Be yourself〜立命の記憶I~⑲
◆第13章:すれ違いの原因(2)
「それよりもさぁ、ひとつ忘れてるよ。」
「忘れてる?」
「俺たち、受験の時に一回会ってるんだよね、後楽園のホテルのロビーで。」
「え??そうなの??」
「受験の時、俺1日目だけで試験終わったから、その夜勉強しなくてよくてさ。」
「はぁ。」
「あなた、千葉からわざわざ来てくれたよね。」
「あぁ、その頃は千葉に住んでたね。電車で1時間くらいだもんね。ってええ?」
「覚えてないの?」
「ごめん、全然覚えてない・・・。ホントに覚えてない・・・。」
「で、ロビーで話してて、『飯どうする?』ってなったんだよね、俺、試験終わってるし、マックかなんか行こう、って話になったんだよね。」
「うん。それで?」
「そしたら、あなたさぁ、『じゃぁ着替えてくれば?』って言ったんだよ。」
「そうなのね。覚えてないけど。」
「今だから言うけどさ、俺んち、そん時、貧乏で服とかそんな持ってなかったんだよね。」
「うん。」
「だから、当然このまま出掛けるんだと思ってたワケよ。そしたら『着替えてくれば』って言うから、これじゃダメなのかよ!ダセーって事かよ!ってなってさー。」
「えぇぇぇ?!そうなの?私そんな事言うはず無いよ!覚えてないけど。」
「言った。言った。絶対言った。」
「えぇぇぇ・・・覚えてない・・ごめーん・・・。そうなんだ・・・。」
「ちょうど、その前の年の受験生が、受験の時にストリップかなんか行って補導された事件があったから、一応、外出禁止令は出てたんだよね。」
「ほぉ。」
「で、本当は出れなくも無かったんだけど、そういう事にしたんだよ。」
「そういう事って?」
「だから、外出しちゃダメって言われてるって事にさ。」
あぁー、そうだったんだー。私全然覚えてない。
というか、あれ?なんとなくどんな格好して行ったかだけ、おぼろげに・・私めっちゃ気合い入れてオシャレしてったような気がする・・・。
なのに、この人、私とご飯食べる事すらしてくれないんだな、冷たい人って思ったような・・・。私、帰りに電車で泣いたような記憶ある・・・。
「他の受験生なんか、次の日も試験あるから、電気スタンドとか持って上に上がってるのにさ、俺だけ、ロビーでいい女連れやがってって、周りの視線が痛かったよ。」
「いい女って?」
「だから、あなたの事!」
「えぇぇぇー、あたし、いい女なの?そんなの言われた事もない!」
「あなた、バカだから気付いてないんでしょ・・・。」
「いや、だってお世辞でしょ、普通・・・。」
「まぁ、俺はそれから、変わったね。」
「変わったって、何が?」
「アパレル超詳しくなったよ。」
「あ、それって私がそう言ったからって事?」
「それは多分にある。」
そうなんだ・・・なんか、色々誤解が解けた気がする。
でも、まだ分からない事がある。
「ねぇ、それで、あなたは私の事が好きだったの?」
「こうやって会ってる事が全てでしょ。」
???こうやってって、どういう事?
「え、ごめん、分かんない。だから好きだったって事なの?」
「だから、こうやって会ってる事が全てでしょ?」
???やっぱりよく分からない。好きだったからこうしてるという事?
なら、なんでこんなにちょっと怒った顔してるの?
「ごめん、よく分からなくて。それって好きだったって事?」
「だから、こうやって会ってる事が全てでしょって言ってるじゃん!
もう、何なんだよ!そんなに昔の事、何度も聞かなくてもいいじゃん!俺楽しく飲みたいんだよ!」
「ごめんなさい・・・。」
すごい怒られた・・・。やっぱ私、こんな事確認するなんて、迷惑だったかな・・・。
私だって、そんな昔の事聞いて、今さらどうするってつもりは無いんだけど。
ただ、分からなかったから聞いただけなんだけど・・・。
でも、まだ、なんか聞きたい事、忘れてる気もする・・・。
「あ!ねぇ、高校の頃、先生か誰かに、私の事『アイツはお前が思ってるような女じゃないよ』って言われなかった?」
「いや?覚えてない。」
がくー。これも私の妄想か。
「あ!あとさ、私の電話番号誰かに聞いた時、あなた、『でかした!』って言わなかった?」
「いや?だって俺あなたの電話番号知ってたよ。」
「そうなの?」
「なんで知ってるんだっけ?」
「私、成人式の後に誰かに聞いて、電話かかってきたんだと思ってた。」
「いや、だって俺、成人式出てるもん。」
「え?あなた居たっけ?」
「居た居た。あなた俺の事探してたでしょ。」
「え?」
「山崎くんが、竪山さんが探してるよーって教えてくれたんだよね。」
「あー、そうだったっけ?」
「そんで、俺にチラシくれた。」
「あー!そうだ!あたしちょうどデビューしたばっかりだったから!当てつけに!」
「その後、俺CD買ったもんね。」
「あ、それはお買上げまことにありがとうございます。」
「俺その後、同窓会行っちゃったから会ってないよね。」
「うん、私も別な同窓会行っちゃったしね。」
「懐かしいね。」
「うん・・・。あれ?じゃぁ、あなたなんで受験で東京に来る時に私の電話番号知ってたの?」
「あれ?何でだろう?」
「???」
二人で首をかしげた。
ま、いいや。
いやー、なんか色々勘違いしてたな、私。
どうしたもんかな。
これ、このままでいいんだっけ??
あ、そうだ!手紙!
