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Be yourself〜立命の記憶I~⑱
◆第13章:すれ違いの原因(1)
夕方5時を過ぎた頃、他のお店も開き始めるという事で、お店を変えようか、って言ってきた彼。
えぇ、もうビール飲めませんものね、お腹パンパンです。
「反対側に日本食のお店があって。そこでも良い?」
「あ、うん、どこでもいいよ、私、そんなに食べれないから。」
「いやー、たばこが吸えてゆっくり話が出来るとこそんなに無いんだよねー。」
「あ、そうなんだね。そういえば、昨日、ベトナムの友達もタイはたばこ吸えないって言ってた。」
そんな話をしながら、1軒目のお店のお会計の時、私気付いた。両替してない・・・。
「あ、あたし両替してない!ごめん、まだタイのお金無いんだけど・・・」
「あ、今日はいいよ、いいよ。気にしないで。」
「えー、ごめーん、ありがとう。どうしよう。」
「あ、じゃぁ、明日のエビ釣り、おごってくれればそれで。」
「え、それで大丈夫?」
「いいよ。それで。」
「分かった!じゃ、それでー。」
優しいじゃないの。なんだったのさっきのタクシーでのトゲのある態度は。
まぁ、いいや。楽しく話が出来ているので良かった!
彼がお会計を終え、お店を出る。
二人で歩道まで出て、そのまま向かい側に渡ろうとしたが・・・
ベトナムでもタイでもそうなんだけど、街に信号がほとんど無い。
みんな、好きなところで勝手に渡るし、なんなら横断歩道でも信号が無いくらいなので、大通りでも、車が来ない隙を狙って渡らないといけない。
この時の道路もそうだった。
私、もう、全然一人で渡れる気がしない。ベトナムでも誰かに便乗して渡ってたくらいだもの。
車が一瞬減った隙に、彼が先に歩き始めた。
私は、その後を連いていく。しかし、彼の足が早かった。おーい待ってくれ―。
と思った瞬間に彼が振り返って、手を差し出した。
えぇ?!
一瞬どうしようか、迷ったけど、完全に友達モードに戻っていた私。
というか、友達にそんな事する人じゃないと思ったから、びっくりしてすぐに反応出来なかった私。
差し出された手を無視して、彼の腕の側まで走った。
Yシャツの袖が私の腕に触るか触らないかのギリギリの側まで。
2車線の道路だったらから、ほんの一瞬の出来事。
こんな優しい事、出来る人なんだ・・・、と思ったら、昔も含め、今までの冷たさとのギャップに理解不能になった。
彼、一体どんな人なんだっけ・・・。
道路を渡った先に、日本人街のような場所があった。ホントすぐ近くだね。歩いて15秒くらいだった。
さっき渡った2車線の道路に対して、垂直に100mくらいの路地が伸びている。
両サイドに、それぞれ、一軒家のような店舗がズラっと並んでいた。
あちこちに、日本語の看板。
「そらまめ」とか「はなれ」とか「俺の26」とか。パッと見ですぐに分かる日本人向けのお店。
奥のほうには・・・、あ、大人の男性向けのマッサージ店的なものまで・・・。
その中の、「ばんや」という3階建ての居酒屋に行く。
半個室になっていて、掘りごたつ。ゆっくり話すのには確かに最適。
そして、日本人にはやっぱりこういう場所が落ち着くね。
2週間以上前から食欲が無かった私は、食べ物に固執していなかったので、ゆっくり話が出来ればどこでも良かった。
まずは、私の疑問と誤解を解きたいんですよ。
私、疑問に思った事とか、すぐ解決したいタイプなんだよね。だからお勉強は一時期まではそこそこ優秀でした。
ゆっくり待てない、せっかちさんであるのが難点でもある。
ただこの時、資料で事前に作っておいた話の流れなどはスポーンとどこかへ飛んでいってしまっていた。
居酒屋のお座敷の、奥に私、手前に彼が座って落ち着くと、何を飲むか聞かれた。
「あたし、最近水割りばっかりでー。ウイスキーとかあればありがたいんだけど。」
「焼酎は?」
「なんか、焼酎飲むと、飲みやすいせいか、飲み過ぎちゃって。そんで翌日二日酔いするんだよね・・・。」
