推定相続人廃除申立却下審判に対する即時抗告事件(仙台高裁決定H29.6.29)

【掲載誌】
判例タイムズ1447号99頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】
民商法雑誌155巻1号189頁
家庭の法と裁判13号43頁


関係図

点線は養子縁組

時系列

H22 被相続人が、全財産をAに相続させること、Bを廃除すること、Aを遺言執行者に指定することなどを含む公正証書遺言を作成する。
H24 被相続人死亡
H25 AB間の遺留分減殺請求訴訟において、AがBの遺留分を認める裁判上の和解が成立する。
H28 Aが、遺言執行者として、仙台家裁に対し、Bについて推定相続人廃除の審判を申し立てる。
H29 仙台家裁は、AB間の遺留分減殺請求訴訟(以下「別件遺留分減殺請求訴訟」という。)において、AがBの遺留分を認める内容の裁判上の和解が成立したことを理由に、本件推定相続人廃除の審判の申立ては訴訟上の信義則に反し、推定相続人廃除を求める法律的利益も失われているなどとして、本件申立てを却下した。

 Aが、抗告した。

裁判所の判断(※太字は髙野)

1 遺言執行者は、遺言によって指定又は家庭裁判所によって選任される(民法1006条1項、1010条)が、その地位は「相続人の代理人」とみなされ(同1015条)、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとともに善管注意義務を負い(同1012条、644条)、その権限行使の効果は相続人に帰属するとされているのであるから、自己の私的な立場や利害を離れて職務を遂行し、遺言の内容を実現すべき責任を負っているところ、Aは、遺言執行者としての立場で、その職務の遂行として、本件推定相続人廃除の審判の申立てをしたものである。
2 ところで、一件記録によれば、Aは、Bとの間で、別件遺留分減殺請求訴訟において裁判上の和解をしており、その内容には、①AがBに対し遺留分の価額弁償として1200万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことや、②AとBは、被相続人の遺産について和解条項に定める以外に何らの権利義務がないことを確認し、相互に財産上の請求をしないことを約する清算条項などが含まれており(乙2。以下「本件和解」という。)、AとBとの間では、被相続人の遺産に関する紛争は本件和解によって既に解決していることが認められる。
 しかしながら、上記訴訟はAとBの個人間の紛争であり、本件和解も被相続人の遺産についてのAとBの個人間の紛争を解決したものにすぎないから、これによって、個人の立場や利害を離れて職責を行使しなければならない遺言執行者としての職務遂行に影響を及ぼすことはないというべきである。また、本件では、相続人としてAとBの他にCがいるのであるから、AとBだけで、Cの法的地位に影響を及ぼしうる合意をすることができないことも明らかである。
3 そうすると、上記のとおり、Aは遺言執行者の立場で本件推定相続人廃除の審判の申立てをしているものであり、個人の立場としてした本件和解が本件推定相続人廃除の審判の申立てに影響を及ぼし、同申立てが訴訟上の信義則に反したり、同審判の申立ての利益が失われることはないというべきである。
4 以上によると、Aによる本件推定相続人廃除の審判の申立てを実体審理することなく不適法として却下した原審判は相当ではないから、これを取り消した上で、必要な審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻すのが相当である(家事事件手続法91条2項ただし書、93条3項、民事訴訟法307条本文)。
 よって、主文のとおり決定する。 

主文

1 原審判を取り消す。
2 本件を仙台家庭裁判所に差し戻す。

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