【内容一部公開】全体像がよくわかる!――近刊『通信ネットワーク工学入門』
2023年8月下旬発行予定の新刊書籍、『通信ネットワーク工学入門』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。
まえがき
人間社会は、情報や知識を共有するコミュニケーションにより成り立っている。人の最初のコミュニケーション手段は、身振りや手振りであったと想像されるが、徐々に、絵、言葉、文字などで情報を伝えるようになっていったと考えられる。その後、より多くの人に情報や知識を伝える手段の一例として、活版印刷技術が15世紀に発明され、社会に大きな変革をもたらした。18世紀から19世紀にかけては、離れたところにいる相手に対して直接情報を伝えることができる電信機が実用化されていくことになった。20世紀後半、とりわけ1980~1990年代以降、ディジタル技術の進歩とともに情報通信技術は目覚ましい発展を遂げた。
現在では、インターネットの拡大により、世界中のコンピュータがつながる時代となった。これにより、従来の音声通話だけではなく、映像配信やSNS(social networking service)など、通信サービスの利用形態も多様化している。また、無線技術を使う移動体通信サービスも1990年代以降に急速に普及し、人々の生活を支える重要な社会インフラとして定着している。こうした状況のなか、通信ネットワークを流れるデータ量は年々増加傾向にあり、伝送容量の拡大に向けて、情報通信技術のさらなる高度化が期待されている。
さて、近年、通信ネットワークを構成する要素技術は高度に細分化されている。ここで、送信元から受信先への通信過程を例に挙げると、情報信号の符号化などの基本操作に加えて、複数の情報信号を一つの伝送路にまとめて伝送する多重化技術、伝送路を確立する交換技術など、さまざまな要素技術の組み合わせにより通信が実現される。また、20世紀までは音声通話を主体とする電話ネットワークの利用が需要の中心であったが、現在では、インターネットや移動体通信ネットワークの利用が飛躍的に拡大している。このように、世界中の情報のやりとりを可能にする通信ネットワークを取り巻く環境は大きく変化し、その構成要素および関連技術を学ぶ際に求められる知識は多様化している。
本書は、理工系の大学学部生あるいは大学院生、ならびにエンジニアの方々が情報通信の基礎を理解する際に求められる幅広い知識を体系的に学ぶことを主眼として取りまとめた。本書の特徴やねらいは、以下のとおりである。
通信ネットワークを学ぶ際の事前知識となる「情報信号の種別」などの基礎項目を、初学者向けに丁寧に整理した。また、初学者が理解しやすい内容にするために、記述する項目を必要以上に増やさないように配慮した。
通信ネットワークに関わる分野は、内容が多岐にわたるため、個々の要素技術の位置づけや全体像を初学者が十分に理解できないケースが見受けられる。本書では、「情報信号の種別と変換処理」、「ディジタル伝送技術の基礎」、「通信ネットワークの構成要素技術」など、初学者が体系的に理解しやすい区分になるように章構成を工夫して取りまとめた。
国内では、2024年1月を目途に、従来の電話ネットワークからIP(インターネットプロトコル)技術をベースとする次世代ネットワーク(NGN:next generation network)へ移行することが決定した。こうした背景もあり、従来のテキストで解説されているテーマに加えて、新たな情報を記載する必要性が生じている。本書では、通信ネットワークのさらなる高度化の理解に際して求められる知識を習得する観点より、「IPネットワークの高度化技術」、「各種の通信ネットワークの事例(NGNほか)」、「ネットワーク管理評価技術」などの幅広いテーマを記載した。また、通信ネットワークの規格動向なども、参考情報として加えている。
大学の学部生や大学院生、さらには関連する分野の技術者・研究者の方々のお役に立てれば幸いである。ただ、著者の浅学非才のため、改善すべき事項が見出されるかもしれない。その点について読者諸氏のご意見、ご叱責を頂ければ幸いである。
(以下略)
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