茨城の魅力と課題を考える、夏のフィールドワーク|鎌倉学園高等学校1年生探究学習レポート
2023年8月28日(月)・29日(火)の2日間にわたり、鎌倉学園高等学校1年生26名が「総合探究プログラム」の一環で、茨城県へやってきました。
学校で設定されたテーマの中から興味関心のあるものを選び、1年かけて探究学習に取り組む鎌倉学園の生徒たち。
「茨城の魅力を見つけ発信し、その過程で県の抱える課題を考える」をテーマに、夏と冬に、茨城を訪れます。
今回の夏のフィールドワークのテーマは「まずは、茨城へ行ってみよう」。
本記事では、夏のフィールドワーク1日目の様子をレポートします。
探究学習キックオフ!茨城を選択した理由とは?
1日目は、つくば市で科学と農業について学んでいきます。
まずは、今回の茨城探究に参加する26名の生徒から、自己紹介となぜ茨城での学習を選択したのかをお話いただきました。
すると、「同じ関東地方で近いはずなのに、茨城へ行ったことがないので知りたいと思った」という意見が多かったこと、また「茨城出身だが、今は住んでおらず、知らないことが多い」という理由もありました。
夏のフィールドワークのテーマのように、「まずは茨城を訪れ、茨城を知りたい」という生徒が多いように思います。
宇宙を作る、加速器について学ぶ「高エネルギー加速器研究機構」
最初のプログラムは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の藤本順平さんを講師に迎えて宇宙を作る、加速器についてお話いただきました。
そもそもKEKとは、どんな研究所なのでしょうか。KEKは、加速器(粒と粒をぶつける装置)と呼ばれる装置を使用し、宇宙や物質が何からできているのかなどを研究する施設で、世界に開かれた国際的な研究機関です。
科学の基本は観察することですが、その対象がもし見えないものだとしたら……。見えるようにするための装置が必要ですよね。そんな、目に見えない小さな素粒子の一種である「放射線」を観察する特別な装置が霧箱(きりばこ)です。
今回は、この霧箱を使った実験を生徒の皆さんに体験していただきました。
発泡スチロールを使ったキットに、ドライアイスとアルコールを用いて、素粒子の様子を観察していきます。普段は見えないものが見えるという不思議な体験。科学に関心のある生徒も多かったことから真剣に実験に取り組む様子が伺えました。
実験後には生徒から、
「KEKが日本最大の加速器を持っているとおっしゃっていたと思うのですが、最低でもどのくらいの規模がないと加速器として機能しないのでしょうか」という具体的な質問がなされました。
また、講話後には、藤本さんのところへ行き、直接質問をしている様子を見受けられるなど、選択制の探究学習だからこそ、科学への関心が高い生徒がより学びを深める機会になったのではないかと思います。
宇宙開発の中核を担う「筑波宇宙センター」
講話後に昼食を取り、次の探究学習場所である「筑波宇宙センター」へ。ここでは、宇宙航空開発施設の一部を見学できる、ガイドによる解説付きのツアーに参加しました。
ツアー内容は以下3つ。
筑波宇宙センター紹介映像上映
宇宙飛行士養成エリアの見学
「きぼう」運用管制室の見学
「きぼう」運用管制室とは、24時間体制で、宇宙ステーションの映像やデータを監視する場所。実験装置などをリモートで操作しながら、宇宙飛行士と交信して実験の指示を出しています。
ガラス越しではあるものの、普段はなかなか見られない、宇宙飛行士の支援をするフライトディレクターの仕事の様子を見学し、宇宙が自分たちにとって身近な存在であることや宇宙とのつながりを感じられたようです。また、宇宙という大きな世界に対するワクワク感と同時に、宇宙飛行士になるための厳しさや難しさを実感した生徒も多くいました。
”農業×デザイン”で地域を盛り上げる
「アオニサイファーム ブルーベリー観光農園」
1日目最後は、ブルーベリー観光農園・アオニサイファームを訪問。まずは、代表の青木真矢さんから観光農園の取り組みについてお話いただきました。
京都府出身の青木さんは、もともと広告デザインなどを手掛けるグラフィックデザイナー。京都でブルーベリー農園の立ち上げに携わったことがきっかけで、農業に関心を持ち、自分の農園を持つという夢を抱きます。
