復刻版「路地裏ニャン方見聞録」
はい、というわけで、今回も復刻版、たぶん「路地裏ニャン方見聞録」(当時のフォトエッセイの連載はNEKO(現:ねこ(ネコパブリッシング刊)に掲載されたエッセイをお楽しみください。
「たぶん」と書いたのは、テキストデータだけでパッと見、その前に連載していたフォトエッセイ「ユーラシア大陸のネコたち」(CATS ペットライフ社)と、どっちか混同しているからだ。ん、あれ、一人称が「僕」になってる。ということは、「ユーラシア大陸のネコ」な可能性が高い。というか、「路地裏ニャン方見聞録」の一人称は「私」だったから、これは間違いなく「路地裏ニャン方見聞録だ。でもここまで書いてしまったので、どっちかなと考える線で話を進めてみようと思うのだ。みなさんもこの茶番に付き合ってもらえたらマンモスハッピーなのだ。あ、これは酒井法子こと、のりP往年のギャグである。
このほか、食事をする際「いただきマンモス」と口走ってしまうことがあるが、特に酒井法子さんのファンではありません。
そんなわけで、話を思いっきり進めていこう。今回は、私が愛するヴェニスである。「ヴェ」と、「V」の発音で書いているところに、旅人のこだわりを感じられるだろうと思うのだ。なぜ故に「ベニス」じゃないのか。てか、そもそも「ヴェニス」、「べニス」は英語で、イタリア語だと「ヴェネツィア」である。そうなのだ。最初は「ヴェネツィア」と書いていたが、文字数が短い方がいいということもあり、「ヴェニス」にしたのだ。文字数なら「ベニス」の方が短いじゃないか! なんて、「渡る世間は鬼ばかり」の江成くんみたいな言い方でガン詰めしてくる読者もいるかもしれないが、そこはアレです。「ヴェニス」っていう方が、なんかトゥっぽくて、あ、通っぽくてカッコいいなと思った次第である。
なんかかっちょいい。それがいい。それくらいがちょうどいい。確か「孤独のグルメ」の井之頭五郎氏も言っていた。
というわけで、いつもながらなんか長い前説終わり!
愛ネコ自慢をしてくれるのは…
イタリア ヴェニス「ネコに挨拶を」編
ヴェニスを訪れる観光客の大半がまず向かうサンマルコ広場にやってきた。巨大な長方形の作りをした広場にはサンマルコ寺院があり、僕はその正面に相対した。壮麗な寺院を見ていたらなんだか旅の気分が盛り上がってきた。さあネコ探しに出発だ。
ネコのナワバリをチェック
2週間以上も滞在していると、どの店にネコがいるかを把握できるようになる。だから何回か出会っているネコだとナワバリまでわかるようになっていた。僕の一日は、まずサンタルチア駅から徒歩3分の場所にあるロカンダ(民宿)からサンマルコ広場へいくこと
から始まる。道すがら途中にあるレストランでブラーシュカという蝶ネクタイをしたクロネコ君に出会う。彼はちょうど朝の運動としてハトと追っかけっこをしている最中だったので、その模様を撮影させてもらう。その後、リアルト橋近くにあるカフェのクラウデ
ィアに挨拶して、その辺りから今まで通ったことがない路地から適当にいくようにしていた。時間を気にしないでとにかくネコの姿を探し歩くのだが、いくらなれてきてもやはり迷宮といわれるヴェニスだけあって、なかなか一筋縄でいかないのである。1日に数回迷い、「これはヤバイかも」と泣きたくなるような遭難を最低でも1日に1度はしていた。
しかしそんな悲壮感もネコさえいれば一気に吹き飛ぶのだ。ネコは僕を元気にしてくれる不思議なかわいい動物である。そのかわいいネコがヴェニスにはたくさんいるのだ。100m歩く間に最低でも5匹くらいは見つけられる上にネコの写真が撮れるというのはネコカメラマンにとって極上の気分である。でもときどき撮影する前に逃げられたりするのはご愛嬌である。
