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骨材中の岩石が寿命に与える影響とは?――近刊『コンクリートの鉱物化学』序文公開

2022年1月中旬発行予定の新刊書籍、『コンクリートの鉱物化学』のご紹介です。同書の「序」の一部を、発行に先駆けて公開します。

***

〈前略〉

本書では、コンクリートに骨材として使用される岩石や鉱物とコンクリート中の化学を中心に、できるだけ平易な表現で話を進めます。

 われわれの周りには多数のコンクリート構造物が存在しますが、数年で崩れ去るものではありませんので、その存在すら忘れがちです。また、コンクリートの歴史は古いため、科学的な研究は完成しているものと思われるでしょう。しかし、コンクリートの不具合や事故がときどき報道されることが物語るように、残念ながら研究は完成していないのです。まだまだいろいろな問題が残っています。最近は「コンクリートは劣化する」との考えが常識化され、新聞やテレビの報道も通り一遍な気がします。個人資産であるビルや建物のコンクリートが短命であることに、みなさんは納得していますか?橋・トンネル・ダムなどのコンクリートが短命であれば国の大きな損失と思いますが、いかがでしょうか?

 このような状態になった原因は、コンクリートが工学と理学の谷間にあり、基礎技術が不足していることにあると思います。工学系の分野では、コンクリートは建設材料の一つであり、素材である骨材の岩石やセメントにはJIS規格があり、それで管理されているものと考え、深く探究することはありませんでした。一方、関連する鉱物学は博物学の領域を出ず、わずかに少数の者が手の汚れない半導体などの研究に就き、他の多くは教職関係です。コンクリートの素材である骨材やセメント化学を研究する者がいません。化学の分野では、セメント化学のような無機化学は戦前(第二次世界大戦前)の学問であるとして、世界的にも研究者は少なく、日本では皆無の状態です。

 セメント化学の教科書的存在であるBogueやTaylarの筆になる「セメント化学」は、化学者の視点でモデルを使って書かれています。そのため、市販セメントの水和反応の研究データは少なく、たとえば、Taylarの書に記載のセメント水和反応生成物のX線粉末回折データには不合理な点が多く、完成したものとは思えません。市販セメントの水和反応生成物の解析において基準データとして用いるには、大きな不安があります。

 また、アルカリ骨材反応というコンクリートの早期劣化現象ですが、これにも大きな疑問があります。アルカリ骨材反応とは、セメント中のナトリウムやカリウムが骨材中のアルカリ反応性ケイ酸鉱物やケイ酸塩鉱物と反応して生成するゲルの吸水膨張によりひび割れが発生する現象とされています。

〈中略〉

著者の研究では、アルカリ骨材反応と判断される現象の多くは、セメントの異常水和反応が原因であると考えています。すなわち、著者の研究によれば、以下のような説明になります。

 セメントの水和反応は、セメントの主成分であるカルシウム(Ca)とケイ素(Si)が水と反応して3CaO・2SiO2・3H2Oの組織に近い物質(C-S-H)が形成され、これがセメント水和硬化体の骨格となります。しかしながら、セメントの粉末度が高く、混和する水量が多いと反応が異なってきます。セメントの主成分は、カルシウム(Ca)とケイ素(Si)とアルミニウム(Al)ならびに鉄(Fe)です。これらのうち、イオン化傾向が高い(水に溶けやすい)カルシウムとアルミニウムが水に溶解し、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]やライム(CaO)・アルミナ(Al2O3)、水の化合物である「カルシウム アルミネート ハイドレート」の生成反応が活発となります。加えて、セメントに混和している石膏(CaSO4・2H2O)がセメントから溶出するカルシウムと反応して、急激にエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を形成します。これらの反応は膨張を伴いますので、コンクリートの強度発生は早くなりますが、セメント水和硬化体の骨格となるC-S-Hの形成に勝ると、ひび割れ発生の原因となります。このようなセメントの好ましくない水和反応は、コンクリート中の骨材から溶出する成分によって左右されます。

 本書は話題としてアルカリ骨材反応を取り上げ、外国からの情報を簡単に鵜呑みにせず、研究と常識の幅を広げ、真実の探求の必要性を知っていただきたいと願って書いています。

