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Be yourself〜立命の記憶I~34

◆第18章:覚醒の時

東京の自宅に帰宅した私は、エレベーターに乗りながら、ドキドキが止まらなかった。
不思議な事に、頭の中は、旅行に出る前と同じようにずっとボーっとしたままだった。

「ただいまー!I'm home!!私の大好きな家族ー!みんなの大好きな元気なママが帰ってきましたよー!」

そう言って、自宅のリビングに入った。

いつも見ていたはずのリビングが、雲が晴れたようになんだかキラキラして見える。
子どもたちの顔が、ピントを合わせた写真を見るように、浮き上がって見える。
こんなにも可愛いんだと、泣きそうなくらい嬉しかった。
心の底から、子どもたちが愛おしくなった。きつく抱きしめて涙ぐんだ。

「今までごめんね、私ちゃんと可愛がってなかったね。あなた達は本当に可愛いよ。大好きよ。愛してるよ!」

主人にも伝えた。

「本当に今回の事、感謝してる。あなたの事、本当に愛してる。愛してるよ!」

お父さんにもね。

「ごめん、お土産買うの忘れてた!でも私、お父さんの事、大好きだから!」

そして、それを伝えた後、私はこう言った。

「あなた、お父さん、子供たちにも大変申し訳ありませんが、私、これから本を書きます。
 今回の旅行ですっっっっごい事があったから、本にしないと伝えられない!!!
 そして、最終日にあった出来事はまだメモしきれていないので、これからすぐに忘れないように書いておきたいの。」

すると、地元では変わり者として有名な父親がこう言った。

「それは、今すぐ書きなさい。話をすると、脳の記憶から消えていくから、黙っておいたほうが良い。」

「うん、そうだね、知ってる。ありがとう、お父さん。」

私は、そう言うと、少しポカンとしている優しい主人に言った。

「そういうワケで、ホントすみませんけど、もう少し子供たちの事よろしくお願いします。上の階のあなたのPCちょっと貸して。私、終わるまで少しこもるから。寝室に入らないでください。本が出来たら読ませるから。そしたら全部分かるから。」

「分かった。」

主人が優しく頷いてくれたのを、確認して、私はボストンバッグもそのままに、上の階へ行った。もちろん着替えもせずにそのまま。
階段を上る途中で、振り返って大声でこう言った。

「あ、子供たちのお土産とか後でいいよね?」

主人と父親が声を揃えて言う。

「いいよー。」

この時は、こんなに時間がかかるとは思ってなかったんだけど・・・。

寝室で主人のノートパソコンを開いた私は、MicrosftのWordが入っていないのにがっかりしながら、テキスト文字だけを書けるメモ帳ソフトを開いた。
いや、正確に言えば、主人が使っているのが既に開いていたので、タブを1つ開いただけ。

そこに、バンコクでの2日目の朝からの出来事を時系列に見出しで書き起こした。
それまでの出来事は、バンコク初日、ホテルに戻って、彼にCloserのリンク送りつけて、シャワーを浴びた後に、メモしていたから。

頭はまだボーっとしている。
これが、無くなってしまうと、記憶が無くなってしまいそうな気がしたから、とにかく急いだ。
何かに取り憑かれるように、夢中で頭の中の回路から記憶を呼び出して、パソコンに向かった。これが11月2日水曜日の夜の出来事。

文章をパソコンで入力しながら、思い出せない部分があると、休憩として、たばこを吸いにベランダへ出た。
そうして、考えていると、色んな事実が浮かび上がる。

バンコクでの最後、別れ際に、彼、ハグする前に、嬉し恥ずかしそうに笑っていた。
彼、私の事を好きだったのかも知れない。
でも、やっぱりまだなんとなく分からない。
ただ、事実としてあるのは、結局全てのお店でかかったお金は全部、彼が払ってくれた事。
とにかく、もう一度、彼にお礼を言わなくちゃ。

そして、また寝室に戻って、書き始める。
そしてまた煮詰まると、たばこ吸いながら考える、思い出す、考察する。

そういえば、高校仲良し4人組の美鈴が、LINEで、
「前に愛ちゃんから彼が外国に居るって聞いた事あったよー。」
って言ってた。
私、美鈴と話したのって、6年前だから、その時点で彼がバンコクに居るの知ってたんだね。たぶん彼の事、SNSで見たんだと思う。忘れてるけど。
でも、私、彼に嫌われてるって思ってたから、友達申請出来なかったんだよね。また、傷つく事言われるのが怖くて。
完璧な思い込みだったよね。

そして、また寝室に戻って、書き始める。
そしてまた煮詰まると、たばこ吸いながら考える、思い出す、考察する。

あと、想像もした。

バンコクのクラブで、彼女が、女友達のみんなに、彼から送られた写真を見せた時、
「あ、ダメダメ!これ、彼浮気する!止めなきゃ!」ってタイ人女性がみんな集まって、
必死で私の事を彼から引き離していたんじゃないかって。
私、自分の顔が、[彼の事好きです]って顔してないか、確認してただけで、彼の顔見てなかったけど、彼はどんな顔してたんだろう。

そして、未来が見えたりもした。まだ頭はポヤンポヤンのまま。

この本は、色んな私の周りの大好きな人達の手によって、出版されて、映画化されて、地元で上映会もされるね。
高校のクラス「1-6」の同窓会も開催される。
そこで始めて、私、彼と20年ぶりのキスが出来るんじゃない?そうでしょう?私達もう大人になったから。妄想甚だしいかしら。

そして、また寝室に戻って、書き始める。
途中、記憶があやふやになっている部分は、ニノにメッセンジャーで連絡して聞いた。
この時とその後の、彼とのメッセンジャーでのやり取りの内容は、まだ内緒。
私、次の小説で披露する事になるのかな?
って事は、彼にこの本を読ませると連絡が途絶えそうだから、みんな、次回作が出るまで、彼には、絶対に、この本の内容は、内緒にしておいてください。

