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既存の形状にとらわれない最適設計技術を詳説――近刊『電磁界解析による最適設計-トポロジー最適化の基礎から機械学習まで-』まえがき公開

2023年2月下旬発行予定の新刊書籍、『電磁界解析による最適設計-トポロジー最適化の基礎から機械学習まで-』のご紹介です。
同書の「まえがき」を、発行に先駆けて公開します。



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まえがき
本書は電気機器の最適設計について、基礎から応用まで広く述べています。とくに穴の生成・消滅を含めた自由変形により最適構造を探索するトポロジー最適化と、深層学習やモンテカルロ木探索など、機械学習を用いた最適化について詳しく述べています。また、電磁界解析の基礎事項に加え、細かな構造をもつ対象を均質な材料で置き換えて解析する均質化や、多くの未知数で記述されるシステムを小さな変数で精度よく表現するモデル縮約、さらにはモデル縮約による等価回路生成などについて、わかりやすく述べています。

本書は、これから卒業研究を始める学部学生が独力で読めるように、基礎事項からできるだけ式の導出を省かずに記述しました。また、様々な最適設計手法や機械学習法の基本的な考え方がわかるように、可能な限り天下り的な記述を避けて、発見的に原理・手法に至るようにしています。本書は、学部学生を始めとして、電気機器の設計開発に携わる企業の技術者・研究者や、機械学習やトポロジー最適化を仕事に生かそうと考えている技術者まで、広い分野の読者を対象としています。

機器の設計においては、コストやサイズ、強度、環境負荷などの複雑な条件を満たしつつ、互いに絡み合う多数の性能指標を最大にする必要があります。このため機器の設計には、技術者の豊富な知識と経験が必要です。また設計検討には、非常に長い時間がかかります。最適設計、AI・機械学習はこれらの問題の克服に有効でしょう。

本書で述べるトポロジー最適化は、人工知能研究分野で開発された確率的最適化法を用いています。これにより、高い性能をもち、かつまったく新しい構造の機器を見出すことができます。また、ヒトの知性をコンピュータで実現するAIや、深層学習を始めとする機械学習により、機器形状や設計パラメータから特性を高速に予測し、最適化計算を高速化することができます。さらに、囲碁の人工知能でも用いられるモンテカルロ木探索によって、機器全体と部分を同時に最適化することができます。このような技術を駆使することで、設計検討の時間を減らし、また設計の質を本質的に高めることができるでしょう。さらにはコンピュータによる自動設計や、設計者とコンピュータが協調した創造的な設計を実現できると考えます。本書の内容を以下に述べます。

第1章では、モータや変圧器・インダクタ・非接触給電のような電気機器の電磁界について述べています。とくに設計で重要となる損失解析について詳しく述べています。また、リッツ線や圧粉磁芯、電磁鋼板のような細かな構造をもつ対象を均質材料で表す均質化について議論しています。

第2章では、電気・電子機器の解析に広く用いられる有限要素法について述べています。とくに、3次元解析で用いられる辺要素について、発見的に記述しています。また、電磁波解析で用いられるFDTD法や、大規模な連立方程式を少数の未知数の方程式に置き換えるモデル縮約、さらにはモデル縮約による等価回路生成について述べています。

第3章では、最適設計で必要となる最適化法について述べています。とくに、勾配計算が不要で広域探索が可能な確率的最適化法について詳しく述べています。また、確率的手法を用いた多目的最適化、高次元空間の解の可視化やモデル縮約で用いられる主成分分析・オートエンコーダについても述べています。

第4章では、確率的最適化法を用いたトポロジー最適化を中心に述べています。具体例として、モータや非接触給電、アンテナ、マイクロストリップ線路のトポロジー最適化について述べています。

