「鶏を捌くからおいで」初めて見る命の終わりと美味しいごはん。
森の奥からLINEが届きました。
こんにちは。マナブです。先日事務所でコンビニ弁当と食べようとした時に、森の中で暮らすりんさんから連絡がありました。
「学くん、今日は鶏をさばくから遊びにおいで」
料理をするのに鶏からさばくなんてさすが山に暮らす人。鶏肉は好きだけど締めるところは一度も見たことがありません。
「ナイフで首をスパッ!とかやるのかな。血が噴き出したりして」
美味しい食事にも期待しながら、妻と一緒にりんさんの暮らす森を目指します。
子供の火遊び、刃物OKな空間
森のトンネルを抜けると、りんさんの息子で小学6年生のいっちゃんが薪を割っているところでした。
カツーン、カツーンと小気味よく今日の料理で使う薪作り。一般的に子供から遠ざける傾向にある火遊びや刃物は、ここでは生活していくために必要なスキル。扱い方はりんさん仕込みで、薪の割りの手つきなんかは素人の私なんかより全然上手です。
命を頂く2羽の鶏
「今日はこの鶏を絞めるよ」とりんさん。目の前には奥さんのあんちゃんが抱える2羽のニワトリ。普段なら「かわいいね」の存在だけど、これが数分後には私たちが食べるために殺すことになり、そのさらに数時間後には私の胃袋にいることになる。そう考えるといつもの「かわいい」だけの感情ではなくなってきた。
絞める前にそれぞれ抱きかかえお祈りをするりんさん。私がスーパーで売っているパックの鶏肉をみて思うことはなんだろう。価格、グラム数、賞味期限。その鶏肉で作る晩御飯のことを考えるかもしれない。だけど今はそのどれもが頭に浮かばない。目の前にはキョロキョロ動く二つの目玉と、生き物としての命の終わりがあるだけです。
りんさんは慣れた手つきで、ニワトリが怖くないように目を隠してやり、首の静脈にさっとナイフをいれます。バタバタと羽を動かす鶏。
「ちょん切れたクビから真っ赤な血をドクドクと吹き出しながら走り回るんじゃないだろうか」なんてことを想像していたけど、そんなホラーのようなことはなく粛々と命のやり取りは進められました。赤い血がぽたりぽたりと落ちる音が聞こえるくらいの静寂。私はというと、ドキドキハラハラするわけでもなく、目の前で静かに消えゆく命をじっと見つめていました。りんさんが優しくナイフを入れたおかげで怖さはありませんでしたが、自分がここまで冷静であることに驚きました。
少しずつ見慣れた姿に
締めた鶏は沸かしたお湯にいれ、みんなで羽をむしります。「生えている方向と逆に引っ張ると抜けやすいよ」とあんちゃん。丸い毛穴を残しながらプツリプツリと抜ける羽。先ほどまでの命が毛を抜かれるごとに見慣れた姿に。命は段階を経て食べ物になっていきます。
水できれいに洗い流せば、ようやく見慣れたチキン姿に。首と足がなければ、さっきまであった命が急にお肉に見えるんだから不思議。
自家製卵でマヨづくり
ピタパンで使うマヨネーズも自家製。鶏小屋に生みたて卵を取りに行きます。「首や足はないけど卵も命だもんなあ」としみじみ。彼らも有難くいただきます。
卵、植物性油、酢、天日塩で作る手作りマヨネーズ。森の緑に卵の黄色がよく映える。
出来たてマヨを味見するいっちゃん。ペロっとなめた後は目を閉じて親指を立てます。美味しさの表現が職人っぽい。
ピタパンを作ります。
チキンや野菜を挟んで食べるピタパンも生地から手作り。国産小麦粉、有機ドライイースト、天日塩を使ってこねていきます。森の中でやるパン作りはジブリ映画のワンシーンのよう。
大自然の中、鶏を捌くりんさんとパンをつくるあんちゃん。
そして、出来上がっていくご飯を眺めるいっちゃんとあるちゃん。この4人が柳樂一家。
捌いた鶏肉はたたいて塩胡椒します。捌いたのは2羽だけど、1羽はおばあちゃんで可食部が少なかったので今回は1羽のみを使うことに。
昔のドラマでこんなの見たわ。
こねたパン生地を焼きます。あるちゃんをおぶって竹の筒で火をおくるあんちゃん。令和の今、昭和のドラマでしか見たことのない貴重な火起こしシーン。
「みんな同じことを言うよ」
待つこと数分。美味しそうなピタパンが完成。ちなみにここまでで鳥を裁いてから軽く3時間は超えています。
「料理ってこんなに時間がかかるもんなんですね」と尋ねると、「ここに来た人はみんな同じことを言うよ」とりんさん。作って食べるというエンターテイメントを1からやるとこんなに時間がかかるなんて。食べる事って有難いことなんだな。コンビニ弁当で気付けないわけだわ。
「ちょっとコンビニ寄る」のノリで
途中、「ハーブティーも飲もう」と、近くに生い茂るアップミントを摘み、お茶を作ることに。まさに「ちょっとコンビニ行ってくるわ」のノリで「ちょっと摘んでくるわ」で新鮮なお茶が飲めるのが山暮らしのスゴイところ。これがもう、めちゃくちゃおいしい。すっきりさわやかな味で何杯でも飲めちゃう。
サクサクポテトフライ作り
こちらも摘みたてのフェンネルとにんにくを使ったポテトフライ。あんちゃんは「世界でも有数のポテト作りの達人(りんさん談)」らしく、カリカリほくほくのポテトも作ってくれました。
盛り付けたピタパンたちの真ん中に揚げたてポテトフライをのせて、
とれたて野菜も沢山つかった、本日のごちそうが完成しました!
一口たべると「おいしいー!!」
香ばしいチキンから溢れる肉汁と、濃厚で爽やかなマヨが野菜にあわさり、焼きたてピタパンと一緒に口の中に旨味が広がります。夢中で頬張る絶品ピタパンを摘みたてアップルミントティーのすっきりとした味わいでのどを潤し、外はカリッ!中はほくっ!のポテトをつまみ。美味しくて自然と笑いが出てくる。
目の前は大自然のプライベート空間。森の静寂の中に響く大きな「おいしいー!!」の一言に、遠くの山から帰ってくるこだまのアンサー。五感で感じる食の豊かさ。数時間前に私と目があった命は、今は私のお腹の中に。「美味しい美味しい」と感謝して食べればそれに答えるかの如く、私の血や肉となった魂が、全身の血管から強く打ち返す鼓動になっているのが分かります。かみしめるごとに自然と溢れる笑顔はただ美味しいからではなく、胎からこみ上げてくる命たちがあるからなのかもしれません。
美味しいだけでなく、記憶に残る食事になりました。ごちそうさまでした!