この本はね、出版されるまでは大丈夫。
私、バンコク二日目のエビ釣りの後に行った、居酒屋を出る時、彼に言っておいたから。

「ねぇ、私、あなたをモデルに本を書こうと思っているんだけど、書いていい?」
「・・・実名でよろしくね。」
「アハハハ!もーぅ、出たがりなんだからー!」

その後も、メッセンジャーで色々聞いたけど、彼は、下書きは読まない、本はお好きにどうぞ、私の感性に任せるって言ってくれたよ。
ホントありがたいよね。

私、日本に戻ってからの最初の2日間は寝てなかった。
3日目にやっと寝室のベッドに仰向けになって考えていたら眠れた。
3時間くらい。
起きたら頭が冴えて眠くないのに、なんかまだボーっとする不思議な感覚だった。

そして、また書き起こした。
一日2,3時間くらいしか寝てなかったね。
食事も取らなかった。

11月5日の土曜日の午前中からは、自分のオフィスに移動してこもって書いた。
父親の帰りの飛行機は、主人と相談して1週間先の便に変更してもらった。
ジェットスター、安いのに急な変更が出来てありがたい。
でも、スマホサイトが、今の頭パッパラパーな私には、分かりにくくて、なんとか決済だけはやったけど、完了ページでアンケートに答えろって書いてあったから、私バカだから分かりにくくて困りますって書いて送っておいた。

オフィスでは、金さんとこの長男の京ちゃんに貰ったカンロの果実のど飴食べながら書いた。
フルーツ味で美味しいんだけど、青りんご味だけなぜか下に沈んでたみたいで、食べなかった。
後日、青りんご味だけ沢山残ってたから、食べてみたら、あんまり好きじゃ無かったよ。
不思議だね。

あとね、更に、気付いたんだ。私が彼のお葬式に出るっていうのは、間違っていたって。

だって、私、11月6日の日曜日に、見えたんだもん。私のお葬式で結構歳をとった彼がワンワン泣いているところ。
彼、未来を変えたのね。

あとね、私、もう一度タイのバンコクに行って、あの天空のバーに行くと思う。
彼と座ったあの席で、私がパソコンを使ってる姿が見えるの。
でも、もう、あなたには会いに来ないでねって、言えるよ。
恋心は、恋心のまま、心の底にしまって置かないとね。ちゃんと鍵を掛けて。
私、大人になったでしょ?

タイは、不思議な国だね。子供の頃のような感覚に戻って、全身の五感と第六感を呼び覚ます事が出来る、本当にステキな国だね。

世界中のママ達、子育てに疲れたら、タイに行ってみて。
ステキになりたい女子の皆さんには、ベトナムもオススメよ。
安全な場所を探して、出来れば現地を良く知っている人と一緒に移動してね。

それか、昔、好きだった人に会ってみたらいいと思う。
元気になれるよ。だって元気だった時のあなたを知っている人だから。
でも、恋の炎でヤケドはしないように気を付けてね。

私、見失っていた自分を取り戻したよ。
だから、今、何かに取り憑かれるように、帰国してから、ただひたすら、本を書いている。
未来を見ながら、本を書いてるよ。
だって、簡単だよ、見えるものを書いてるだけだもん。

あ、映画監督に何を言われたかって?
ウフフフ、妄想だってバカにしないでね。本当に見えた事だから。
本を読んだ監督が、私にこう言うの。

「・・・君、演技出来る?」

私は、

「いいんですか?!」

って答える。

だから今からもっとダイエットして、お肌もピカピカのツルツルにする。
更に、ニノと私の会話の一部を、猛練習しておいて、監督に披露すると思う。
そしたら、ちょっと才能あるように見えるかも知れないもんね。本当は努力の賜物(たまもの)なのに。

ニノ役は星野源さんにお願いしたいな。
私みたいな素人でも、あの方なら演技力で引っ張ってくれると思うから。
私、大ファンだからお会い出来たら、恋してしまいそう。

あとは、私は、書籍と映画を作る為の制作費を捻出する為に、知り合いの博報堂の山田さんに連絡を取って、博報堂の方と一緒に営業に行くと思う。
あ、大日本印刷さんかな?仲の良いママ友の春香ちゃんが教えてくれたから。
どこの代理店さんになるかは、まだ分からないけど。
もちろん自分で行けるところには自分で行きます。


11月24日の木曜日、東京は初雪が降った。
その空を見上げながら思った。
私が勘違いさせてしまった男性に謝りたい事とか、芸能界を目指す人に言いたい事とか。

雪の降っている都会の空はね、意外とロマンチックとは程遠い、ホコリが降ってるみたいな空だよ。今度見てみたら分かるよ。
横から見ると、雪がしんしんと降っていて、とても美しいんだけどね。
だから、上を見上げるのは、簡単だけど、その中に入ってもキレイなだけじゃないよ。
むしろ、スゲー大変なんじゃない?雪が顔にあたって、進みにくし、相当幻滅しながら進む事になると思う。

私は、昔、芸能界いたから、色々分かってるし、そんな中でも頑張って前に進めると思う。
昔は、若かったから、自分の作品に対して大人が何かしてくれるのを待つだけだったけど、今はもう大人だから、自分から動けるもの、私。

本当に出来るよ。書籍も、映画も。
途中で、見ていた未来が間違っていたと思ったら、もう一度未来を見つめ直せばいい。
そこから、また新しい未来が見えるもの。

あたしね、未来が見えるの。本当だよ。

だって、私若い時にこの文章書くところ、見たことあるもの。

続き→◆最終章

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森川愛
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