【近刊紹介】『OpenADRによるデマンドレスポンス通信』(蜷川忠三・山田倫久共著)
近年、電力を取り巻く環境には様々な変化が起こっています。身近に感じられる例としては、電力の小売り事業者の増加、スマートメーターの普及、太陽光発電パネルや蓄電池を持つ家・ビルの増加が挙げられます。「スマートグリッド」「次世代エネルギーサービス」「仮想発電所(VPP)」といった言葉を耳にする機会も増えました。電力系統は、より環境にも経済にも配慮した運用への過渡期にあります。次世代の電力網で注目される仕組みの一つが「デマンドレスポンス」であり、7月発行の新刊『OpenADRによるデマンドレスポンス通信』のテーマです。
日本では、東日本大震災の際に、電力供給が逼迫する事態となりました。これがターニングポイントとなり、デマンドレスポンスの本格的な検討が始まります。そして2020年現在、政府と電力会社、設備メーカーなどが協力して、デマンドレスポンスシステムを実現するためのガイドライン策定や実証実験が行われています。
デマンドレスポンス……電力系統の基本原則として、発電量と消費量が同じである必要があります。従来は消費量に合わせて発電機を稼働させる「発電所→需要家(電力消費者)」の一方通行が当たり前でしたが、発電量の調整だけでなく、発電量に合わせて「需要家側が消費量を変更する」という手段も併用して電力の需給バランスを整える方法をデマンドレスポンスといいます。
デマンドレスポンスをうまく活用することで、余分な高性能発電機の維持が不要になることが期待されています。
従来は、細かな出力調整が可能な火力発電所による供給量調整が行われてきました。これと同等の電力需給バランス調整をデマンドレスポンスによって行うには、5分程度の短い時間で需要家の電力消費を変更する必要があり、それには高度な通信技術が不可欠です。これにはOpenADRという専用の通信規格が用意されています。本書では、このデマンドレスポンス専用通信規格について、システムの具体例から実装・運用の方法まで丁寧に解説していきます。
デマンドレスポンスに携わるエンジニアの方はもちろん、次世代電力網で具体的にどのようなことが行われるか気になる方はぜひ手に取ってみてください。
【推薦のことば】
「OpenADR Allianceは、このような出版物が生み出されたことに期待が高まっています。本書は、デマンドレスポンス・プログラムとそのシステムの標準化に対する大きな重要性と必要性を示しています。 OpenADRとデマンドレスポンスへの理解を深めて、ますます成長するスマートグリッド業界に参入しようとするすべての仲間と開発者に、本書を強く推薦します。」
Rolf Bienert (Managing & Technical Director of the OpenADR Alliance)
「ガイドラインの整備等OpenADR を使う環境は整ってきたが、各々の活用に際してOpenADRを実装し、ほかのシステムと連携することは、専門家にとってもハードルが残るのが実情である。
こうした状況において、本書は、プログラミングまで含めて具体的に解説した、他に類を見ないOpenADR実用のための教科書となっている。本書は、国内の標準規格として採用されたOpenADRを使ったサービスの構築を目指す事業者、技術者にとって、役立ち度の高い必携のバイブルになると確信する。」
石井英雄(早稲田大学教授・経済産業省資源エネルギー庁ERAB検討会 OpenADR WG座長)
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『OpenADRによるデマンドレスポンス通信』蜷川忠三、山田倫久(共著)
【デマンドレスポンスのための通信規格「OpenADR」初の解説書】
デマンドレスポンスの概要からOpenADR通信の仕組みまで、実装に必要な知識を網羅的に身につけることができます。
まず、デマンドレスポンスとはどのようなものか、ビルの空調を制御する例によって、具体的にイメージできるようになります。
そして、規格書・仕様書だけでは理解しにくい、通信で授受するメッセージについて、内容や生成の仕組みをしっかり解説しました。実装時に参考にできるプログラム例やサーバ構築方法も掲載されています。
また、OpenADR通信に対応した製品であることを示すために必要な、OpenADRアライアンスによる認証の手順を紹介しているので、実際に認証を受ける際に役立ちます。
デマンドレスポンスに関わるすべてのエンジニア必携の一冊です。
【目次】
第1章 電力システム改革
第2章 OpenADR規格
第3章 OpenADRの応用
第4章 OpenADRの授受データ
第5章 OpenADRの通信メッセージ
第6章 OpenADRの通信手順
第7章 OpenADRのプログラミング
第8章 OpenADR認証