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明日はじめて後見開始等申立書類作成を受任するかもしれない司法書士が今夜ぐっすり眠るためのノート

※後見開始等申立書類作成の仕事を弁護士・司法書士以外がやるのは司法書士法違反になると思われますのでお気をつけください。

1 はじめに


 物事には何でも最初がありますよね。いきなりベテラン、いきなり経験豊富などということはあり得ないわけです。それは後見事件においても同じで、通算200件受けている先生も、100件の先生も、50件の先生も、3件の先生も、誰にだって1件目があったはずです。その1件目に臨むときはみんな緊張し、(明日の面談はうまくいくだろうか)というような不安を感じたはずです。
 私は、3年前にリーガルサポート(以下「LS」)の地区サブリーダーになり、今年から地区リーダーになりました。この3年間、登録したばかりの方から、はじめての案件でどう進めればいいかと何回か聞かれることがあり、私なりの助言を申し上げてきました。考えてみれば私がはじめてやるときも、地区の先輩に教わったのです。とにかく緊張したことを覚えています。聞くところによりますと、地区によっては先輩が同席してくれる地区もあるとかないとか。一方で、同席どころか、質問ができる先輩もいない地区もあるのではないかということは、容易に推測できるわけです。
 そこで、はじめて後見開始等申立書類の作成を依頼され(明日の面談はうまくいくだろうか)と今夜眠れない貴職のために、私自身の経験に基づくお話を差し上げたいと思います。助言というにはおこがましいものですが、今夜、貴職がぐっすり眠ることができ、明日の面談がうまく進みましたら、これ以上の喜びはありません。
 なお、私の申立の経験は現在70件ほどで、そのほとんどが東京家裁の霞が関本庁管轄の案件です。別の管轄では通じない部分があるかもしれないことを申し添えます。また、あくまでも私の話なので、他のやり方や考え方も当然あり得ます。さらに、貴職の地域の先輩の話と齟齬がある場合、地域の実情を知る先輩の話の方が有用であることは当然であることにもご留意ください。

2 書類の確認

 まず、持参すべき書類の確認です。私が考える申立人との初回の面談時に持参すべき書類は、以下のようなものです。
 (1)申立書類作成のための委任状
 (2)ないこと証明を取得するための委任状
 (3)申立書類作成のお見積書(ケースによって領収書も)
 (4)後見制度を説明するための資料
 (5)聞くべきことのリスト
 そもそも初回の面談に際してのスタート地点は、案件ごとに全然違います。社会福祉協議会や地域包括の職員が事前にしっかりと説明をしてくれていて申立人の申立意思が固まっているケースもあれば、とりあえず専門職の話を聞いてみましょうかというケースもありました。なので、本件のスタートがどの辺りなのかは、事前に電話などで確認しておいたほうがよろしいでしょう。そのうち(あそこからの依頼ということは概ね話は固まっているな)とか(初めて依頼を受けるところだから1から説明もありえるな)などと慣れてきます。
 「申立人は、申し立てる気満々ですし、ざっくり15万円くらいは用意しておくように言ってあります。」(準備万端ケース)
 「ごめんなさい、私も後見制度のことがよくわからなくて、明日は私も教えてもらうつもりです。」(こりゃ明日は説明だけして終わりかなケース)

(1)申立書類作成のための委任状

 では、書類を一つ一つ見ていきましょう。まず、書類作成のための委任状です。契約書の形にしても良いと思います。私は、委任状形式で、項目ごとにチェックボックスを設けています。これは、携帯電話の契約の際の契約書(重要事項説明書?)を参考にしました。別に定まったやり方があるわけではないと思いますので、各自の工夫の見せ所かもしれません。いいやり方がありましたら教えてください。

委任状のチェックボックス

(2)ないこと証明を取得するための委任状

 これは、法務局のひな型をそのまま使用しています。ないこと証明は職務上請求では取得できないので、代理で取得するには委任状が必要です。ご注意ください。 

 ↓ 東京法務局「登記されていないことの証明申請について」 

(3)申立書類作成のお見積書(領収書)

