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Be yourself〜立命の記憶I~⑳

◆第14章:手紙(1)


私達は場所を移動して、2軒隣のカラオケスナックに行った。
扉の位置が少し奥まったスペース。入り口と床は木目で木製のベンチも置いてある。

中に入ると、カウンターが長く続き、背もたれが丸くカーブしたさわり心地のいい、座面の膨らんだ座りやすそうなサーモンピンクの椅子が8個並んでいた。

店の奥と、手前の壁沿いに大きな画面がある。
カウンターの中には、これでもかってくらいズラっとタイの美人女性達が並んでいた。

彼の行きつけのようで、焼酎のボトルが入っていたが、それを下げて、新しいウイスキーのボトルを入れてくれた。

彼が、タイ語で何かお店の女の子に説明をすると、彼には普通の水割り、私には氷抜きの水割りを出してくれた。

「じゃ、とりあえず、カンパーイ」

「じゃ、竪山(たてやま)さん、歌ってよ」
「いやいや、誰も客いないし!この状態でいきなり私歌ったら、引かれるから。恥ずかしいし。」
「いいじゃん、大丈夫だよ。」
「いやいや、だったらあなたからお願いします。」
「いいよー。」

彼は、そういうと、慣れた手つきで選曲した。
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「ひまわりの約束」 秦 基博

そばにいたいよ 君のために出来ることが 僕にあるかな
いつも君に ずっと君に 笑っていてほしくて
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なんだろう、歌の歌詞が、自分の聴きたい部分ばかり注目して聴こえてくる。
というか、その部分の字幕を意識して読んでしまうね。
しかしまぁ、彼、歌、上手いな・・・。

そして、特に何も考えずに、お姉ちゃんの結婚式で子どもたちが歌ったんだよねー、と言いながらこの曲を入れた。
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「ハナミズキ」一青窈

僕の我慢がいつか実を結び
果てない波がちゃんと止まりますように
君と好きな人が百年続きますように
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あれ?ちょっと待った、これ片思いの歌なの?知らなかったんだけど!
ちょ、あたし我慢してないから、別に!幸せだから私!百年続くのウチだから!


そして、彼が歌う。
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「海の声」 浦島太郎(桐谷健太)

会えない そう思うほどに
会いたい が大きくなってゆく
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いやー、なんで自分の都合のいい歌詞ばかりに注目しちゃうんでしょうね、ホント。
彼、やっぱり私の事好きだったのかなー。今でも好きなのかなー。なーんて。
いやいや、この曲、今カラオケ行ったら男子誰かが必ず歌ってるヤツだから。


そんで、やっぱ私達の世代だと、ドリカムだよねー、って話したから、あ、これは?コレは?最近TOYOTAのCMで流れてるよね、って言って入れた。
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「LOVE LOVE LOVE」 DREAMS COME TRUE

ねぇ どうして すごく愛してる人に
愛してる と言うだけで ルルルルル
涙が 出ちゃうんだろう・・・

ふたり出会った日が
少しずつ思い出になっても
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いやいやいやいや、ちょっとちょっと、CMの曲を入れただけですよ!
愛してない!愛してないから!思い出ではありますが、愛してはいないから!勘違いしないでー!

そして、私の歌、「いい意味で引くぐらい上手い」とのお言葉を頂きました。

まぁ、そこそこ感情移入は出来たかな。今の私の気持ちに近かったし。
いやー、エコーがんがん効いてるカラオケだからですよ。レコーディングだとヘナチョコだもの。

そして、話しながら、私が音楽について話していたんだ。

「歌って、その歌詞に気持ちとか感情を込めて歌うのがプロなんだよね。
歌の技術はあって当たり前、その上に感情を込める訳よ。
だから歌詞を一度朗読して、その歌詞の意味とかを心の中に落とし込んでから歌うものなんだよね。
でも、私はその気持ちを込めるのが出来なかった。
自分の作った歌詞なら出来るけど、他の人の歌詞がなかなか共感できなくて。ほら、私ADHDだから。人の気持ちがわからないでしょ。」

「だからプロは続けられなかったよね。こんなあたしくらいの歌の技術持ってる人なんかゴマンといるもの。」
「そうなの?」
「そうだよー!学年に2人くらいはいるよ?ほら、川内高校ならあたしと杏子だよね。杏子も歌上手いよ。あたしよりも上手いよ。彼女も一度プロになってるもん。」

「私ね、今回、自分で資料作ってて気づいたんだけど、人の心を打つのって「真実」なんだよね。
本当の事実=真実が一番人の心を動かして、感動させるわけよ。
だからアーティストの作る歌詞とか、あれ本当の事歌ってるから感動するワケよ。
でも、あたしは出来なかったよね。ネタもだんだん無くなっていくし、本当の事を歌詞にするのが難しかったもん。
他人の歌を歌うには、他人の気持ちが理解出来ないとダメだしね。ほら、私ADHDだから、人の気持ちがわからないじゃん。」

そこまで話すと彼は言った。

「そんな病気のせいなんかにしないでさぁ!」


続き→◆第14章:手紙(2)

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森川愛
サポート頂けるなんて、そんな素敵な事をしてくださるあなたに、 いつかお目にかかりたいという気持ちと共に、沢山のハグとキスを✨✨ 直接お会いした時に、魂の声もお伝えできるかも知れません♪ これからもよろしくお願いします!✨✨