【近刊紹介】『リーマン面の理論』(寺杣友秀 著)
2019年11月下旬発行予定、『リーマン面の理論』(寺杣友秀 著)の紹介です。
加藤文元先生より、熱い推薦の言葉をいただいています。
加藤文元先生(東京工業大学教授)ご推薦!
地に足のついた「本当の」リーマン面から現代数学への確かな視界を開こう!
リーマン面の理論は代数幾何学をはじめとした、多くの現代数学の入り口である。古典論から数論・代数幾何学への橋渡しを通して、本書は現代数学への着実なアプローチを提供し、大学の基礎数学課程と現代数学の間隙を埋めるダイナミックな本になっている。
「多くの現代数学の入り口」(by 加藤先生)、あるいは「現代数学の諸分野において多くの理論のひな型」(『リーマン面の理論』p.i)といわれる「リーマン面」。どんな概念なのでしょうか。
『リーマン面の理論』の「まえがき」には、「どういった動機でリーマン面の考え方が起こり、どう利用されていったのか一連のストーリー」が解説されています。以下は、寺杣友秀著『リーマン面の理論』の「まえがき」からの一部抜粋です。
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リーマン面の起こりと来歴
著:寺杣友秀
初等超越関数とよばれる、三角関数、指数関数、対数関数から一歩踏み出した超越関数である楕円積分や楕円関数の研究は、オイラーやガウスによって始められた。三角関数と指数関数は複素関数のレベルにまで一般化されたとき、それらは本質的に同じものであるということは、オイラーの等式を通してオイラーによって発見された事実である。指数関数が虚数2πiを周期にもつ周期関数であることがこれからわかる。その一般化として、楕円関数が2重の周期をもつ関数として定義された。このように、楕円関数は、周期性をもつという点が三角関数と似ている点である。もう一つの特徴的な性質として、三角関数と類似の加法定理が成り立つということがある。楕円関数の加法定理は、楕円曲線の代数幾何学的な演算の帰結であることがわかってきた。
この過程で、関数を考えるためにその関数の定義域であるべき「もの」がどういったものであるか、を考えることが重要であることが、次第に認識されていったのであるが、そのことを数学的にはっきり言い切ったのがリーマンである。その定義域として採用したのが、リーマン面である。その際、理論の根拠となった事実が、正則関数の一致の原理と解析接続の考え方であった。さらに、楕円積分を定義するための微分形式はそのリーマン面の上の微分形式と考えるべきで、そのためにはリーマン面自体をより正確に定め、研究することが大切であることが明らかになってきた。
そうして、楕円積分や超楕円積分の理論を進展させるには、いくつかはっきりさせておかなければならない基本的問題が整理されていった。その一つが、本書でもちょうど真ん中あたりで扱うリーマン–ロッホの定理とも関連することで、リーマン面上にどれくらい多くの有理関数があるか?という問題である。この問題を考えるうえで、コンパクト・リーマン面においては、その「種数」が重要な役割を果たす。種数は連続変形で変わらない位相的な不変量で、そういったものが「有理関数がどれくらい存在するか」をコントロールするのである。
楕円積分は、正則微分形式の積分として、一般のリーマン面に一般化される。種数がgのコンパクト・リーマン面においては、正則微分形式の積分には2g個の周期が存在することがわかる。一般の複素多様体において、位相的なサイクル上で微分形式を積分するという操作により、ド・ラム・コホモロジー群と特異ホモロジーの間の双一次形式が定まり、これは互いの他の双対を与える。この双一次形式を周期積分という。本書ではリーマン面の場合に話を限って、周期積分を扱う。
リーマン面の積分周期は、位相的な不変量よりさらに精密なリーマン面の同型類から定まり、リーマン面の不変量となる。楕円積分の場合は、正則微分形式の二つの周期は楕円関数の2重周期を引き起こす。楕円関数の定義域としてのリーマン面は楕円曲線とよばれるが、その楕円曲線の上で与えられた極と零点をもつ有理関数の存在は、その周期によって完全に記述される。この事実をリーマン面の場合に一般化したのがアーベル–ヤコビの定理である。その意味でアーベル–ヤコビの定理は関数論的な定理といえるが、一方ではリーマン面の上の点の重複度まで込めた配置がいつ有理関数の極あるいは零点になるか、という問題ととらえれば、代数幾何の問題ともいえる。本書では扱うことはできないが、この考え方は高次元の場合にも一般化され、チャウ群という群の研究へと発展する。
リーマン面とその上の複素関数や複素積分を扱う複素関数論が発展する一方で、一般の多様体や代数多様体の代数的扱いをスムーズに行うために、コホモロジーの理論が整備されてきた。コホモロジー理論はその後抽象化され、代数幾何のみならず、数論幾何の分野にも応用されるようになり発展し、現代数学では欠くことのできない項目となっている。こういった道具がいかに強力なものであるかを体感してもらうためにも、リーマン面は恰好の題材であると思われる。本書〔『リーマン面の理論』〕では、コホモロジー的な原理がいかに有効であるかということが理解できるよう、入門的な観点から説明しようと試みる。
出典:『リーマン面の理論』
寺杣 友秀(てらそま・ともひで)
東京大学名誉教授、法政大学教授。
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『リーマン面の理論』
リーマン面はどのように生まれたのか?
どのように利用されてきたのか?
――基礎から丁寧に説き明かす。
リーマン面の起こりや複素関数論の復習から始まり、リーマン–ロッホの定理やセールの双対定理といった基本事項、周期積分やアーベル多様体、保型形式までを解説。リーマン–ロッホの定理の証明にあたっては、現代数学に欠かせないコホモロジーの理論が初歩から導入されている。このため、コホモロジー理論の理解も深まり、その有用性を実感することができる。
【目次】
第1章 楕円関数の2重周期性と楕円曲線
第2章 複素関数論からの準備
第3章 リーマン面の定義と正則関数
第4章 層とそのコホモロジー
第5章 正則ベクトル束とリーマン面上の有理関数
第6章 セールの双対定理
第7章 コンパクト・リーマン面と代数曲線
第8章 周期積分、ヤコビ多様体とアーベルの定理
第9章 アーベル多様体
第10章 周期積分と微分方程式
第11章 楕円曲線と保型形式
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