯一の汽水湖・涸沼(ひぬま)へ向かいます。

モニターツアー2日目の最初のゲストは、水戸市内で「晴れ晴れファーム」の農園長をされる西村智訓(にしむら・とものり)さん。にっしーという愛称で親しまれています。涸沼へ向かうバス車内では、そんな西村さんから茨城の農業についてお話をしていただきました。

西村さんから語られたのは、東京都内のスーパーで売られている野菜の約半分が実は、茨城県産であるということ。就農以前は、都内で生活をしていた西村さん。スーパーを訪れた際、ほとんどの野菜が茨城県産だったことに驚いたそう。農家になるべく、就農先を探していた西村さんにとって、この出来事が茨城へ移住を決めた理由になったといいます。特別な日の料理で使用する野菜ではなく、普段の食卓を彩る野菜を自分の手で作りたいと、縁のあった水戸市へ移住し、就農しました。

城で栽培される野菜は、50〜60品目近くあり、これら全てが主要品目となるそうです。他県の主要品目数は、約20品目なのだとか。多種多様な品種を栽培していることも茨城の農業の特徴です。他県に比べると、派手なものや目立つものがないかもしれませんが、私たちの日常を彩る食卓を、陰ながら支え続けてきたのは、実は茨城県産の野菜なのです。関東近郊で働く参加者の皆さんと茨城は、意識せずともつながっている、そんなお話をしてくださいました。

作るだけではない!晴れ晴れファーム「&」で伝える、茨城の魅力

涸沼に到着後、自然体験の前に、西村さんの農園・晴れ晴れファームについても、ご紹介いただきました。

晴れ晴れファームは、JR水戸駅から車で約10分、那珂川沿いの豊かな大地にあります。約1.8ヘクタールの土地に、ハウスが3棟。長太ネギ、ブロッコリー、カリフラワー、ヤングコーンなど、主要6品目と西洋野菜を栽培しています。

西村さん曰く、晴れ晴れファームの最大の特徴は、晴れ晴れファーム「&(アンド)」であるということだそう。

この「&」は、農業にプラスして、さまざまな取り組みをお客様に提供しているからなのだそうです。例えば、水戸市の農家が集まり、新鮮な野菜を販売するマルシェや農家が実施する農作業の全行程を一通り体験できる農業体験、収穫した野菜をすぐその場でいただける農園キャンプなど。
つまりは、農産物を作るだけにとどまらない、プラスアルファ要素を取り入れているということになります。

こうした農業取り組みによって、地域との繋がりや関わりが増えたという西村さん。晴れ晴れファームが街の近くの手の届く範囲で、新鮮な野菜を作り、提供し続けているからこそだと思いました。

お話を聞いた参加者からは、西村さんが栽培した野菜の流通場所や農業体験に関する質問がありました。

野菜は、スーパーにある直売コーナーに卸しているとのこと。また、本来農家はトマト農家やネギ農家といったように、育てている野菜を名前に付けることが多いのですが、西村さんの場合は、あえて直売農家と言っているのだとか。直売コーナーに卸す、新鮮な野菜をすぐ皆さんのもとへ届けられる農家だからだそうです。

農業体験については、小学生のお子様を持つご家族が利用してくださることが多いのだそう。いずれは、東京や千葉など関東近郊の学校が体験学習先として、晴れ晴れファームを含め茨城に来てもらえると嬉しいと笑顔で語ってくださいました。

西村さんからの回答を経て早速、「茨城の野菜をテーマにした体験学習の案が浮かんだ」と発表してくださった先生もいて、大盛り上がり。教育旅行に関心のある先生方が参加されている、モニターツアーだからこそだと感じました。

そのほかにも、西村さんのお話で印象的だったのは、生産者と消費者という言葉を卒業するべきではないかとおっしゃっていたことです。農家は作って出荷したら終わりで、誰が農産物を食べているのか分からないという状態でもいいとされがちなのだとか。まさに作る人という意味の、生産者という言葉がその状態を示していると話されていました。消費者についても、ただ消費するだけというイメージがついていますが、食べることは生きる上でなくてはならないことであり、私たちの生活の一部。今後は、生産者は農業者あるいは農業人、消費者は生活者という言葉を使っていくべきではないかと話されていました。

こうした考えは、晴れ晴れファームが、作るだけにとどまらない「&」を提供し、街や市民に寄り添った事業を展開しているからだと思います。


豊かな自然と伝統ある涸沼を守り、後世に伝え続けていく

西村さんから晴れ晴れファームが紹介された後は、涸沼についての講話と自然体験へ。

茨城町、鉾田市、大洗町にまたがる、関東唯一の汽水湖・涸沼。まずは、茨城町にある「ひろうら直売所あいあい」にて、茨城町在住で、茨城町の観光ボランティアガイドを務める別所さんに、その魅力をお話いただきました。

涸沼には、ラムサール条約にも指定された貴重な自然環境名産品であるシジミなどがあります。絶滅危惧種のヒヌマイトトンボや、国の天然記念物にも指定された冬鳥・オオワシを見ることができます。