 これは、文字どおり申立書類作成のお見積書です。特に説明は不要かと思います。申立意思が固まっているケースで現金の用意もありそうだと感じた場合は、印字した領収書も持参しています。まったく白紙の領収書を常に持参してもいいかもしれません。

(4)後見制度を説明するための資料

 最初のころは、社協やLSのパンフレットを用いて説明をしていました。しかし、いつの頃からか、自前の資料を用意するようになりました。ここも工夫の見せ所と思います。わかりやすい説明をしてくれた先生の印象は良いはずです。

自前の資料

 他に持参しているのは「成年後見関係事件の概況」(最新のもの)です。何か聞かれたときに自分の感覚で答えるよりも、最高裁が出している統計の数字を見せながら説明したほうが丁寧と思います。

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html
平成12年~令和4年までのものがあります

(5)聞くべきことのリスト

 これは、特に最初の頃はあったほうがいいと思います。極端なことを申し上げれば、申立書類を持参して、どんどん埋めていくのも一つの方法です。慣れた社協さんが間に入っている場合、必要な情報を簡単にまとめてくれていたりします。それでも特に聞いたほうがいいと思うのは以下のことです。
 ・本人の学歴、職歴(わかる範囲でいいです)
 ・本人の病歴(わかる範囲でいいです)
 ・親族関係(推定相続人)の聞き取り → 事前の情報と違うことがあります
 上記の点は、本人情報シートや事前の情報ではわからないことが多く、申立人に聞くとわかることがあります。もちろん、申立人が本人とは特に交流がなく今回のことで関係者から連絡を受けて仕方なく申立人になっているようなケースでは、何も知りませんということはあります。そのようなときは、仕方がありませんので、学歴や職歴は空欄で出しても問題ありません。
 親族関係もわかる範囲で大丈夫です。この点を勘違いされている方が時々見受けられます。戸籍をすべて取得して調査すると思っている方がいるようですが、申立書類作成で職務上請求(1号)できるのは、本人の住民票と現在戸籍のみです。なぜならば、裁判所に提出するのがその二つだからです。もちろん、本人や申立人が自分で取得した原戸籍等を参考情報として提供されたのであればそこから情報を得てもいいかもしれませんが、それは必須ではありませんし、先の2つ以外は職務上請求では取得できませんのでご注意ください。なお、記載例は「『司法書士のための戸籍謄本・住民票の写し等の交付請求の手引き』(第3版),p26,記載例6」にありますのでご参照ください。
 その他、申立人が本人のことをよく知っているような場合には、申立書類作成に直接関係のない話も、できるだけ聞いておくことをお勧めします。特に、申立人に頻繁に会えないような事情があるような場合はなおさらです。関連情報が多いと、本人の人物像をつかみやすくなります。

3 出席者の確認

 明日の出席者を確認しましょう。人と会うことが得意ではないという人もいると思います。そういう人は、誰が同席するのか把握しておくだけでも少しは違うかもしれませんので、事前に聞いておきましょう。

(1)本人

 言わずもがな、ご本人様です。大原則として、申立前に会っています。意思疎通の程度やご本人の状態がわかるだけではなく、認知症の方でも学歴などはご本人が教えてくれることがあります。昨日のことは覚えていなくても、昔のことはよく覚えているというのは、よくある話かもしれません。事情があって(例えばコロナなど)、本人に会わずに申し立てたこともあります。

(2)申立人

 初回面談の中心人物かもしれません。この方の意思が固まらない限り申立書類の作成を受任することはありません。ちなみに、申立費用(報酬)は、申立人からもらいます。この点につき、事情があって、後見人に就任後、本人資産から申立人に返金すべきと思われる場合は、その事情(事実)と後見人の判断を書いた連絡票を家裁に入れてます。私は件数は多くありませんが、家裁に返金を止められたことはありません。ちなみに、肯定的に捉えられる事実としては、経済的に困窮している申立人が資産潤沢の本人のために申立人になるとか、まったく交流がないのに親族だからという理由で申立人になってくれたという事実が該当すると思われます(私見)。何でもOKとか絶対ダメということではなく、案件ごとに考えればよろしいかと思います。

