さまざまな解釈の特徴と違いを網羅的に解説―—近刊『量子力学の諸解釈』はじめに公開
2022年7月上旬発行予定の新刊書籍、『量子力学の諸解釈』のご紹介です。
同書の「はじめに」を、発行に先駆けて公開します。
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はじめに
本書は量子力学のさまざまな解釈について解説した一冊である。よく知られた解釈からマイナーな解釈まで幅広く解説している。歴史上の有名な物理学者から奇才の研究者まで、量子力学をどのように解釈した(している)のか詳しく紹介していく。
本書では実在主義的な解釈をいくつか紹介しているが、量子力学においてそれらの解釈は「主流」ではなく「異端」だと見なされている。その理由は、量子力学において実在主義が「異端」だからである。量子力学での「正統」は、経験主義や道具主義とよばれる考え方である。実在主義、経験主義、道具主義という言葉にはあまりなじみがないかもしれないが、簡単に説明すると次のようになる。実在主義では「われわれが観測しなくても物質や宇宙は存在する」と考える。これに対し、経験主義は「観測しなければそれらは存在するといえない」と主張し、道具主義者は「観測しないときに存在するかどうか議論することに意味がない」という。
あなたはどの考え方がもっともらしいと思うだろうか。(筆者を含め)ふつうの人は、「われわれが見ていなくても宇宙は存在する」と考えるのではないだろうか。しかし、その考え方は実在主義的であり、量子力学では「異端」になる。なぜ多くの物理学者は経験主義や道具主義をとるのだろうか。それは、量子力学が示すさまざまな実験結果が実在主義を否定するようにみえるからである。量子力学の建設者の一人であるアインシュタインは、量子力学のこのような状況に対して友人に次のようにつぶやいたそうである。
君が見ているときだけ月が存在していると本当に君は信じるのかね?
筆者も初めて量子力学に出会ったとき驚いた。とくに、「ベルの定理」の意味に気付いたとき、人生がゆらぐほど衝撃を受けた。「そんなばかな!」「そんなことありえない!」「本当にそうなのか?」と何度も自問した。それ以来、ずっと量子力学の解釈について考え続けている。
さまざまな解釈を参考にして自分の考え方をつくったり、それを学会や研究会で、あるいは論文として発表したりした。そのなかで思ったことは、さまざまな解釈を俯瞰し、おおよその内容を知ることができるような本がほしいということだった。数式なしの啓蒙書は多数出版されているが、それでは個々の解釈の内容がわからない。数式の入った専門書もあるが、一つの解釈しか取り上げていない。数ある解釈を幅広く、しかもわかりやすく解説してくれる本がないのだ。そこで、そういう本を自分で書いてしまおうと考えた。そうしてできたのが本書である。
本書の目標は、量子力学の諸解釈を幅広く、わかりやすく説明することである。ただし、量子力学の解釈はかなり数学的で難しい。そのため、本書では図による説明も用いている。それらの図を眺めるだけでも各解釈のイメージはつかめるだろう。それらを見ながら自分に合う解釈を探すのもよいし、自分とまったく異なる考え方を知るのもよいだろう。それぞれの利点を知れば、量子力学のより深い理解につながると思う。
本書を読んだ後、あなたは納得のいく解釈を一つ見出せているだろうか。たとえすべての解釈に納得できなかったとしても、物理学者や哲学者の悪戦苦闘を知るだけで価値があると思う。本書を読んで量子力学と実在の関係に対する理解が深まれば、本書を執筆した意義があったと思う。本書がそのような一冊になれることを心から願っている。
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“実在とは?観測とは?
現代技術を拓いた量子力学は根源的な難問をわれわれに突きつけた。
コペンハーゲン解釈、多世界解釈からジラルディ-リミニ-ウェーバー理論まで、「量子力学の解釈問題」のすべて。”
――全 卓樹:理論物理学者、随筆家
確率過程解釈、アンサンブル解釈、多世界解釈、無矛盾歴史アプローチ、GRW理論、様相解釈、コペンハーゲン解釈、量子ベイズ主義、etc。
量子力学のパラドクスを解消するために、多くの物理学者・数学者・科学哲学者たちにより種々の解釈が提案されてきたが、あなたはそれらをどこまで理解しているだろうか。
本書は有名なものからマイナーなものまで種々の解釈を網羅的にとりあげている。
哲学的・数学的な話には深入りせず、諸解釈の特徴を概観しながら、それぞれが量子力学のパラドクスに対してどのようにアプローチしているのかを解説する。
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