また、島根県、青森県に続いて、日本で3番目の生産量を誇るシジミは、茨城で生産される60%がこの涸沼で取れるのだそうです。ヤマトシジミと呼ばれ、そのサイズはシジミというよりアサリ。シジミは苦手だという人も、このヤマトシジミなら食べられるのだとか。良い自然環境が、新鮮で美味しいシジミを作り出しているのではないでしょうか。

涸沼が昔から守り続けているものは、お祭りにも。毎年7月には、あんば様に踊りを奉納するお祭り「涸沼あんばまつり」が開催されます。あんば様は、漁師たちを守る神様と伝えられ、且つ天然痘からも守ってくれる大切な存在だそう。江戸時代より、180年以上続く歴史を持ちながらも、コロナにより中止が続いてます。

感染症から人々を守ってくれた涸沼あんばまつり。茨城町の人々にとって、180年以上の時を経て、再び感染症から守ってくれるそんな存在だと、別所さんは語ってくださいました。

涸沼の自然についてお話を伺った後は、お待ちかねの新鮮なシジミを使ったお味噌汁をいただきました。その大きさと美味しさに、おかわりする参加者も。シジミが苦手な人でも食べられる理由がよく分かった気がします。

その後は、広浦漁港へ移動しました。漁師さんから、この辺りで取れる魚の種類や漁についてのお話を伺った後、実際に船に乗ります。

この日は、晴れていたことに加えて、心地よい風が、非日常的な世界へと参加者の皆さんを連れて行ってくれます。船の上では、先生同士、子どもたちにどんな体験をしてほしいか意見交換をする場にもなっていました。

漁港に戻った後は、船からいかだに乗り換え、いかだ体験をしました。パドルを持ち、協力しながらいかだを前へ前へと進めていきます。いかだレースをする際は、左右前後のバランスを考え、息を合わせることが大切だそうです。

涸沼の自然をたっぷり感じた後は、広浦漁港から徒歩圏内の「うおふね」で昼食をいただきました。涸沼産の天然うなぎと名物のシジミ汁に「美味しい~」といった声がたくさん。さらには、「うおふね」の皆さんと漁師さんのご厚意で、この日の漁でとれた魚をすぐに、サクサクの天ぷらにして、提供してくださいました。

大満足な体験となったにちがいありません。


”命をいただくこと”に感謝を込めて。アイガモ農法とその先を考える「ファームランドさいとう」

うおふねでの昼食後に向かったのは、お米をメインに、麦、大豆、ベビーリーフ、とうもろこし、ルバーブなどを栽培する「ファームランドさいとう」です。農園について、詳しくお話をしてくださったのは、斉藤卓也(さいとう・たくや)さん

斉藤さんの麦畑で、煮出した麦茶のサービスとともに、私たちを出迎えてくださいました。麦畑で麦茶を飲むというなんとも贅沢な時間です。

斉藤さんからは、ファームランドさいとうの最大の特徴ともいえる、お米の生産方法の一つ、アイガモ農法を中心にお話をお伺いしました。

アイガモ農法は、農薬や化学肥料を一切使わずに、アイガモと一緒に育てたもので、有機栽培のお米です。

毎年5月上旬、生まれたてのアイガモの雛がファームランドさいとうへやってきます。アイガモたちは、ハウス内で体力づくりをした後、田んぼの中を泳ぎ回ります。

アイガモは、雑草や害虫を餌として食べてくれます。また、アイガモが泳ぐことで、田んぼの水が濁ります。そして、太陽の光が土に届かなくなることで、土の中に雑草の種があっても光が当たらないので、発芽しないのだとか。
さらには、アイガモが継続的に田んぼをかき混ぜることにより、常に根っこ部分に酸素を供給、稲に刺激があたっていることから、稲が強くなり、大きな粒のお米ができるそうです。

以前訪問した際に撮影したあいがもちゃん

稲穂が垂れる時期になると、アイガモが稲穂を食べてしまうことから、アイガモのお仕事は終了なのだとか。

仕事が終わったアイガモたちのその後にも注目してほしいと話す斉藤さん。アイガモを野生に放すのではなく、最後にお肉となるからです。ファームランドさいとうでは、鴨飯などのお弁当を販売しており、お客様のところへアイガモが育てたお米とともに、カモ肉も合わせて提供されます。

「ご飯を食べるときに『いただきます』という言葉がありますよね。アイガモ農法は、命をいただくということ。そこに循環があるんですよ」と話す斉藤さんに、参加者の皆さんは熱心に耳を傾けていました。

普段聞くことがあまりないアイガモ農法について、茨城以外でも実施している方法なのか、メリットは何かといった質問が飛び交いました。

斉藤さんからは、全国的にも実施されている栽培方法で、無農薬の有機栽培の認証をとったお米であり、収穫量は少ないながらも、一粒一粒に美味しさがギュッと凝縮されているとの回答がありました。

そのほかにも、社会福祉施設と連携し、施設の利用者さんに大豆の選別作業をお願いするなど、農福連携も実施する斉藤さん。これらの大豆を利用し、納豆も販売しています。

この選定作業も、今回のツアー参加者の皆さんに体験していただきました。一粒一粒、真剣に選定作業をされる皆さん。

ファームランドさいとうのさまざまな取り組みを、肌で感じた訪問だったように思います。


取材・文 谷部文香



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