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世界中のマイクロ波エンジニアに重宝されている必携書、待望の翻訳!――近刊『マイクロ波部品測定ハンドブック(第2版)』訳者まえがき公開

2023年5月中旬発行予定の新刊書籍、『マイクロ波部品測定ハンドブック(第2版)』のご紹介です。
同書の「訳者まえがき」を、発行に先駆けて公開します。



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訳者まえがき
私は20年以上、本書の原著者のJoelと同じ企業において、VNAの開発、マーケティング、アプリケーションエンジニアとしてマイクロ波部品の測定に携わり、測定対象部品が大きく進化するのを目の当たりにしてきた。複数の機能が一つの部品にパッケージされ、ポート数が増え、部品のサイズが小さくなり、周波数が上がり、測定項目は増すばかりである。その中で、測定確度に求められる要求は妥協されることなく、厳しさを増している。このような状況下で、複数の測定ポートをもち、ユーザによるキャリブレーションという強力な武器をもつVNAに、次々に新しい測定機能が追加されたことは当然の帰結と言える。

これらの新しい機能は、ただ単純に追加されたわけではなく、試行錯誤を経たうえで実装され、改良されてきた。Joelはこれら機能の実装に深く関わり、VNAが現在の形に進化した立役者の一人である。Joelは顧客との会話を通して、何が業界にとって最も重要で、それを実現するためにはどのように実装するべきなのかを熟慮したうえで、VNAの開発チームと共同で現在のVNAがもつさまざまな機能を作り上げてきた。

VNAに搭載されたさまざまな機能を初めて使うエンジニアにとって、これらを十分に理解し、適切に使いこなすことは簡単ではない。原著は、業界では「Joel’s book(ジョエル本)」という愛称で親しまれている。私が訪問した多くの顧客のラボでよく見かける本であり、多くのユーザの疑問に答え、参考にされてきた。私も本書の愛読者の一人である。これまで、英語版の原著に加え、ロシア語版、中国語版が出版されてきており、世界中に読者をもつ書籍と言える。

翻訳にあたって、ほとんどの章において私が書き起こしを行った。第4章は、Joelが原著を執筆したときに参照した多くの文献を執筆した後藤信也氏に依頼した。なお、後藤氏はVNAにおけるタイムドメイン測定の原理的な部分を設計した中心人物である。また、原稿の技術的な確認は私の長年の同僚であり、私が最も信頼するR&Dエンジニアである岡部健史氏に依頼した。両氏の貢献がなければ、この翻訳書はありえなかった。両氏に深く感謝する。

翻訳作業の中で、直訳すると意味が通じにくかったり、文章の並び方が日本語として不自然な部分は適切に修正し、読みやすくなるよう工夫したが、技術的な意味は変えていない。また、原著の内容においていくつかの誤りを見つけたが、これらはJoelに確認をとったうえで修正している。古い版の原著とは相違があるが了承していただきたい。

(中略)

「ジョエル本」が出版され、少しでも多くのエンジニアに読んでいただくことで、測定技術が向上し、日本のマイクロ波部品の競争力を少しでも高めることに貢献できることを願っている。

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Keysight Technologies Joel P. Dunsmore (原著)
Keysight Technologies 草野修(共訳)
Keysight Technologies 岡部健史(共訳)
Keysight Technologies 後藤信也(共訳)

世界中のマイクロ波エンジニアに重宝されている必携書、待望の翻訳!

ネットワークアナライザ(VNA)による部品測定・評価に関して、ケーブルやコネクタに対する注意点から、基本的なキャリブレーション手法、さらには最新の測定技術までを、圧倒的な情報量で網羅的に解説。
 
個々のアプリケーションノートからは取得しきれない、詳細な解説、広範かつ豊富な測定実例、経験に基づくトラブルシュートのヒントから、
 
 ・直観的な予想と実測値が合わないときの対処法
 ・測定技術の限界
 ・測定結果の予測
 ・DUTの性能や問題点と測定環境の問題点を切り分ける手法
 
などを具体的に知り、各々の現場に合う、より良い測定手法を検討し、実践していくことができます。
 
マイクロ波部品を設計・製造する立場、部品を使ってシステムを設計する立場など、VNAでの測定に関わるすべてのエンジニア・研究者に役立つ一冊。
 
―――
本書は、キーサイト・テクノロジー社で長年、専門技術者・教育者として勤めてきたJoel P. Dunsmoreによる“Handbook of Microwave Component Measurements: with Advanced VNA Techniques, 2nd ed.”の翻訳書です。

【目次】

第1章 マイクロ波測定の概要
 
1.1 近代測定プロセス
 1.2 実務における実践的な測定
 1.3 マイクロ波パラメータの定義
 1.4 電力に関するパラメータ
 1.5 雑音に関するパラメータ
 1.6 歪みに関するパラメータ
 1.7 マイクロ波部品の特性
 1.8 受動マイクロ波部品
 1.9 フィルタ
 1.10 方向性結合器
 1.11 サーキュレータとアイソレータ
 1.12 アンテナ
 1.13 PCB部品
 1.14 能動部品
 1.15 測定機器