 〈中略〉

 みなさんの資産である自宅の土台や壁、自宅マンションのコンクリートが、早期劣化しても運だと思ってあきらめますか?本書は、みなさんが一方的に負の財産を押し付けられることがないよう、著者自身の眼で見、観察し、研究した結果に基づき、通説に異なるセメント水和反応論とともに「アルカリ骨材反応」というコンクリートの早期劣化反応のメカニズムについて、新たな考え方を話題として提起しました。「科学の真実は一つ」と言いますので、いずれの日かコンクリートの諸問題は解決するかと思いますが、本書が多少なりともみなさんのお役に立つならば幸いと考えています。

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著:丸 章夫(〈一財〉先端建設技術センター)
監修:〈一財〉先端建設技術センター

「骨材の岩石がコンクリートの寿命に影響する」

もっともらしい主張にもかかわらず、各種骨材がコンクリートにどのような影響を与えるのかについてはほとんどまとめられていないし、いまだ明確な規格・基準も存在しない。

 本書は、国内で骨材として使用されている全27種類の岩石、およびそこに含まれる鉱物に対して、それぞれの見分け方、特徴からコンクリートに与える影響までを網羅的に解説している。

また、コンクリートの劣化をもたらす異常水和反応や、正常で耐久性のあるコンクリートの施工指針についても説明。

巻末には、岩石の種類の同定に役立つよう偏光顕微鏡によるカラー写真を掲載。

 鉱物学の知見をもち、長年コンクリートの調査を行ってきた著者による、貴重な一冊。

 

【目次】
第1章 コンクリートの成り立ち

第2章 コンクリートの鉱物化学的観察
 2.1 試験観察方法
 2.2 用語の解説

第3章 コンクリート骨材
 3.1 岩石の分類
 3.2 コンクリート骨材岩石

第4章 骨材岩石各論
 4.1 火成岩
 4.2 変成岩
 4.3 堆積岩

第5章 鉱物各論
 5.1 初生鉱物
 5.2 後生(二次)鉱物
 5.3 コンクリートに有害な鉱物
 5.4 人工物
 5.5 アルカリ反応性鉱物

第6章 セメントの水和反応
 6.1 セメント
 6.2 セメントの成分
 6.3 市販セメント
 6.4 市販セメントの水和反応

第7章 国内の既存構造物コンクリート健全度調査
 7.1 調査手段
 7.2 調査結果
 7.3 古いコンクリートのセメント水和反応生成物

第8章 コンクリートの異常水和反応
 8.1 アルカリ骨材反応
 8.2 骨材岩石がコンクリートに及ぼす影響
 8.3 コンクリート中表面に近い部分と深部との水和反応

第9章 コンクリートの規格と施工指針
 9.1 フレッシュコンクリートの運搬時間
 9.2 コンクリートの養生期間と型枠の取り外し時期
 9.3 担当官庁の考え方
 9.4 フレッシュコンクリート(レディミクストコンクリート)の取り扱いに関する認識度

第10章 コンクリートの異常反応と不具合発生
 10.1 アルカリ骨材反応
 10.2 アルカリシリカゲルの生成とひび割れ発生
 10.3 セメントの水和反応
 10.4 セメントの水和反応に影響を及ぼす岩石鉱物
 10.5 コンクリートの異常反応が起る原因
 10.6 人為的に起こる不具合発生
 10.7 外国産骨材の取引きは要注意

第11章 コンクリート中のセメントの異常水和反応を抑制あるいは正常化する方法
 11.1 既設構造物コンクリートの改質
 11.2 コンクリート中の異常水和反応を抑制する混和材
 11.3 著者の研究

第12章 正常で耐久性のあるコンクリートにするには
 12.1 コンクリート骨材として使用するにあたり必要な規格と調査試験
 12.2 使用セメントの規格と調査試験
 12.3 コンクリートの規格と調査試験
 12.4 コンクリートの化学的性状を知るためには
 12.5 コンクリートの品質管理に必要な規格調査試験

参考文献
参考資料
あとがき
索引
巻末カラー写真

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