第5章では、機械学習による代替モデルについて詳しく述べています。計算コストが大きな有限要素法などの解析法の代わりに、応答曲面・ニューラルネットワーク・回帰木・深層学習などの機械学習法を用いることで、最適設計を高速化することができます。また、機械学習の導入の効果や学習データの構築についても議論しています。さらに、最適化を行いながら代替モデルを構築していくベイズ最適化の基礎事項について述べています。最後に、機器の全体的な構成と、部分構造・形状を同時に最適化するモンテカルロ木探索について述べています。

電磁界解析では静磁界解析を行うのか、渦電流を考慮した準静磁界解析を行うのか、それとも電磁波解析を行うのかを決めることが重要です。付録Aでは、これらそれぞれの場合の支配方程式をまとめています。また、マクスウェル方程式から導かれる保存則、マクスウェル応力、永久磁石のモデル化についても詳しく述べています。付録Bでは、電磁界解析を行ううえで重要な境界条件と、エネルギーと力およびインダクタンスについて述べています。また、電気・電子機器を解析するうえで必要となる、微分インダクタンスについて述べています。

(中略)

最適化技術やAI・機械学習の進歩は留まるところを知りません。伝統のある電気・電子工学、機械工学、土木工学などにこれらの新しい情報学を導入することで、新しい地平が拓かれていくでしょう。本書が、この分野の発展に何らかの形で寄与できれば幸いです。

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著:五十嵐 一(北海道大学)

近年注目を集めるトポロジー最適化と、深層学習やモンテカルロ木探索などの機械学習を用いた手法を中心に、電気機器の各種デバイスの形状最適化の理論をまとめた待望の書籍。
 
モータ、アンテナ、マイクロストリップ線路、磁気シールドといった具体例を対象に、最適化の理論的基礎やアルゴリズム、計算の高速化まで詳しく解説します。
また、最適化に用いられる数理的手法についても、電磁界解析の基礎からはじめて、均質化・モデル縮約・等価回路生成などまでわかりやすくフォローしています。
 
電気機器の設計開発に携わるエンジニア、研究者に有用な一冊です。

【目次】
第1章 電気機器の電磁界

 1.1 表皮効果と近接効果
 1.2 損失解析
 1.3 均質化
 1.4 モータ解析
 まとめと展望

第2章 電磁界解析
 2.1 有限要素法による2次元解析
 2.2 有限要素法による3次元解析
 2.3 有限要素
 2.4 有限要素法による電磁力解析
 2.5 有限要素解析の急所
 2.6 FDTD法
 2.7 モデル縮約
 まとめと展望

第3章 最適化手法
 3.1 決定的最適化
 3.2 正規分布
 3.3 進化型最適化
 3.4 多目的最適化
 3.5 焼きなまし法(SA)
 3.6 データの低次元化と可視化
 まとめと展望

第4章 最適設計
 4.1 パラメータ最適化
 4.2 トポロジー最適化
 4.3 ガウス基底関数法(NGnet法)
 4.4 永久磁石モータのトポロジー最適化
 4.5 非接触給電装置のトポロジー最適化
 4.6 アンテナのトポロジー最適化
 4.7 マイクロストリップ線路のトポロジー最適化
 4.8 トポロジー最適化困難な問題
 まとめと展望

第5章 機械学習を用いた最適化
 5.1 代替モデルによる高速化
 5.2 応答曲面法
 5.3 ニューラルネットワーク(NN)
 5.4 回帰木
 5.5 応答曲面法・NN・回帰木の適用例
 5.6 ベイズ最適化
 5.7 深層学習
 5.8 説明可能なAI
 5.9 モンテカルロ木探索による総合設計
 まとめと展望

付録A 電磁界の方程式
 A.1 マクスウェル方程式
 A.2 保存則
 A.3 静電界
 A.4 静磁界
 A.5 永久磁石と減磁
 A.6 準静磁界
 A.7 準静電界
 A.8 電磁波
 A.9 材料境界の電磁界
 まとめと展望

付録B 電磁界解析のための基礎的事項
 B.1 境界条件
 B.2 エネルギーと力
 B.3 インダクタンス
 まとめ

参考文献
索引


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