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【内容一部公開】圏論ネイティブ時代に必携の1冊!――近刊『ストリング図で学ぶ圏論の基礎』
2025年1月下旬発行の新刊書籍、『ストリング図で学ぶ圏論の基礎』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。
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まえがき
この本では、ストリング図とよばれる図式を積極的に用いることで、圏論の基礎を直観的にわかりやすい形で、かつある程度しっかりと学べることをめざしている。圏論は、数学のみではなく物理学や計算機科学をはじめとする多くの分野でも活躍するようになってきている。しかし、数学にそれほど得意ではない人が圏論を学び始めると、多くの場合にその難しさに圧倒されてしまうのではないかと思う。圏論を難しいと感じる主な理由としては、具体的な適用例や応用先がイメージしにくいことや、圏論の数学的な構造自体が複雑に思えることなどが挙げられるかもしれない。前者の具体例や応用先については丁寧に述べられている多くの書籍があるので、本書では主に後者の数学的構造をわかりやすく伝えることをめざした。
ストリング図を用いた理由は、圏論の数学的構造の基礎を学ぶのに適していると考えるためである。本書の対象読者として、圏論に十分には慣れていない人(初学者を含む)や、ほかの書籍で圏論を学ぼうとしたものの途中で挫折してしまった人などを含む、幅広い層の人を想定している。数学ではなく物理学や計算機科学を専門とする人、またはそれらを志す学生でも丁寧に読めば理解できることをめざした。
圏論の書籍を読んだことのある読者のうち、(少なくとも学び始めの段階において)たとえば次の経験をした方は多いのではないだろうか。
射と関手と自然変換の違いが明確にイメージできない。
複数の圏が登場すると、どの圏での話をしているのかわからなくなる。
米田の補題がよくわからない。
本書で用いるストリング図は、このような問題を改善するために推奨できるツールである。標準的な圏論の書籍で頻繁に用いられる可換図式などと比べ、ストリング図では複雑な数学的構造をよりスマートな形で表せることがしばしばある。各種の命題を厳密に証明するような場合でも、ストリング図が役に立つことは多い。しかし、ストリング図を積極的に用いた圏論の入門書はほとんどないように思う。本書の特徴は、初歩の段階からストリング図に基づいて圏論の基礎を説明している点であろう。
圏論は、本質的な数学的構造を抽出したい場合にしばしば役に立つ。圏論では、これらの数学的構造を数式で表し、それと併用する、または数式をサポートする形で可換図式などがよく用いられる。ストリング図は、これらの数学的構造の多くを厳密性を損なうことなくわかりやすい形で表せる。ストリング図を用いれば、多くの情報を的確かつ整合性のある形で伝えられる場合が多いことを、本書により感じとってもらえれば幸いである。とくに、文字情報よりも視覚情報のほうが頭に入りやすいような読者に対しては、ストリング図は効果的であろう。もちろん、ストリング図よりも数式や可換図式を用いたほうが適している場面もあるが、本書が扱う範囲においてはそのような場面は多くはなさそうである。紙面の都合上、数式を用いている箇所も少なくないし、可換図式などを用いている箇所も多少はある。しかし、主要な概念についてはできるだけストリング図を用いてその数学的構造をわかりやすく説明することをめざした。ストリング図による計算は、射や自然変換を表すブロックを組み合わせることで行われる。ブロック遊びをするような気持ちで、楽しみながら圏論の基礎を学んでいただければ幸いである。
(後略)
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玉川大学 中平健治(著)
◆圏論を視覚的に理解する◆
抽象化が進み、数学的構造が複雑な圏論の概念。
その構造をストリング図で表すことで、数式だけではつかみづらい概念を視覚的に理解できるようになります。
本書では、自然性や普遍性といった基礎からはじめ、随伴、極限、カン拡張といった圏論の主要な概念を、ストリング図を用いて解説していきます。
豊富な演習問題については、こちらの【ダウンロード】で詳細解答を公開し、ストリング図を使いこなせるようになるまで手厚くサポート。
圏論をはじめて学ぶ人、他書で挫折した人だけでなく、ひととおり習得し終えた方にとっても、新たな視点や理解を得られる1冊です。
【目次】
表記
第0章 はじめに
0.1 本書の目的と特徴
0.2 ストリング図の例
0.3 想定する読者
0.4 本書の構成と読み方
0.4.1 構成
0.4.2 読み方
0.5 圏論の参考文献
第1章 圏・関手・自然変換
1.1 圏
1.1.1 集合と写像
1.1.2 モノイド
1.1.3 圏の定義と例
1.1.4 双対圏
1.1.5 始対象と終対象
1.1.6 圏の直積
1.2 関手
1.2.1 関手の定義
1.2.2 関手の例
1.2.3 反変関手
1.2.4 関手の双対
1.2.5 双関手
1.3 自然変換
1.3.1 自然変換の定義
1.3.2 自然変換の対象への作用と射への作用
1.3.3 自然変換の例
第2章 自然変換の合成と関手圏
2.1 垂直合成と水平合成
2.1.1 垂直合成
2.1.2 水平合成
2.1.3 垂直合成と水平合成が混在した式
2.1.4 垂直合成と水平合成についてのまとめ
2.1.5 圏Cat
コラム:関手と射は混同しやすい?