「じゃぁ、ウイスキーのボトル入れちゃおう。せっかくだから高いやつで。」
という事で、一番高いウイスキーのボトルを入れてくれた彼。山崎。
私は氷抜きの水割り。彼は普通に氷入りの水割り。
居酒屋なのに、お店の女性が作ってくれるんだね、タイのお店いいねぇ。
なんていうか、女になんでもやって貰いたい、日本のおじさん達にはぴったりかも知れない。
食べ物は、どうする?という話で、私、あんまり食欲無いから、自分で食べるものテキトーに頼んでいいよ、と伝えた。
すると、彼が言った。
「牡蠣食べる?」
「食べるー!牡蠣大好きー!てゆーかベトナムでも食べたけど、まだ食べるー!」
好きな食べ物で、テンション上がる私。単純。
食欲無いのに、好きなものだけは食べられるっていう、この現金さ・・・。
とりあえず、乾杯し、彼が言った。
「まさか、こんな風に飲む事になるとは思わなかったよねー。」
「うん、そうだよね・・・。」
もう、私、色々聞きたい事が満載で頭が一杯。ノリ悪かったと思う。
彼は、一生懸命色んな話をしていたような気がする。
だけど、私は、聞きたい事と言いたい事で頭がいっぱいで、話半分しか聞いていなかった。
聞きたい事につなげるために、彼の話の流れから、高校時代に付き合っていた頃の話をしようとするんだけど、何故か、別な話に戻ったりとかしていた。
すごく何度も、違う話ばかりされた気がする。
あと、彼は仕事の話を熱心にしていた。「タイから世界へ」って何度も熱く語っていた。
もう、正直、仕事の話はいいよ、と思っていた私。ついには黙ってしまったと思う。
私、どんな顔をしてたんだろう。
すると、彼が切り出した。
「あ、俺の今の彼女の写真、見る?」
「あー、どれどれ?」
あ、やっぱいるじゃん。当たり。自分の調査が正しかった事に安堵して、ちょっと機嫌が良くなる私。
「なに、超カワイイじゃん、彼女。」
「タイ人なんだけどさ、飲食店5店舗くらい経営してるんだ。」
「へー、ヤリ手なんだねー、頭良さそうー。」
「まぁ、俺ほどじゃないけどね。」
「あれ?あなたそんな人だったっけ?」
「知らなかった?」
「知らないよー、だってあたし高校生の真面目なあなたしか知らないもん。」
「まぁ、そうだよね。」
あ、ここで、高校生の頃の話が出来そうだ、と振ってみた。
「ねぇ、ニノは高校生の頃、私の事好きだったの?」
「いやぁ、まぁ正直言うと、プレッシャーだったよね。」
「プレッシャー?何が?」
「だって、君はさ、四天王だったじゃん。」
「四天王?」
「ほら、学祭の美人コンテストで5位中4人がウチのクラスだったじゃん。」
「あぁー、そうだったね。」
「あなた2位だったよね。」
「そう、1位は馬場(ばんば)さんね。」
「だから、ゆっても学年のアイドルなワケよ、君は。」
「フフフッ。」
「なのに、なんでこんな俺みたいなヤツと付き合ってんだって。」
「俺みたいな、ってどういう事?」
「だって、当時の俺なんて、将棋でいうと『歩』みたいなもんだよ?」
将棋の「ほ」って言ってるけど、「ふ」ね。フフフ、彼、理系だなやっぱ。
「で、何でそんなプレッシャーなの?」
「分かんない?だってあいつが竪山さんの彼氏だって思われたら、何でコイツ?ってなるじゃん!もーすごいプレッシャーだったよ。」
「そうなんだ・・・。」(私、落胆。)
「だから、俺、誰にも言ってないもん。竪山さんと付き合ってた事。」
「そうなの?」
私、驚きを隠せなかった。
「ウッチーに大人になってから言っただけ。マジで?ってすごい驚いてた。」
思い出した。私、彼にキスされて去られた後、すごい傷ついて、彼をチャラい、いい加減な男だって、頭の中で勝手に仕立て上げてたんだ。
で、そんな彼にキスなんかされた私は可哀想って思う事で自分を正当化していた。
だから、当然、彼は私とキスした事を自慢げに他の人にバラしているはずだと思っていた。
それが妄想だった事に気付いた。
「靴箱のところでさ、なんか私怒ったよね、好きでもないのにあんな事しないでよ!って。」
「あぁ、なんか呼び出されたよね。」
あれ?私が呼び出したの?あなたが呼び出したんじゃなくて?