そんな中、ご縁もつながり、青木さんの奥様の実家であるつくば市で、2020年「アオニサイファーム」を立ち上げました。
青木さんが特に力を入れるのは、農園の情報発信。徹底的にこだわって作ったブルーベリーの魅力をどう伝えていったら良いのか、作ったその先を考える青木さん。長年広告デザインなどに携わってきた経験を活かし、農業にクリエイティブの力を取り入れ、ブルーベリーのブランディングに取り組んでいます。
ブランディングにより、その価値がより一層高まっていくのだそう。
アオニサイファームのオープンの際は、オープン前から何年もかけて、SNSでの情報発信を続けてきた青木さん。オープン時には多くの人で賑わい、テレビ取材もあったそうです。
農業とはあまり縁のないように見えるクリエイティブの世界。両者を掛け合わせることで、相乗効果が生まれています。
同園は、ブルーベリーの旬の時期だけでなく、シーズンオフでも楽しめるように、本格石窯で焼くオリジナルのピザが食べられるカフェの運営や剪定したブルーベリーの枝を使用した染色体験などを行っています。
また、地域を盛り上げる農家コミュニティ「ワニナルプロジェクト」を立ち上げるなど、青木さんの得意分野を活かした地域活性化にも積極的に取り組んでいます。
生徒たちは、広告デザインの仕事から農家への転身、そしてさまざまな人とのつながりによって誕生したアオニサイファームと青木さんの人生のストーリーに驚きを隠せないようでした。
お話の後は、実際にブルーベリー農園を見学。もともとブルーベリーは、北米特有の土壌で生育してきたもの。日本の土で調整しても劣化してしまうことが多く、美味しいブルーベリーを作るのは簡単ではないそうです。
アオニサイファームでは、ひと苗ごとにポットに分けて生育状況を見て育てる「独立適応栽培」という方法で、ブルーベリーを作っています。実際に試食をしたところ、これまで食べたブルーベリーよりも甘くて美味しいという声が聞こえました。
原産地同様に美味しいブルーベリーを届けたいという青木さんの努力と想いが伝わります。
ブルーベリーの美味しさの秘密を知った後は、グループごとに分かれて、ブルーベリーの枝を使った染色体験にチャレンジ!
ビー玉を白い布で包み、ゴムで止めて、お鍋の中へ。生徒が交代交代で布をじっくりと煮ていきます。ビー玉の数や結び方で模様が変わるので、一人一人オリジナルの模様が浮かび上がっていきます。
染色体験の合間には、ブルーベリーアイスやスムージーをいただきました。生徒からは、改めて美味しいという声と笑顔がたくさん見られました。
盛りだくさんだったアオニサイファームでの体験。最後に生徒から青木さんへ、農業とデザインのダブルワークに取り組む難しさや農園の名前の由来についてなど、さまざまな質問が飛び交いました。
農業にデザインの力を取り入れ、常に前に進み続ける青木さん。工夫しながらこれまでの経験や強みを活かし、熱意を持って地域にも貢献する姿に心を動かされた生徒も多かったようです。過去から未来へとつなぐプロセス、農業の持つ新たな可能性について学ぶことができたのではないでしょうか。
夏のフィールドワーク1日目を終えて
アオニサイファームの後は、ホテル日航つくばへ。夕食などを済ませ、いよいよ本日最後のミーティングです。
このミーティングでは、各々が今回のフィールドワーク中に見つけたベストショットをスライドにまとめてもらいました。それぞれのスライドからは、最先端技術が私たちの生活を支えていることや農業×クリエイティブという新しい世界を発見した様子が伺えました。
茨城には一体何があるのだろう、茨城を知りたいという気持ちから始まった夏のフィールドワーク。実際に足を運ぶと、最先端の科学技術や広い土地を活かした新しい形の農業が行われているなど、フィールドワーク前後で茨城へのイメージがだいぶ変わったようでした。
鎌倉学園高等学校の探究学習はまだまだ続きます。
茨城で活躍するたくさんの大人と出会い、熱意を持って物事に取り組む楽しさや世代を超えたつながりから生み出される茨城の魅力を肌で感じていただけたらと思います。
今回の経験を活かした、冬のフィールドワークにも期待しています。
取材・文 谷部 文香