2.2 自然同型と圏同型・圏同値
2.2.1 自然同型
2.2.2 圏同型
2.2.3 圏同値
2.2.4 充満と忠実
2.3 関手圏
2.3.1 関手圏の定義
2.3.2 関手圏に関する関手の例
2.4 ホム関手と点線の枠による表記
2.4.1 ホム関手
2.4.2 ホム関手の間の自然変換
2.4.3 点線の枠による表記の規則
2.4.4 ホム関手との合成により得られる集合値関手と自然変換
2.5 ⋆双関手に関する基本的な性質··
2.5.1 ⋆双関手の一意性
2.5.2 ⋆双関手の間の自然変換
2.5.3 ⋆関手圏の間の標準的な関手
第3章 米田の補題と普遍性
3.1 米田の補題と米田埋め込み
3.1.1 準備:射を表す図式
3.1.2 米田の補題
3.1.3 米田埋め込み
3.2 普遍性
3.2.1 コンマ圏c↓G
3.2.2 cからGへの普遍射
3.2.3 表現可能関手
3.2.4 コンマ圏G↓c
3.2.5 Gからcへの普遍射
3.2.6 ⋆コンマ圏F↓G
3.2.7 ⋆普遍射の集まりにより得られる普遍射
第4章 随伴
4.1 随伴の定義と例
4.1.1 随伴の定義
4.1.2 随伴の例
4.2 随伴であるための必要十分条件·
4.2.1 準備:随伴から得られる普遍射
4.2.2 単位・余単位を用いた必要十分条件
4.2.3 普遍射を用いた必要十分条件
4.3 随伴の基本的な性質
4.3.1 随伴の一意性
4.3.2 水平合成に関する性質
4.3.3 ⋆圏同値に関する性質
4.3.4 ⋆双関手に関する性質
4.4 モナド
4.4.1 モナドの定義
4.4.2 モナドの例
4.4.3 モナドと随伴の関係
4.4.4 クライスリ圏とアイレンベルグ-ムーア圏
第5章 極限
5.1 極限の定義と例
5.1.1 錐と極限
5.1.2 極限の例
5.1.3 余錐と余極限
5.1.4 余極限の例
5.1.5 極限と余極限の定義からすぐに導かれる性質
5.1.6 モノ射とエピ射
5.2 極限をもつための条件
5.2.1 対角関手の右随伴としての極限
5.2.2 完備と余完備
5.3 極限の基本的な性質
5.3.1 極限を保存・創出する関手
5.3.2 ⋆関手圏への関手の極限
5.3.3 ⋆表現可能前層による前層の構成
5.3.4 ⋆双関手の極限
第6章 モノイダル圏と豊穣圏
6.1 (対称)モノイダル圏
6.1.1 厳密モノイダル圏
6.1.2 モノイダル圏
6.1.3 厳密対称モノイダル圏
6.1.4 対称モノイダル圏
6.1.5 カルテシアンモノイダル圏
6.2 モノイダル閉圏とコンパクト閉圏
6.2.1 モノイダル閉圏
6.2.2 カルテシアン閉圏
コラム:モノイダル閉圏VecKにおけるテンソル積の役割
6.2.3 ⋆コンパクト閉圏
6.3 豊穣圏
6.3.1 豊穣圏のイメージ
6.3.2 豊穣圏の定義
6.3.3 豊穣圏の例
第7章 カン拡張
7.1 カン拡張の定義と例
7.1.1 カン拡張の定義
7.1.2 カン拡張の例
7.1.3 カン拡張の定義からすぐに導かれる性質
7.2 各点カン拡張
7.2.1 準備:コンマ圏の基本的な性質
7.2.2 各点カン拡張
7.2.3 F•Pdからの余錐
7.3 カン拡張の基本的な性質
7.3.1 カン拡張を保存する関手
7.3.2 ⋆各点カン拡張をもつための条件
7.3.3 ⋆稠密な関手
7.3.4 ⋆カン拡張と随伴の関係
7.3.5 ⋆カン拡張から導かれるモナド
付録A 図式での表記
付録B ストリング図の特徴
付録C 随伴・極限・カン拡張と普遍射との関係