第2章 VNA測定システム
 
2.1 初めに
 2.2 VNAのブロック図
 2.3 線形マイクロ波パラメータのVNAによる測定
 2.4 Sパラメータから導出される測定
 2.5 Y変換とZ変換による回路のモデリング
 2.6 そのほかの線形パラメータ

第3章 キャリブレーションとベクトル誤差校正
 
3.1 初めに
 3.2 Sパラメータ誤差校正の基礎:キャリブレーションの適用
 3.3 誤差項の決定:12項モデルのキャル取得
 3.4 誤差項の決定:8項モデルのキャル取得
 3.5 導波管キャリブレーション
 3.6 ソース電力のキャリブレーション
 3.7 レシーバ・キャリブレーション
 3.8 複数の測定チャネルの同時キャリブレーション:キャルオール
 3.9 マルチポート校正
 3.10 自動的なインシチュ・キャリブレーション:CalPod
 3.11 キャリブレーションのデボルブ(退化)
 3.12 残留誤差の算出
 3.13 測定不確かさの算出
 3.14 伝送測定の不確かさ
 3.15 振幅の誤差と位相の誤差
 3.16 実践的なキャリブレーション

第4章 タイムドメイン変換
 
4.1 初めに
 4.2 フーリエ変換
 4.3 離散フーリエ変換
 4.4 解析的フーリエ変換とVNAタイムドメイン変換との比較
 4.5 ローパスモード
 4.6 タイムドメインゲーティング
 4.7 さまざまなネットワークのタイムドメイン変換の例
 4.8 マスキングとゲーティングが測定確度に与える影響
 4.9 VNAを使ったタイムドメイン伝送測定
 4.10 まとめ

第5章 線形受動部品の測定
 
5.1 伝送線路,ケーブル,コネクタ
 5.2 フィルタ
 5.3 マルチポート部品
 5.4 共振器
 5.5 アンテナ測定
 5.6 まとめ

第6章 増幅器の測定
 
6.1 線形部品としての増幅器
 6.2 利得圧縮測定
 6.3 高利得増幅器の測定
 6.4 大電力増幅器の測定
 6.5 パルスRF測定
 6.6 歪みの測定
 6.7 ドハティ増幅器の測定
 6.8 Xパラメータ,ロードプル,アクティブロード,およびホットSパラメータ
 6.9 増幅器測定のまとめ

第7章 ミキサと周波数変換器の測定
 
7.1 ミキサの特性
 7.2 ミキサと周波数変換器との区別
 7.3 12ポートデバイスとしてのミキサ
 7.4 ミキサの測定:周波数応答
 7.5 ミキサ測定のキャリブレーション
 7.6 ミキサ特性の駆動電力依存性
 7.7 ミキサのTOI
 7.8 ミキサの雑音指数
 7.9 特殊なミキサ
 7.10 I/Q変換器
 7.11 ミキサ測定のまとめ

第8章 スペクトラム・アナリシス:歪みと変調測定
 
8.1 VNAによるスペクトラム・アナリシス
 8.2 複素変調信号の歪み測定
 8.3 VNAのSAモードによるスプリアス評価
 8.4 パルス信号の測定および時間ゲートを適用したSA
 8.5 まとめ

第9章 雑音指数および雑音電力の測定
 
9.1 増幅器の雑音指数測定
 9.2 アクティブアンテナの雑音指数測定(G/T)
 9.3 ミキサおよび周波数変換器の雑音指数
 9.4 そのほかの雑音に関連した測定
 9.5 雑音指数測定における不確かさ,検証標準,および測定品質の向上
 9.6 雑音指数測定のまとめ

第10章 VNAによる平衡測定
 
10.1 差動部品とミックスモードSパラメータ
 10.2 3ポート平衡部品
 10.3 差動部品の測定例
 10.4 非線形特性評価のためのトゥルーモードVNA
 10.5 バラン,ハイブリッド,トランスフォーマを使った平衡部品の評価
 10.6 差動部品の歪み測定
 10.7 差動部品の雑音指数測定
 10.8 差動部品測定のまとめ

第11章 高度な測定手法:自作キャルキットとフィクスチャリング
 
11.1 PCBの自作キャルキット
 11.2 フィクスチャリングとディエンベディング
 11.3 フィクスチャのSパラメータの決定
 11.4 オートマチック・ポート・エクステンション(APE)
 11.5 AFR:タイムドメインを使ったフィクスチャの除去
 11.6 ポート・マッチング
 11.7 インピーダンス変換
 11.8 損失の大きな部品のディエンベディング
 11.9 測定系の安定度
 11.10 まとめ

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