「あ、そうそう、あのですね、ひとつお話がございまして。」
「なんでしょう?」
「突然でちょっとびっくりするかも知れないんだけど、私、過去とか未来とか見えるんですよ。」
「へー。???」
「あ、全然分かんないって顔してるね。まぁ普通の人が感じないものを理解出来るんです。例えば、前世とか、魂とかのようなものをね。あと、他人の過去の記憶とかも。」
「ふんふん。」
「それでね、私、あなたに伝えたい事があります。」
「何?」
「まずね、最初にバンコクに行くって連絡したでしょ?」
「うん。」
「その後あなたが空港に迎えに来るって言ったよね?」
「言った。」
「その頃からなんだけど、そっからずっと頭がフワフワして、眠れなかったんですよ。」
「ほう。」
「で、なぜそうなってるのかが、昨日分かったんです。」
「昨日?」
「ホーチミンのホテルで午前中。あたし全然出掛けられなかったんだよね、頭バカになりすぎて。計算もできなくなっちゃったし。」
「あぁー!!!あれね!」
「何?」
「ほら、あの、ほら、あれだよ、あれ!」
「何?」
「ほら、その・・えーと、何だっけ。」
「まぁ、いいや。それでね。」
「はい。」
「どうしても眠れない事が多すぎて、頭がずっとぐるぐるしていまして。」
「はい。」
「で、やっと昨日の朝、結論が分かったんです。」
「何?」
「あなたが好きです。」(あら?私何言ってんだ?違うぞ?違―う!)
「嘘だー、嘘だよー。なんで今更?」
「今更だよねー、ホント思う、なんで今更ー???」
私、あれ、違う違う、何でこんな事言ってんの、って思って、恥ずかしくなって両手で顔を隠して下を向いた。
「今更だよ・・・」
「そうだよね・・・」
「あ!でもたぶん、私達付き合ってもうまくいかなかったと思うよ!」
「それは思う。」
「でしょ?だって、あなたとあたしだよ?うまくいくワケが無い!」
「確かにね。俺3歩下がって付いてくる女が好みだし。」
「今時そんな女居ねーわ!あ、居るか。それが彼女ね?」
「そう。親にも会わせてる。」
「早く結婚すればいいのにー。」
「いやー、彼女、結構トシだからさー。」
「関係あんの?」
「いや、俺子供欲しいからさー。」
「早く作ればいいじゃん。」
「いや、まぁ、だから今子作り中だよね。」
「だったら早く結婚しなさいよー!」
「いや、するよ?するけど子供が欲しいんだよね。」
「どういう意味?」
「そういう意味。」
「いや、だからどういう意味?」
「いや、だからそういう意味。」
「・・・分かんない!」
「まぁ、いいよ。それで?」
「あ、えーと、何だったっけ?あ、そうそう手紙。」
「手紙?」
「お手紙を持ってまいりました。」
「誰から?」
「それは分かんない。」
「どういう事?」
「いや、だからね、私、前世とか魂の叫びとか、そういうの分かるって言ったじゃない?」
「うん。???」
「あ、あんま分かって無いね?」
「まぁ、半分くらいは。」
「まぁ、そうだよね。それで、今回のこの旅を何故する事になったかが分かりました。」
「ほぉ。」
「きっかけはウチの主人。彼が社内報に載っていたKonamiさんを見て、私にベトナムの彼女に会ってくれば?って言った。」
「うん。」
「そんで、私は、Konamiさんに会いに行くついでに、あなたに連絡した。」
「はい。」
「で、今、そのあなたにメッセージを届けてくれ、という人がいます」
「だから、それは誰なの?」
「いや、だからそれは私には分からないんですよ。」
「なんで?」
「まぁ、なんででしょうね。」
「なんででしょうね・・・。」
うーん、今、手紙を渡すべきではない、と何かが語りかけている気がする。
すると、彼が言った。
「あ!カラオケ行こうよ!カラオケ!」
「えぇー??カラオケ??やだよー。」
「いいじゃん、俺、竪山さんの歌聴いてみたいもん」
「えぇー、いいよー、恥ずかしいもん。」
「いいじゃん、いいじゃん、行こうよ!行こう!」
「えぇー、いいよー、やだよー。」
「だってじゃぁ、どうする?」
「どうするって??」
「どこいくの?」
「どこいくって??・・・えぇ!いやいやいやいや、何をするつもりなんですか、あなた!」
「そんな事言ってないじゃん」
「いや、言ってないけど、言った!言ってないけど言ってるよ!」
「言ってないじゃん」
「いやいやいや、言ってるでしょ!何、その顔!」
「言ってないよ」
「言ってないか、あれ?言ってないの?」
「言ってないよ」
「そーだよね!言ってないよね!あーびっくりした!」
「だから楽しく飲もうよ。次カラオケ行こう」
「おー!っていやー、やっぱカラオケはダメだよー。」
「だって好きなんでしょ?」
「うん。・・・いや、あなたの事じゃなくて、カラオケね!カラオケは好きだよ!」
「じゃぁ行こう」
「あ、いや、だって、そんな、もーぅ・・」
「行こう行こう、ほら立って」
「えー、だって今さら恥ずかしいもーん」
「恥ずかしいってなんで?あなたプロだったでしょ?」
「プロだったっていっても売れてないしー。ヘタだしー。」
「いや、俺なんかより全然うまいでしょ。」
「うまくないよ―ヘタだよー。」
「じゃぁ聴かせてよ。」
「うーん、どうしよっかなー。うーん・・・・・・いいよ!じゃぁいく!」
「よーしそうこなくっちゃー。さ、いこ!」
「はーい。」
続き→第14章:手紙(1)