ジュデッカ島のネコたち
ヴェニスの端にあるユースホステルのある細長い島である。実はここは隠れた夜景スポットであり、ネコスポットなのである。この島には住宅がたくさんあり、みやげ店はない。歩いてみると、細い路地には対岸の家と家がロープで結ばれていて、そこには純白の
シーツや色とりどりの洗濯物が架けられ、風に揺れていた。生活感にあふれた島を歩くとネコの姿がちらほら見え始める。遠くに見えたアパートメントまでいくと、総勢10匹のネコたちが日向ぼっこをしながら集会を開いていた。しかもどのネコもなぜかトラネコだった。近づくとほとんどいなくなってしまった。
ネコが集会を開いていた場所の中心にはネコのごはんが山盛りに置かれていた。「ごはんの邪魔をしてごめんね」。そういって僕はその場所を後にした。
いつの間にか陽も暮れて、ヴェニスの中心地サンマルコ寺院の方を海越しに眺めるとまるで夜空に広がる星のようにヴェニスの街が輝いていた。
カフェラヴェナにて
サンマルコ広場にある由緒正しき喫茶店、カフェラヴェナではアドルフォとアキッレの写真をたくさん撮らせてもらった。きっかけはコックのおっさんが路地裏でネコにご飯をあげているところに僕が出くわして、撮影したことだった。それからは店の中に入って写真を撮らせてもらっていた。アドルフォをピアノの前に座らせて弾いているように見せたり、アキッレをハコの中に入れたりいろいろしてくれた。翌日また店の前を通るとアドルフォとアキッレがいたので「ボンジョールノ」といっていたら、コックのおっさんが現れてアキッレの首をさして「ほら首輪を黄色の蝶ネクタイに変えたんだよ」と教えてくれた。
いつも満員の店なのにも関わらず、オーナーは僕にカプチーノまでごちそうしてくれた。高級な店だけど気取らない、この店の人たちの人柄の良さが人を呼ぶのだろうと思うのだった。
公園通りのネコたち
サンマルコ広場の路地裏を進み、海際を歩いていると小さな公園があったので入ってみることに。たくさんのハトが中心で集まっていた。「なんだハトだけか」とため息をつきながら辺りをよ~く眺めると、公園の隅っこにあるベンチの上にネコ3匹が肩身の狭い思いをしながら並んで座っていた。その姿があまりにもかわいそうだったので持ち歩いていた「キットビッツ(カリカリ)」を盛ると、総勢10匹のネコがどこからともなく出現して、まるで嵐のように食べてあっという間にいなくなった。写真を撮っていないことに
気づいたときはもう後の祭りである。一体僕は何のためにキットビッツをごちそうしてやったんだかわからない。さらにハトに残ったキットビッツを食べられたりしていて、それがまた哀愁を誘うのである。踏んだり蹴ったりではあるが、それでもまだ目の前に律儀
に残ってくれたネコに感謝の意を表していつもよりかわいく写真を撮ることにしよう。
黄金に輝くアドリア海の花嫁
公園のネコを撮影しているうちに空が夕日に染められてきた。僕は太陽が沈む方向へ向かい、夕焼けを眺めることにした。すると、対面の島にある巨大な寺院が夕日の光を受けてシルエットになってその姿を浮かべていた。空と海は黄金色や橙、赤といろいろな光
の反射を放っていて、寺院のシルエットをひときわ印象深いものにしてくれていた。それはまるでヴェニスが色とりどりのドレスを着て僕のために見せてくれているようだった。この美しい風景をカメラと自分の記憶にとどめようと必死にフィルムと心に焼き付けるのだった。
アドリア海に沈み行くヴェニスはなんとも不思議な街である。ここは旅人の心を捉えて離さない、神秘の都であり、ネコの都である。
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