数値シミュレーションで大気環境問題に挑む ――【近刊紹介】『大気環境モデリング』(鵜野伊津志 編著、弓本桂也・板橋秀一 共著)
2021年1月下旬発行予定の新刊書籍、『大気環境モデリング』のご紹介です。
オゾン、NOx、SOx、PM2.5、黄砂など、私たちをとりまく大気にはさまざまな汚染物質が存在しています。そしてその汚染物質がもたらす影響の規模も、地球温暖化のような地球規模のものから、私たち自身の健康などさまざまです。このように、「大気汚染」といっても、その原因となる物質や規模は一括りにはできません。そのうえ、化学反応での生成や大気中での拡散、風による輸送など、多くのプロセスが複雑に絡み合っているため、汚染物質の振る舞いを予測することは非常に困難になっています。
このような大気環境問題の解明と解決のために取り組まれているのが、「化学輸送モデル(chemical transport model)」とよばれる数値シミュレーションモデルを用いた研究です。化学輸送モデルでは、大気汚染物質の発生や輸送といった時間変化を、基本的な物理法則・化学法則に基づいて記述しています。考慮するプロセスや領域に応じてさまざまなモデルが開発されており、観測データだけではわからない挙動の分析や将来の予測に活用されています。
本書『大気環境モデリング』では、化学輸送モデルをきちんと扱えるようになるために、必要となる基礎知識から実際の応用例まで3部構成で解説しています。
・まず第Ⅰ部(基礎編)では、化学輸送モデルで考慮される物理的・化学的なプロセス、そしてその方程式を解説しています。流体力学や大気化学、エアロゾルの振る舞いや大気放射などが、モデルへの応用を念頭においてまとめられています。モデルをブラックボックスとしないように、現象の因果関係などを正確に把握するために必要な知識が得られます。
・続く第Ⅱ部(数値計算技術編)では、第Ⅰ部で解説した方程式をコンピュータでどのように計算するのかを解説しています。基本的な数値積分の手法や、山岳のような地形を考慮する方法などが、第Ⅰ部と同様に、化学輸送モデルへの応用を念頭においてまとめられています。
・そして第Ⅲ部(応用編)では、第Ⅰ部と第Ⅱ部をもとにして、オゾンや黄砂といった実際の大気汚染問題へ化学輸送モデルを適用した事例を示しています。さらに、より分析や予測の精度を高めるために、モデルと実際の観測データと連携する「データ同化」という手法も解説しています。
はじめて学ぶときだけでなく、いままでに身につけた知識を整理したいとき、さらに研究で困ったときにも役に立つ、必携の一冊です。ぜひ一度手に取ってみてください。
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『大気環境モデリング』
https://www.morikita.co.jp/books/book/3549
編著:鵜野伊津志
共著:弓本桂也・板橋秀一
工場の排気ガスから海を渡り飛来する黄砂まで、大気環境の汚染はさまざまな物質と規模が関わる、複雑な課題である。その解明と解決のため、「化学輸送モデル」を用いた解析が活発に取り組まれている。
本書では、化学輸送モデルを正しく使用するために必要となる事柄が包括的に解説されている。はじめて学ぶときだけでなく、知識を整理したいときや研究で困ったときにも役に立つ、必携の一冊である。
〈本書の構成〉
●第Ⅰ部(基礎理論)
モデルがどのような物理・化学過程を扱い、どのような規模・状況に適用できるのか。その中身をブラックボックスとしないための基礎がまとめられている。
●第Ⅱ部(数値計算技術)
モデルはさまざまな要素を含み複雑で、理論的に解くことは難しい。実際の現象へ適用するために、数値的に解析する手法がまとめられている。
●第Ⅲ部(応用例)
モデルを現実の環境問題へ適用した事例を紹介する。さらに、実際の観測データと連携し、予測の精度を高めるための発展的な手法も解説する。
【目次】
まえがき
第Ⅰ部 基礎編
1 大気環境モデリングとは — 現在までと将来
1.1 はじめに
1.2 モデルの数学的表現と分類
1.3 化学輸送モデルの歴史的展開と気象モデルとの連携
1.4 越境大気汚染と黄砂
1.5 衛星観測との連携の重要性
1.6 今後の展開
2 大気と物質輸送の基礎方程式
2.1 大気の組成・混合比
2.2 乾燥空気の状態方程式
2.3 静力学平衡
2.4 水蒸気量の表現法
2.5 断熱減率・温位・大気の安定と不安定
2.6 大気境界層の日変化と拡散
2.7 連続の式と移流拡散方程式 — 化学成分の輸送式の基礎
2.8 流体運動の基礎方程式
3 大気化学反応の基礎とモデル化
3.1 化学反応の基礎
3.2 光化学NOxサイクルによるオゾン生成過程
3.3 炭化水素が共存する系におけるオゾン生成過程
3.4 光解離速度定数
3.5 大気反応モデルでの炭化水素のモデル化
4 大気エアロゾルの物理・化学過程
4.1 エアロゾルとは
4.2 粒径と粒径分布
4.3 重力沈降速度と滞留時間
4.4 硫酸塩・硝酸塩
4.5 炭素系エアロゾル
4.6 内部混合・外部混合と変質・エイジング
5 大気放射過程
5.1 大気放射の基礎
5.2 気体分子やエアロゾルの大気放射過程
第Ⅱ部 数値計算技術編
6 化学輸送モデルの構成と数値計算法
6.1 モデルの構成と分類
6.2 演算子分離法
6.3 差分法
6.4 数値差分の安定性
6.5 差分法のまとめ
6.6 化学輸送モデルでよく使われる差分法
6.7 水平格子システムと定義点
6.8 水平座標系
6.9 鉛直座標系
6.10 化学反応計算の数値解法
7 化学輸送モデルのサブモデル
7.1 排出インベントリ
7.2 乾性沈着
7.3 湿性沈着
7.4 境界条件
第Ⅲ部 応用編
8 化学輸送モデルの応用 — アジアスケールの解析
8.1 光化学オゾン
8.2 二次生成無機エアロゾル
8.3 総観規模の気圧変化と越境輸送
8.4 沈着量解析
8.5 ソース・レセプター解析法とその応用
8.6 モデルの評価法
9 黄砂のモデリングと応用
9.1 黄砂とは
9.2 黄砂の発生モデリング
9.3 春季の黄砂イベントの解析
9.4 黄砂表面での不均一反応のモデル化
9.5 黄砂の発生・輸送モデルの利点と問題点 — 今後の展望
10 化学輸送モデルとデータ同化 — 観測データと数値モデルの連携
10.1 誤差
10.2 同化理論の概略
10.3 データ同化の応用
付録1 大気環境基準
付録2 おもな略称
あとがき
参考文献
索引
コラム
コラム1 計算機環境と気象・化学輸送モデルの歴史的変遷
コラム2 オフラインとオンライン化学輸送モデル
コラム3 ライダーによるエアロゾル観測
コラム4 三項方程式の数値解法
コラム5 化学反応系の数値積分の困難さ
コラム6 越境大気汚染の年々変動
コラム7 化学輸送モデルのプロセス解析
コラム8 トラジェクトリー解析とオイラー型モデルとの連携
コラム9 黄砂の三次元構造と輸送
コラム10 再解析
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