(3)社協や地域包括の職員

 慣れている人もいれば、新人さんのように慣れていない人もいます。慣れている人の場合、安心感があります。事前の説明もしっかりとされていて、内容も間違いがないケースが多いです。慣れていない人の場合、説明がまったくなされていないケースもあります。それどころか、大事なところが伝わっていないことも考えられます。明日、貴職の説明を聞いた申立人の口から「え?後見人てお金かかるの?」なんて言葉が出てくるようでしたら、早めの帰宅をお考えになったほうがよろしいかもしれません。

(4)ご親族

 出席できそうな親族がいないケースも多いのですが、いらっしゃるようでしたら、できるだけご出席いただい方がよろしいかと思います。何といっても、ご本人やご家族の情報をお持ちです。いくら社協職員やケアマネがいるとしても、ご親族にはかなわないでしょう。
 もしかすると、困難な後見案件の話を聞きすぎて、ご親族はみな敵対的と思われるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。むしろ味方であり、本人支援の仲間です。私は、深刻な対立構造になってしまったような経験はありません。もちろん、意見が相違した経験はありますが、なぜその意見なのかということをしっかりとお伝えすれば、わかり合えると思います。そういう意味で、こちらから対話を拒む姿勢は間違っていると思います。何でも言ってほしい、意見を言ってほしいという姿勢でいることが重要だと考えます。反対の立場になって考えてみればよくわかるはずです。こちらの話に耳を傾けない人物を信用しろと言われても無理な話です。こちらの話を聞き、検討し、意見を交換できたのであれば、最終的な結果が自分の意見とは違っても、それだけで関係性が壊れることはないのではないでしょうか。
 もちろん、言いなりになればいいということでありませんので、それはお気をつけください。後見人として許容してはいけないラインもあるはずです。

(5)ケアマネ、保健師、相談員等

 ご本人に対してケアマネや保健師がついていることも多いです。認知症の方にはケアマネ、精神の方には保健師がいるかもしれないと思っていればいいと思います。必ずいるわけではないですし、いても必ず出席してもらえるわけでもありません。ただ、出席してもらえれば、本人に関する情報を得ることができるでしょう。
 本人が施設にいたり入院していたりする場合は、その施設の相談員さんが同席してくれるかもしれません。その場合も、本人の情報を得られますので、出席していただいた方がいいと思います。

4 場所の確認

 やはりプライベートな話をしますので、閉ざされた空間であるほうがよいと思います。はじめての面談で緊張しているなか、人が行き交うようなオープンな場所では気も散ってしまうのではないでしょうか。いや、もしかするとそっちのほうが緊張が紛れてよいと思われる方もいるかもしれません。こればかりは、わかりません。私は、事案の性質だけでなく、失敗しても誰も見ていないと思える閉ざされた空間のほうが、はじめての面談に向いていると思いますが、どうでしょう。

5 イメージトレーニング

 それでは明日のイメージトレーニングをしましょう。

(1)挨拶

 社協職員や包括職員などがいる場合は、冒頭のあいさつから始まって事案の経緯まで説明してくれることが多いです。そのうえで「では、先生のほうからお話をお願いします」という感じです。

(2)制度説明

 私は、申立人がやる気満々でも、ほとんどの事案でまず制度の説明をしています。これによって、あとで委任状をもらうとき、説明したことを確認しながら委任状のチェックボックスに「レ」をいれてもらっています。
 これが、申立意思が固まっていないケースでは、自己紹介もそこそこに、まず制度の説明をお願いしますということがあります。はじめての面談で、いきなり「それでは説明してください」と言われるとパニック必死でしょうから、やはり事前に様子を電話で確認しておいたほうがいいでしょう。
 事前の説明がされていたとしても、自分の口から、お金の話、鑑定の話、医療同意権の話などをしておいた方がよいと思います。

