【内容一部公開】実用的な制御設計に役立つ一冊!――近刊『同期モータの基礎と制御』
2023年7月上旬発行予定の新刊書籍、『同期モータの基礎と制御』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。
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まえがき
速度制御が必要なシステムの駆動用モータには、誘導モータや同期モータが用いられる。この2つの最も大きな構造上の相違点は、回転子における永久磁石の利用にある。誘導モータは永久磁石を使用せず、このことが堅牢性につながっている。しかし、永久磁石のかわりとして、電磁誘導作用を利用して回転子に磁石と等価な電流を生じさせる必要がある。このため、電源側に必要とされる供給電流が増えるだけでなく、その分のジュール損が発生して機器の温度上昇を引き起こすことから、モータの体積が大きくなってしまう。一方、同期モータは永久磁石を利用する。永久磁石はコストがかかるため、その点では不利だが、モータの体積を小さくすることができ、モータを格納するスペースが限られる用途には適している。世界初のハイブリッド自動車には、同期モータの一種であるIPMモータが適用されて成功を収めている。
本書では、同期モータの理論的な解析、座標変換、モデリング、制御系設計と数値シミュレーション、ならびに温度上昇のダイナミクスを議論の中心に据え、周辺技術としての電池およびパワーエレクトロニクスについても述べる。
【本書の特長】
現象の基礎から解説 電磁界解析、パワーエレクトロニクス、制御系設計技術、材料技術などの進歩により、電気機器の力率・効率、応答性能、および静粛性は大きな発展を遂げている。電気機器においては、電気的エネルギー、電界のエネルギーや磁界のエネルギー、力学的エネルギー、および熱エネルギーが相互に関連することから、横断的な知識が要求される。この技術を習得するためには理論的な基礎を把握しておく必要があり、本書では、定式化から現象の詳細な考察に至る基礎の記述に重点をおいている。
集中定数表現による記述 モータの設計において、温度上昇の見積もりは設計の最終段階において重要である。過度な温度上昇の余裕はコストのむだを生じさせ、その一方で、限界を超えれば絶縁材料の劣化による動作不良だけでなく、ユーザからの信頼失墜をまねくことになる。したがって、正確な知識による温度上昇の計算が必須である。モータの運転には連続定格だけでなく、短時間定格や反復定格がある。このため、温度計算は基本的に、微分方程式を計算することになる。しかし、これを集中定数回路として表現すると、設計エンジニアにとって計算が容易となり、その実際的な価値は大きい。そのような背景から、温度上昇の支配方程式をエネルギーの関係式から定式化し、新しい用語として「熱キャパシタンス」を導入することで、集中定数表現で理解できるようにした。
電磁力を求める方法は、大きく分けて以下の3通りがある。
近接作用としての電磁界を用いる方法
遠隔作用としての電磁界源を用いる方法
静電容量やインダクタンスによって集中定数表示されたモデルを対象にエネルギーを求めて電磁力を定式化する方法
本書では、集中定数表現による手法を、アプローチを変えながら眺める。一般的な解析においてはつねに、たとえば力学系における力と変位のように、対となる状態変数が必要になる。エネルギーを決めるところの対となる状態変数については、ウッドソンとメルヒャーの著作『電気力学1(大越,二宮訳)』に見られる電気端子対と機械端子対という拡張概念を用いることで、自然な定式化が行えることを示した。
系統的なモデル化 同期リラクタンスモータ、SPMモータ、そしてIPMモータの3種類に分類される同期モータについて、理論的に厳密で系統的なモデル化を行った。また、インダクタンス行列の定式化も厳密に行っている。これは、従来の文献ではあまり見当たらない。
さらに、回転座標系で現れる速度起電力は、まさに力学系の見かけの力に対応していることから、「見かけの速度起電力」と呼称してその物理的な意義を強調し、3種のモータすべてについて制御系の数値シミュレーションを行った。シミュレーションの意義は、数式だけではわからない物理現象の理解が深められる点にある。また、近年ハイブリッド自動車などの普及により日常的に意識されるようになった回生ブレーキについても、シミュレーションを用いて解説している。
静電アクチュエータの静電エネルギーを決める状態変数、すなわち電気端子対は、電圧と電荷量である。磁気アクチュエータの磁気エネルギーを決める状態変数、すなわち電気端子対は、磁束鎖交数と電流である。回転形アクチュエータの力学的エネルギーを決める状態変数、すなわち機械端子対は、トルクと変位である。同様に、永久磁石という素子についても、回路表現が可能なことから想像できるように、電気端子対を設定できる。これによって、エネルギーの表現の理論的な一貫性を保つことになり、同期モータの中でも近年とくに注目されているIPMモータにもその一般式が適用できることも示した。また、同期リラクタンスモータとIPMモータは、リラクタンストルクを利用するものであり、この場合は相間の相互インダクタンスが回転角度に従って変化する。このため、相互インダクタンスを考慮できる2次形式表現の磁気エネルギーの一般式を適用してトルクの定式化を行って、2次形式表現の有用性を示している。
実用的な設計 制御系の設計手法にはさまざまな方法がある。同期モータの中でも回転子の突極性を利用した同期リラクタンスモータやIPMモータの場合は、非線形性を考慮しなければならず、制御系設計は容易でもない。そこで本書では、このような制御対象に対する内部モデル制御の適用可能性に着目して、その基礎理論を詳細に述べる。そして、3種類の同期モータの駆動系に適用してゲインスケジューリングを併用することで安定な制御系を構築し、数値シミュレーションを行ってモータ内部の現象を考察する。
また、モータの電気系の等価回路、負荷としてつながる力学系の電気的等価回路、そして機器の温度上昇を表す熱系の電気的等価回路をそれぞれのモータについて示し、実用的な設計にも利用できる、統合的な等価回路を提案している。
(以下略)
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