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田舎と都会を一つの「コート」に立たせて素敵な「ラリー」を演出|虻川友光さんインタビュー

人は自分が理解できない存在に出会ったとき、それを「宗教」だと表現することがあります。文明や科学が発展した今の時代、逆行するような生き方は、都会に住む人たちには理解できないことも多いでしょう。

最近では生成AIやDX、Web3.0など、一見、人間の生活が便利になるようなものがどんどん生まれています。ただそこに人が群がるのを見ていると「人間らしく生きる」とは何だろうかと考えさせられるのです。

森川放牧畜産の森川夫妻は、まさに時代を逆行するような生き方を選んだ2人です。「人間らしく生きる」を追求する2人の生き方、考え方に触れた人のなかには「宗教」のようだと表現する人もいるよう。ただ「宗教」のようだと感じながら、2人の生き方に感化された方が大阪にいるんです。

実は、前回取材させていただいたなっちゃんの記事を執筆した後、なおみちゃんから「1日でも早く取材して欲しい」と言われたのが、今回の取材対象者の虻川さんです。取材を急ぐ理由は全く聞かされてなかったものの、話してみれば納得でした。そんな虻川さんにお話を聞かせて頂きました。

高校から始めたバドミントンで全日本シニアチャンピオンに!

虻川さんは、大阪府豊中市でバドミントンの指導と小売業を営む男性です。バドミントンは高校生の頃に初めて、大学生のころには同好会で活躍。就職後3年ほどの空白期間を経て、社会人サークルで練習、試合にと取り組んで来られたそうです。

指導者としても結果を出しており、指導している子供たちも日本でトップクラスの成績を納めています。ただ、画面越しで見る虻川さんの姿が、子供たちの指導者という感じではありません。

「自分の練習方法や指導方法は独特なんです。結果は出ているものの、周囲の指導者からは理解されません。であればより近寄りがたい存在になってやろうと、付き合う人をフィルタリングすることもあるんです(虻川さん)」



画面越しの虻川さんが無精ひげを生やしていた理由は、本質がわからない人を遠ざけるためのフィルターだったのかと、筆者は納得した次第です。虻川さんの話を聞いて、野球漫画「ドカベン」の徳川監督と似た印象を抱きました。

「バドミントンの世界で、理解できない方法を追求する自分の姿と、森川放牧畜産の姿に共通点があるかもしれないと気づいたのは後になってからでしたね(虻川さん)」

まさしくその通りだと感じました。周囲に理解されようがされまいが自分が感じる本質を追求する姿は、虻川さんと森川夫妻に共通する生き方でしょう。

知人に紹介された森川放牧畜産の牛肉には家族も驚かされた

「森川放牧畜産との出会いは、知人から紹介されたお肉でした。信頼している知人がそこまでいうならと思って注文し、食べてみたところ、あまりにも美味しくて。家族も喜んでたべていましたね(虻川さん)」

森川放牧畜産の牛肉は、全国にファンがいるほどの人気です。こだわりを持った飲食店でも調理されており、まさに本物の味です。耕作放棄地で牛を放牧し、本来の牛らしくストレスフリーな状態で育成しているからこの味になるのでしょう。

「牛肉を食べたあと、知人に誘われ家族で長崎を訪問することになりました。空港まで迎えに来てくれたのがなおみちゃん。彼女の話を聞いていると、吸い込まれてしまうように聞き入ってしまいました。知人の紹介でなければ怪しい人(笑)だと思ったかもしれません。宗教っぽいと言われるのも納得でした(虻川さん)」

筆者もなおみちゃんと何度も話したことがあります。確かに宗教っぽいと感じる人がいるのも納得です。でもそれは、現代の生き方に慣れてしまった人には理解できない話だからではないでしょうか。現代の人間の生き方は長く続かないと思って実践しているなおみちゃんの話は、本質把握能力が高くないと理解できないでしょう。

「薫ちゃんとの出会いも印象深いです。当時小学6年生と3年生の子供を連れて行った時、農作業で使う大型機械に乗せてくれたんです。現地の子供たちでもめったに乗せてもらえないのに、うちの子供は乗せてもらえた。その理由を聞いたら『眼を見たらわかる』って言われたんです。それが嬉しかった(虻川さん)」

自然と共に生きている薫さんは、子供たちの眼を見て「腹がすわっていて、おかしなことはしない」とわかったそうです。腹の探り合いが当たり前の人が多いなか、眼を見ただけで見透かしてくる薫さんとの出会いは、虻川さんにとって大きな喜びだったようです。

