この分野では、ひさびさの新刊!――近刊『基礎からの高電圧工学』はじめに公開
2022年10月上旬発行予定の新刊書籍、『基礎からの高電圧工学』のご紹介です。
同書の「はじめに」を、発行に先駆けて公開します。
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はじめに
高電圧は発電、変電、送電、配電などいろいろな段階で使われている。送電には家庭で使う100Vではなく、50万ボルト(500kV)などの高電圧が使われている。身近にある電柱の電線でも6.6kVと、家庭の電圧の66倍の大きさである。なぜ危険な高電圧を利用しているのか? ひとえに送電での電力損失を小さくするためである。電力損失は主に電線に電流が流れて抵抗成分で発熱することで生じる。送電の電圧を上げることで、小さな電流で同じ電力が送電できる。電圧を66倍にすれば、電流は1/66倍なので電力損失は0.00023倍に減り、500kV送電では4×10‾⁸倍に減る。高電圧技術があってはじめて電気が発電所から各家庭に届くことが理解できる。高電圧技術の利用は電気インフラだけではない。静電気や放電プラズマを利用する多くの産業機器にも使われる。小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンも高電圧でイオンを加速する。このように高電圧工学を学ぶと、機器の故障や事故電流につながる絶縁破壊現象について学べ、電気エネルギーインフラ、高電圧を利用した産業機器、高電界で生じる物理現象など多くのことが理解できるようになる。
本書は、理工学分野に携わる大学や工業高等専門学校の学生、高電圧に携わる技術者が高電圧の基礎知識を得るための入門書として執筆・編集した。講義を行う先生方や受講する学生の利便性に配慮して、大学や高専の講義との対応するように12章だてとし、1回の講義が章一つに対応する。独学では2時間で章一つを学ぶイメージである。高電圧現象の記載は、関連する基礎科目の諸法則との関係にも触れて、専門基礎から発展的に学習ができるようにした。また、高電圧現象を説明するモデルが理解できるように、数式と説明文の双方で記述した。高電圧機器を学ぶ章では、実物を見たことがない人でもその用途と原理およびそれらの発展の歴史を容易に理解できるよう、イラスト、写真、年表などを掲載している。理解度の確認やアクティブラーニングが可能なように、例題や演習、発展的学習も加えた。演習問題解説においては、答えの導出過程も丁寧に記述している。
本書で学ぶことで本分野への興味が高まり、また、得た知識やスキルがこれからの時代、社会を切り開き生き抜く力の一助となれば筆者等の望外な喜びである。
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