1人時差生活と下町温泉【墨田 御谷湯】
海外出張が禁止されている現在において、幸か不幸か海外で行われている仕事をリモートで立ち会うという新たな働き方が導入された。今週は、アメリカはテキサスで仕事があったが、コロナ真っ只中のアメリカへの仕事は当然NGということで、現地時間に合わせて東京の放送局へ通うという日本にいながら時差生活がスタートした。十数時間をかけて狭い飛行機に乗り、腰痛と時差ボケの中、寒い現場で立ちっぱなしにならなくても、局の温かい部屋でモニターを見ながら仕事ができるなら、それでいいじゃんと最初は思った。しかし、この国内アメリカ時間生活は、若さと元気がとりえ(モリコサマーの設定)の私にも想像以上なダメージがあった。
コロナ禍になってから、日本国内でアメリカの仕事をするのは3回目。慣れてきたものの、今回は日本での仕事も同時に集中していたので、夜はアメリカの仕事、昼は日本の仕事…でほぼゆっくり寝ることもできず、謎の24時間営業を強いられた日もあった。そして、これがみんなリモートをしているので、お互いに今何をしているのかが見えづらい世の中になったせいで、私がまさかアメリカ時間に生きているなんて知らない人は、日本の営業時間に合わせて電話を鳴らしてくる。(いや、悪気はないし用事があるんでいいんですよ…。)容赦なく睡眠妨害をしてくる人たちへの怒りをどこにぶつけていいのかわからず、走れメロスのごとく、怒涛の一週間を駆け抜けた。
日本とテキサスの時差は15時間あり、仕事が始まるのは向こうの朝にあたるこちらの深夜。そこから一晩中放送局で過ごし、帰宅後AMの間に色々と仕事をさばいて昼頃に眠る。うまく邪魔が入らなければ夕方までまとまった眠りができるが、そんなに甘くないので浅く3、4時間寝てからまた次の現場へ。そんな生活を続けていた3日目、事件は起こった。
放送局から自宅へ帰るタクシーの中に、個人用の携帯を忘れてきてしまったのだ。しかもクレジットカード付き。疲労困憊で朦朧としていたので全く気が付かず。だいたい面倒くさがり屋の私は近距離であれば経費も切らず、財布でかさばるのでレシートをもらわないのだが、この日は疲れすぎてポケットに突っ込んでいた。(セーフ!)慌てて連絡をし、携帯は墨田にあるタクシーの営業所に届けられていると知る。クレジットカードが堂々と刺さっている携帯がちゃんと届けられる日本の社会は本当に素晴らしい。これに関しては世界に誇れるし、自分もこの治安と国民性に甘えすぎて、絶対見つかると思っていた節があった。
不眠不休で墨田に行くには遠すぎて、一眠りしてから夜の出社前に携帯をピックアップがてら、どこかお風呂屋さんにでも寄って疲れを取りたいと思った。墨田といえば下町銭湯の聖地。行ってみたいところは数え切れないが、このご時世に夜22時ごろに営業していて、さらにご飯も一緒に食べられるところ…となると限られてくる。
なんとなく周辺をサーチして出てきた御谷湯(みこくゆ)は、あの高砂部屋の近くにあった。錦糸町駅から徒歩15分以上なので、車があるか近所か、私のようにタクシーに忘れ物をした人でないとなかなか来れない立地である。
わりと最近リニューアルされたらしく、外装も内装もきれいで清潔感もある。地下深くから汲み上げたれっきとした温泉である。泉質は、東京都内の温泉によくある黒いお湯。黒い温泉は、美肌の湯と呼ばれるように肌がすべすべになるだけでなく、徹夜明けとかすごく疲れているときに、弱っている部分に刺さってくる特効薬みたいな働きをしてくれると思う。こちらの温泉も同じようなパワーを感じた。
サウナはないが、高温温泉があって、水風呂と交互に入ることで、サウナと同じような効果を得られるのもいい。
お風呂の種類も薬湯という変わり風呂から、ジャグジー、半露天など、下町温泉施設としてかなり充実している。銭湯の壁にかかれている富士山の絵もちゃんと残っているのもポイント。
お風呂ですっきりしたあとは、腹ごしらえも重要だ。胃袋もアメリカ時間に適応されているので、23時を過ぎて朝食時間だ。どこもお店が閉まっている中で、建物の中にはカフェ&バーがあり、深夜2時までやっているというありがたさ。名前は、「とまどい」という。ちょっと妖艶でノスタルジックである。
レコードが沢山置いてある音楽の趣味がとても良いお店で、一人でふらりと入っていても、耳で楽しめるお店だと思った。お風呂上がりにぴったりの生ビールとおつまみのセットがあるけれど、運転だったのでジンジャエールと「とまどい特製カレー」をいただいた。このカレーが、とても優しい味で、添えてある唐揚げもポテサラも、家庭の味で美味しかった。むしろ予想以上に美味しくてとまどう。出張中だったら、食事は常にアメリカ人サイズ&クオリティのケータリングでやたらチーズの味がするものばかりで疲れてしまい、福神漬がたっぷり乗った普通のカレー食いたい…っていつも思っていたけれど、日本国内対応も昼間の追いかけや会議のない週末だったら悪くはない…という気になってしまう。いや、でもやっぱりこの生活と往復20時間以上のエコノミーでの苦行を天秤にかけると、悩ましい。
最近では海外出張があった時代が少し恋しくなったりもするけれど、当時はこんな時間を東京で過ごすこともなかった。
ケータイを忘れたおかげで、出社前にいい時間を過ごすことができたから、おっちょこちょいも悪くない。
御谷湯
墨田区石原3−30−8 http://mikokuyu.com/
入館料 460円(温泉なのに安い!)
アメニティ ボディーソープとシャンプーは備え付けあり
ドライヤー 有料2台(10円しか使えないので注意)
洗い場 豊富にある
サウナ なしだが、高温湯あり
温泉の泉質 硫黄系の黒いお湯
フロガーとしての推しポイント 遅くまで営業しているおいしいバーがある