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「真心」の循環で地球の根本治療に取り組む神戸の才女|前田夏穂さんインタビュー

2020年に日本で公開された映画「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」は、都会を追い出された夫婦が、荒れ果てた農地に移り住み、美しい農場をつくりあげていく物語です。

この映画を見て、こんな生活をしてみたいと思った人も少なくないでしょう。実は、日本にもこの映画の主人公のような夫婦がいらっしゃるんです。

その夫婦とは、長崎県西海市の森川放牧畜産を営む森川夫妻です。廃墟に近い牛舎に出会い、自然と向き合いながら農業を営む姿は、まさに日本の「ビッグ・リトル・ファーム」と言ってもいいでしょう。

そんな森川放牧畜産に魅了され、全国各地からさまざまな人たちがこの地を訪れます。果たしてどんな人が、なぜ森川放牧畜産に足を運ぶのでしょうか。

今回は神戸大学で博士号を取得した才女「前田夏穂さん(以下、なっちゃん)」に話を伺いました。

宇宙惑星科学から教育の世界へ

もともとなっちゃんは神戸大学で宇宙惑星科学を学んでいました。

「大学では、木星の衛星について研究していました。太陽系がどのようにできたのかというのも研究テーマでした(なっちゃん)」

日本でも有数の大学で博士号を取得したものの、彼女の心の中には大きな違和感が生まれていたようです。

「周りを見渡した時に、自分で考えて判断できる人が少ないことに気が付いたんです(なっちゃん)」

神戸大学といえば、日本の大学の中でも難関大学といわれる国立大学です。そこに通う学生でも、勉強はできても自分で考える力に課題があるとは驚きです。

「新型コロナウイルスが流行していたころ、本当にワクチンを打つべきなのかを自分で調べました。さまざまな情報に触れて、最終的には自分で判断しなければならないと思う一方で、何も考えずにワクチンを打つ周囲に驚いたんです(なっちゃん)」

ワクチン接種の是非は横に置きますが、筆者も当時、同じような思いを抱いたのを思い出します。

「自分で判断できる人が少ないのは、日本の教育に問題があるからだと思い、そこから教員免許をとろうと決心しました。結果的に免許は取得していませんが、その間、政治活動や、フリースクールやオルタナティブスクールにも関わっていました(なっちゃん)」

宇宙惑星科学から教育の世界とは、また思い切った舵の切り方です。それだけなっちゃんの中に芽生えた危機感は大きかったということなのでしょう。

教育だけじゃない!農業や地方創生にも目を向けないと!

政治活動やフリースクールにかかわるなか、なっちゃんの中に芽生えた危機感は、さらに違う分野にも及んでいきます。

「当時の彼氏が田舎出身で、彼の実家は兼業農家だったんです。彼は都会に出て就職していましたが、その結果、実家の後継者がいない状況でした。優秀な若者が都会に出て、農業の後継者がいない。地方の過疎化が進む現状にも危機感をいだきました(なっちゃん)」

日本の農業の後継者問題が深刻であることは、筆者もニュースなどでよく目にします。実際の現場は、私たちが思う以上に深刻なのでしょう。なっちゃんはその深刻さをリアルに感じたわけです。

農業や地方創生にも課題があると感じたなっちゃんは、ついに森川放牧畜産との遭遇をはたします。

「2023年5月末に、当時、私がかかわっていた大阪のコミュニティで森川さんたちと出会いました。なおみさんの誕生日に合わせてお話会が開催されていて、その時の話を聞いて長崎に行かなければならないと感じたんです(なっちゃん)」

自分が感じている日本の課題に関して、すでに取り組んでいる人がいると知ったなっちゃんは、いてもたってもいられず一週間後には長崎に行くのでした。

「森川放牧畜産の取り組みがすごいというのは、以前から耳にしていました。でも、直接話を聞いたら、その何倍もすごいことをされているとわかったんです。農業や地方創生を学ぶなら、ガチに取り組んでいる森川放牧畜産だ!って思いましたね(なっちゃん)」

神戸大学の才女を動かしたのは、自然の中でガチに生きている森川さんたちの熱い思いだったのでしょう。

とにかく楽しい長崎での生活

「最初の訪問では4日間滞在させてもらいました。ひとから聞いた話や、映像でどんな生活かイメージしていたのですが、実際に行ってみたら全然違いました。自然を相手に生活するのは、目まぐるしく、情報量も多かったけど、とにかく楽しかった(なっちゃん)」

なっちゃんにとって、長崎での生活はそれまで頭の中で考えていた世界をさらに書き換えるものになったようです。

「教育、農業、地方創生と、日本の課題を『点』で見ていた自分に気が付きました。森川放牧畜産がやっていることは『循環』で、もっと広い視野で捉えていると感じたんです(なっちゃん)」

森川放牧畜産が取り組んでいることのひとつが土中環境の再生です。良い土がなければ、良い作物は育ちません。この土中環境の中心にいるのが牛だったわけです。

教育や農業という人間目線の問題ではなく、地球の根本治療が行われている、なっちゃんの目にはそのように映ったようでした。

「人と人とのつながり、人と動物のつながり、この縁が成立してこその地球環境なのだと知って、こういう世界があるのかと感動しました(なっちゃん)」

森川放牧畜産で学んだことと、なっちゃんのこれから

森川放牧畜産を初めて訪れてから1年半が経過しました。この期間はなっちゃんにとってどんな日々だったのでしょうか。

「これまでの人生がすべてひっくり返りました(笑)。正しいと思っていたことが、決してそうではないと知り、価値観が変わりました。学校の成績や論文の成果が無意味とは言わないけど、もっと大事なものがあるとわかりました(なっちゃん)」

森川放牧畜産に関わる人や、牛などの動物、そして自然からの学びはなっちゃんの人生観を大きく変えたようです。

「『生きるうえで大切なものってなんだろう』って、森川さんの所にいると考えさせられます。それってなかなか実践できるものではないんですよね。言葉にすると『真心』なのかなと、今は思っています(なっちゃん)」

人への真心、牛や動物への真心、地球環境への真心…もしかしたら多くの人が知らず知らずのうちに失ってしまっているものかもしれません。森川放牧畜産には、本当の意味での「真心」が溢れているのでしょう。この「真心」に触れたくて、多くの人が日本中から森川放牧畜産を訪れているのかもしれません。

「これからは、森川放牧畜産やこの地域で学んだことを、ほかでも作っていきたいと考えています。自分の正しさや常識を手放して、本当の意味で自然と共存する世界を作っていきます(なっちゃん)」

先日は自然に落ちている石や砂を使ってかまどを作ったそうです。

「もし災害が起きて、救援物資が届かなかった場合、自然にあるものから生きる術を見つけないといけないですよね。この地域にはその知恵があり、実践されています。伝統的な知恵が継承されていて、生きる力に満ち溢れているんです(なっちゃん)」

確かに、便利になりすぎた現代では、自然の中で生きる術をもっている人の方が少ないでしょう。

「この地域には牛飼いがいて、左官屋さんもいます。自然と共存している人たちとの出会いは、西宮の都会で育った私にとっては奇跡のようなものなんです。人も土地も再生していくという私のビジョンが、まさにここにあったんです(なっちゃん)」

大学の研究という思考の世界を追求していたなっちゃんが、考えずに身体を動かす生活を長崎で知り、人としての本来の心地よさを手に入れました。正しさを振りかざすのではなく、目の前の人と共感して温かい関係性を築いていく。森川放牧畜産で感じた「真心」を、なっちゃんがどのように広げていくのか、とても楽しみです。

インタビュアー: 中島正雄

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