7歳の私と37歳の父
私にとって小学生最初の記憶は7歳の時。片道30分かけて歩いた小学校までの道はとても楽しくて、歩いた距離の長さよりも一緒に通った友達との会話の濃さの方が思い出された。坂道がいっぱいあって、3番目の坂道が一番急で、その坂道を上る時にみんなのテンションが一番上がるのを感じてた。
4番目の坂道を越えた所に、地元でも有名な豪邸があった。誰が住んでるかはわからなかったけど、その豪邸の庭にいる犬のことは知っていた。びっくりするほど大きなポメラニアンで、毛並みもしっかりしていて、目をクリクリさせながら柵の隙間からいつもこちらを見ていた。犬はちょっと苦手だったけど、このポメラニアンだけは好きだった。
犬を飼いたいと思ったのは、その時が初めてだった。でも、犬を飼いたいと母に言ったことはない。もちろん父にも言ったことはない。
母は犬が好きだった。父は犬が嫌いだった。
学校で三者面談があって、いつも友達と帰る帰り道を母と父と一緒に帰る日があった。私はいつもの癖でポメラニアンのいる家に行こうとした。手を繋いでくれてる母が「どうしたの?」という目線でこっちを見るので、ポメラニアンがいることを教えた。ただ、その日はポメラニアンの姿はなくて、柵から見える庭を見てもポメラニアンの姿はなかった。そんなこともあるよなと思った。
『見間違いじゃないのか?』
父が少し低い声で言って、そのまま歩き出した。母も頷いて私の手を引っ張った。
母が父が好きだった。そりゃそうだ。
私は父が嫌いだった。その時にも嫌いがもっと増えた。
私の記憶は見間違いじゃない。ポメラニアンはいた。確かにいた。触ったし、目を合わせたし、少し吠えたこともあった。私の記憶は見間違いじゃない。
母もポメラニアンも好きだけど、父に好きという感情がなくなったと鮮明に感じたのはその時が初めてだった。