2024年3月中旬発行予定の新刊書籍、『固体力学入門』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。
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まえがき
本書は、主として機械工学、航空宇宙工学を専攻し、固体力学を初めて学習する大学学部生を対象として、固体力学の基礎理論をマスターしてもらえることを目指して執筆した。固体力学は機械、航空機、宇宙機、構造などの合理的な設計基準を定める強度解析の基礎工学であり、本書を出発点として固体力学を学ぶことによって、機械構造に対するより精密な構造解析を行うための理論的基盤を得ることができよう。本書の読者としては、力学(可能ならば解析力学)、材料力学をすでに履修済みの読者を想定しており、これらの学問の関連性や、材料力学で学んだ応力やひずみのより詳細な理解が可能になるよう留意して執筆した。
本書は、著者の一人である吉村がもう一人の著者である荒井から2018年以降に引き継いで、名古屋大学の工学部機械・航空宇宙工学科の3年生向けに開講している「固体力学」の講義に基づいて書かれている。
本書は大きく3部から構成されている。まず第I部では、固体力学の基本事項を述べ、固体力学全体の問題設定を理解することを目的としている。第1章では、固体内のひずみや応力の記述に用いられる概念として重要なテンソルを導入する。第2章と第3章では、それぞれ応力とひずみを定義し、それらの性質を述べる。第4章では応力とひずみの関係を記述する構成式について、線形弾性体を対象として詳しく説明した。第5章では固体力学の境界条件について紹介し、固体力学ではどのような問題を解けばよいのか、という全体的な問題設定を整理した。
第II部では、第I部で整理した固体力学の問題についての、さまざまな解き方について記述した。第6章では、エネルギー法について述べる。エネルギー法は現代の機械・構造解析のデファクトスタンダードである有限要素法(FEM)の理論的基礎となるものである。第7章では、問題に幾何学的な制限を加えて単純化し、2次元問題として解く場合について、応力関数を用いた解析法を説明する。第8章では、解析対象を薄板と近似して解く場合の薄板の曲げ理論について記述した。第7、8章は、特に薄板状の構造を扱うことの多い、機械・航空宇宙関連の構造解析には役立つことと思う。
第III部では、応力とひずみの関係が非弾性的な振る舞いを示す場合の材料構成式について導入を行った。第9章では弾塑性理論の基礎を、また、第10章では粘弾性理論の基礎を述べる。
各部、各章の関係については、図1に示すチャートを参照いただくとわかりやすいと思う。なお、第1~8章については吉村が、第9、10章については荒井が主に記述を担当した。
(中略)
本書にはいくつか類書にはないと思われる記述を盛り込んでおり(たとえば第3章、第6章)、記述のこなれていない部分などが入り込んでいるかもしれない。しかし、徒然草第150段にもあるとおり、「なまじいに人に知られじ」として公表しなければ、上達することもない。あえてこの形で世に問い、諸賢のご批判を請いたいと思う。
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