腹を割って話した結果、資金援助をしたものの…


「長崎に何度も通っているうちに、自分もこうありたいと思うようになりました。ただ、その時は、自分には自分の日常があるから、リトリート的に非日常を感じられる場所という感覚でした(虻川さん)」

虻川さんは、その後も子供たちを単発で修行に向かわせるなど、森川放牧畜産を度々訪れます。この時は、場所を作る側ではなく使う側だったのでしょう。それだけ森川夫妻のように場所を作る側に回るのには覚悟が必要です。

「マトリックスの世界を見ているように他人事だったんですよね。そんな時に、2人からお金がなさすぎて潰れるかもしれないという話を聞かされました。自分たちも裕福というわけではないものの、ひっ迫しているわけではなかったので、資金援助を申し出たんです(虻川さん)」

この時は、森川夫妻も自分たちを応援してくれる人と出会えたと喜び、更に本気度が高まったそうです。ただ、これにより温度差も生まれてしまいます。

「自分としては資金援助をして、いいことをしたと思っていました。ただ、森川夫妻にはチームの一員だと思われたんでしょうね。これまでとは異なり、あれやこれや口を出されるようになって、正直、反発することもありました(虻川さん)」

資金援助自体は虻川さんの奥さんも賛成してくれていました。ただ、その後、虻川さんが長崎にのめり込んでいくように見えてしまい、夫婦間のもめごとも増えてしまいます。離婚寸前にまでいたったこともあるそうです。

それでも通い続けた長崎で目にした光景

「それでも長崎には行き続けていました。薫ちゃんからは、円の中心を食った生き方をしていないと言われていましたが、それでいいと思っていたんです。これ以上、どうしたらいいの?と思ったこともあります。ただ、長崎に行くのは神社巡りのようでもあったんです(虻川さん)」

ある日、虻川さんは薫さんと一緒に山に入って行きます。山に入ると、生えている木々の枝がこちらを向いて、邪魔をしているように見えたそうです。

「せっかく山に入っていいことをしようとしているのに、自然はなぜ邪魔をしようとするのかと思いました。すると奥には大量のごみが捨ててあり、同じことをさせないように山が仕向けているように感じたんです。帰りは枝が逆向きで、むしろ歓迎しているようにも感じました(虻川さん)」

まるで、山と会話ができたような感覚だったそうです。山を抜けると、そこには壮大な光景が広がっていました。

「山に入る前に自分との対話をメモしていたんです。そこで大きな声を出せば何かが変わると書いていたんですね。山での光景を見ながら、その通りのことをしてみました。すると、何かを感じて、方向性が見えたような気がしたんです(虻川さん)」

このことをきっかけに、虻川さんは自分でも「農」にかかわることを始めます。

「菜園を始めて、岡山で田んぼも始めました。森川家と出会っていなければ、絶対やらなかったでしょうね。自然を相手にすると、隠し事はできません。妻とも腹を割って話せるようになり、今では活動を手伝ってくれるようになっています(虻川さん)」

優しい人が報われる世界が見たかったんだ!

「バドミントンでやってきたことと、森川夫妻がやろうとしていることがしっくり来るようになってきました。その結果、自分には田舎と都会をつなぐ役割があるのだと気がついたんです(虻川さん)」

確かに、田舎と都会はますます分断されて行っているようにも感じます。虻川さんのようにそれぞれをつなぐ役割は、これからますます重要になるでしょう。

そんな虻川さんには、昔から「大金持ちになりたい」という思いがあったそうです。

「別に物欲も無いし、大金を使いたいわけではないんですが、昔から大金持ちになりたいと思っていたんです。その理由が明確になってきました。それは、優しい人、徳がある人が報われる世界を作ること。大金持ちになれば、優しいのに貧しい人を救うことができるから(虻川さん)」

「簡単に稼げる」という言葉で人を釣って、騙すようにお金を集める人がいます。そういう人たちがいるから、つい疑いから人をみてしまうようになっている気がします。もし、自分のことを見透かす人と出会えば、そんな世界から脱却できるでしょう。薫さんに出会って喜びを感じた虻川さんのように。

虻川さんを通じて出来上がる田舎と都会の「ラリー」は、どんな世界を見せてくれるのでしょうか。どんな人たちがその「コート」に立つことになるのでしょう。今から筆者はとても楽しみです。

ライター: 中島正雄

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