「なんか、男の人って好きでもないのに、そんな事するんだー、って言われた。」
「あなた、それに対して何か言った?」
「何も。」
「なんで?」
「だって、何も言えないよ。怒ってんだもん。」
「誰が?」
「あなたが。」
「あたしが?ニノじゃなくて?」
「うん。俺も若かったんだよね、何も言えなかったよね。」
「あー、そうなんだー・・・。その時好きだって言ってたっけ?」
「言ってないね。」
「なんで言わないの?」
「だって、すげープレッシャーだったって言ったじゃん。俺ちょっとホッとしたんだよ。」
「あー、そうなんだー・・・。」
て、事は、私の事はやっぱり好きじゃなかったって事か・・・。
「じゃぁ、電話くれた時は、どう思ってたの?」
「電話?」
「なんか大学生の時に電話くれたじゃん?」
「あれ?そうなの?いやー、俺それ全然覚えてないわ」
がくー。あんなに私にひどい事言ったのに覚えてないんですか・・・
「俺その時、酔っ払ってたんじゃない?」
「いや?そんな風には聞こえなかったけどね。声は。だって結構ちゃんと喋ってたよ。」
「いやー、ホント?俺ホント覚えてないや、ごめんね!!」
「本当??」
私、彼が嘘をついていないか、じっと目を見つめた。
彼はちゃんと私の目を見つめ返していたが、うーん、わからん。
全然、目をそらさずに見つめ返してくる。目は泳いでる・・・?
いや、ワザと泳がせないようにしている?
でも、本当の事が分からない。
-----回想-----
あ、金さんのセリフ、この時は思い出せなかった・・・。
「腕をさわる、目をじっと見つめる、はダメよー。」
--------------
「いやー、私、あの時、すごい傷ついたんだよね。あなたが私の事迷惑だって言ったから。」
「や、だって俺ホント覚えてないもん、それ、ごめん!ごめんなさい!」
「まぁ、いいけど・・・。考えてみたらあなたとは1回しかちゃんと会ってないもんね。」
「いや、高校の時は2回会ってるよ。」
「あれ?そうだっけ?」
「1回は運動会の後。翌日振替で休みだった時、ウチに来たよね。」
「それは覚えてる。勉強教えてもらいに行った。遊びたかっただけだけど。」
「そん時、母親が家に居てさー。ちょっと迷惑そうな顔してたよね。俺、部屋のドアちゃんと開けといたもん。」
「ハハハハ。そうだったんだ。」
「2回目はバレンタインデーの時。ウチにチョコ持ってきたでしょ。」
「あれ?そうだっけ?あたし、バレンタインデー覚えてない。チョコ作ったのは覚えてるけど。美鈴の分も作ったし。」
「俺の父親が玄関で会ってるよ。お前にもこんな彼女が出来る歳になったのかーって言ってた。」
「そうなんだー。」
「だって、あなたみたいな子が家に来たら家族全員ビックリするよ。」
「なんで?」
「だってあなたスゲー可愛かったから。」
「アハハハ!そんな事ないでしょー。」
「いや、そうだって。あの時のあなたスゲー可愛かったもん。四天王だよ、四天王!」
「学年のアイドルね。ハハハ。」
「それよりもさぁ、ひとつ忘れてるよ。」
「忘れてる?」
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