後見人等の報酬の話
※ 報酬は各事務所の自由です ※
鑑定の話を忘れちゃダメ!
説明しておかないといけないことは説明しておきましょう

(3)委任

 どちらのパターンであったとしても、申立の意思が固まったのであれば、委任状をもらいます。意思が固まっていないのであれば、説得するような形でもらうことは避けるべきです。この点だけ、明日会う関係者とスタンスが違う可能性があります。関係者は、前から準備をし、やっと候補者&書類作成をしてくれる人物を見つけ、面談までこぎつけたという段階です。一方、こちらは、簡単な情報だけもらい、はじめて会った段階です。誤解を恐れずに申し上げますと、関係者が申立人に対し「やりましょう」というスタンスに見えることがあります。彼らにはある意味ゴールの場面なのです。しかし、我々にとっては、紛れもなくスタートの場面です。一つ目のボタンを掛け間違えるとどうなりますか。あとのことに全部響きます。強引に委任状にサインさせられた、よくわかんないけど印鑑をポンポン押させられた、というような話になりかねず、それは、あとの後見活動を自ら苦しいものにしていることになります。なので、少し慎重なくらいでいいと思っています。ときには「迷っているならやめましょう。よくご検討いただいて、またご連絡をください。」という言葉を掛けることもあります。最初に「強引だな」と思われるのと、「こっちの気持ちも考えてくれているんだな」と思われるのでは、その後の後見活動のやりやすさが全く違うと言ってもいいかもしれません。
 ないこと証明の委任状もお忘れなく。(経験者は語る)
 ないこと証明の委任状は、本人と委任者の関係によって、その関係を示す戸籍が必要になりますのでご注意ください。ご本人と意思疎通が可能なのであれば、ご本人から委任してもらった方が簡便と言えます。

(4)聴き取り

 委任されたのであれば、書類作成のための聞き取りをします。書類作成に関係のない情報でも、時間の許す限り過去のエピソードなどいろいろと聞いておくと、あとで役に立つことがあるかもしれません。私は、ご本人のストーリーや○○家のストーリーを聞くのが好きなので(こういうとき野次馬根性は役に立ちますね?)、ご親族のいるケースはワクワクします。ときには、関係者が腕時計をチラチラ見始めることもあります。その関係者に「あ、次のお仕事があれば先にお帰りになってもいいですよ」と言うくらい話に夢中になったこともあります。実際は、ストーリーを語ってくれる人がいないケースも多いので、想像しかできないこともありますけどね。

(5)確認すべき事項

 帰る前に今後の流れを確認しておきましょう。
【本人情報シートは誰が用意するのか(司法書士は用意しません)】
 ケアマネさん、社協職員、相談員etc…。場合によっては作成済みのこともあります。作成したらこっちにメールやFAXでいいので送ってほしいと言っておくと便利です。裁判所に提出するのはコピーでいいですからね。
【診断書は誰が依頼するのか、その費用は誰が払うのか】
 本人情報シートを作ってくれた人から診断書を書いてくれる先生に直接送ってもらう方法が簡便です。費用をだれが支払うのかは確認しておいた方がいいでしょう。本人(申立人)が直接病院に払うこともあれば、その費用を預かって、病院から請求書を送ってもらうこともあります。前者の方が多いです。
【委任有の場合】
 特別な事情のない限り、見積書のお金を入金してくれたら動き始めると言っておいた方がいいでしょう。
【委任なしの場合】
 検討の結果を誰に連絡するのか、確認しておきましょう。断りやすいように、自分が連絡先にならないほうがいいと思います。

(6)時間

 面談時間はザックリ1時間前後ですかね。でも2時間になったこともあります。10分で終わるということはないと思いますので、そのあとの予定を確認しておいてください。

 類型による違いなども話したいところですが、さすがに長いので別の機会にしましょう。

6 さいごに

 ここまでお読みいただきありがとうございました。最後に裏切るようで申し訳ありませんが、明日はおそらく書いたとおりには進みません。(ごめん)
 本人の状況ごとに、環境ごとに、申立人の事情ごとに、健康状態も、環境も、判断力低下の原因も、抱えている課題も、毎回違うんですよ。なので、このノートは雰囲気を掴むくらいにしてもらって、明日は、誰かのために役に立ちたいと思ったその気持ちをもう一度胸に、ご本人、申立人、関係者と向き合ってきてください。(精神論か)

デビュー戦でヒットを打ったか三振したかなんて重要じゃない。
バッターボックスに入ったという事実が重要なのだ。

by俺


(終わり)

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