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自然と人間の距離を「土」を介して近づける古民家が目標!|有田圭一さんインタビュー

森川放牧畜産に縁ある人を取材させていただいていると、何か不思議な経験をすることがあります。今回、有田圭一さんを取材する際にも、不思議なつながりがありました。

取材の2日前、私はFacebookにてとある投稿をしました。それは、スタジオジブリの名作「天空の城ラピュタ」にて、主人公のシータが口にした『土から離れては生きられないのよ』というセリフです。

有田さんとはFacebookではまだつながっておらず、私がこのセリフを投稿したことを知る由もありません。ですが、今回の取材中に、有田さんがこのセリフが好きだということが判明するのです。まさに偶然の一致です。

何か、森川放牧畜産には目に見えない求心力があるのでしょうか。ここまで取材を重ねてきて、今回のような偶然はほかにもありました。きっと、何かが後押ししてくれているのでしょう。

『土から離れては生きられないのよ』のセリフが好きだという有田さんが、どんな経緯で森川放牧畜産にかかわるようになったのか、お話を聞かせて頂きました。

両親の活動をきっかけにバドミントンと出会う

大阪の八尾市出身の有田さんは、小学校の教師をしている両親のもとに生を受けます。両親の背中を見て育った有田さんは、高校教師に憧れるようになります。

「両親が小学校の教師だったので、同じ小学校の教師になることも考えました。ただ、当時の小学校教師というのは、家に帰ってきてまで教材開発をするなど、なかなかハードな働きっぷりでした。両親からも小学校教師はハードだと聞かされていたので、高校教師を考えるようになりましたね(有田さん)」

今でも度々、学校教師のハードワークがニュースになることもあるほどですから、当時の先生の仕事は、今よりも大変な部分もあったのでしょうね。

体育教師だった父親は、有田さんにスポーツをすることを勧めます。

「最初に勧められたのは野球でした。その後、転校をきっかけにラグビーを始めるのですが、自分には合いませんでしたね。水泳をした時期もありましたが、いずれも長続きしませんでした(有田さん)」

とはいえ、運動自体は嫌いではなかった有田さんは、両親がPTAの集まりで活動していたバドミントンにはまっていきます。

「最初は家にひとり残すわけにはいかないと、両親に連れられて会場に行っていました。小学校の友だちが、そこでバドミントンをやっていたので、楽しそうだと感じたんです(有田さん)」

野球やラグビーは長続きしなかったものの、バドミントンは有田さんに合っていたようです。この時に出会ったバドミントンは、今でもかかわりを持っています。

バドミントンの経験を生かした授業を行う

小学校卒業後も、有田さんはバドミントンを続けます。

「中学校は、バドミントンの強豪校を選びました。友だちのひとりは、バドミントン一家の末っ子で、もうひとりの友だちは、大阪の大会で優勝した経験の持ち主でした。なので、3人の中では自分が一番下手くそでしたね(有田さん)」

中一の夏には手術が必要なほどのケガをしてしまい、約1年間ラケットが握れなくなってしまいます。

「それでも、辞めようとは思いませんでした。右手が使えないので、左手を使って練習してましたね。バドミントンは、ひとりでも戦えるスポーツで、シャトルをラケットで操作するのが難しいんです。駆け引きもあって、頭も使います。それが面白くて、今でも夢中です(有田さん)」

バドミントンを続けたいという思いから、将来の職業を考えていた有田さんは、小学生の頃に憧れていた高校教師の道を目指します。

「バドミントンを教えたいという思いを持っていました。会社員だとバドミントンのための時間を確保するのが難しいと思ったので、教員や公務員、バドミントン専門のショップ勤務などの選択肢を考えましたね(有田さん)」

実際に、高校教師となった現在では、部活でバドミントンを教えるだけでなく、バドミントンで培った経験をアレンジして、授業で生徒に伝えることもあるそうです。

「教科の内容を教えるだけでなく、人間形成や食育についても伝えています。バドミントンの経験から伝えることとしては、メンタルの重要性はひとつの例ですね。メンタルを保てば試合に勝てるという視点は、試験で結果を出す方法につながります。また試合での駆け引きは、試験を作成する先生との駆け引きにもかかわりがあるんですよ(有田さん)」

個人的には、こんなユニークな指導をする先生から授業を受けてみたいと思う次第です。

「授業をしていて、子どもたちが『わかった』という表情を見せる瞬間が嬉しいですね。教師として感慨深い場面です(有田さん)」

点数を取ることよりも、「わかった」を重視してくれる先生に伴走してもらえる生徒は幸せでしょうね。

虻川さんとの出会いでつながった森川放牧畜産

高校で独自のスタイルを貫く有田さんが、森川放牧畜産と出会ったのは、以前に取材をさせていただいた虻川さんがきっかけです。

「自分が高校でバドミントンを指導している時に、虻川くんが自分のところに来て、指導方法について質問を受けたんです。あの本を参考にするといいなど伝えることになり、そこから意気投合して今に至ります。丁度、弟が虻川くんと同い年なので、ペアを組んで試合に出ていますよ(有田さん)」

先に、森川放牧畜産に出会っていた虻川さんから紹介を受け、まずは大学生の息子さんが長崎に行くことになります。

「虻川くんからは、森川さんは、訪ねて受け入れてくれるかははっきりしている人だと聞いていました。逆に、それがいいなと思ったんです。実際、1週間の体験を経て帰ってきた息子は、すごく良かったと多くの話を聞かせてくれました(有田さん)」



その後、有田さん自身も森川放牧畜産に赴きます。

「実際に長崎に行って、実際に牛舎の世話も体験しました。農業はこれまで経験したことのない世界でしたが、やってみると自分に合っていると感じたんです。肥料を混ぜているときに、腕にびっしりハエが止まることもあったんですが、全くひるむことなく『すげー!』って感動したくらいです(有田さん)」

森川放牧畜産の牛肉にも驚かされたそうです。

「バドミントンをやっていて、牛肉よりも豚肉、豚肉よりも鶏肉、それよりも魚だと思っていました。牛肉を食べるのは好きなのですが、どうしても翌日に調子を崩してしまいます。ただ、森川放牧畜産の牛肉は、そんなことがなく食べても調子が悪くなりませんでした(有田さん)」

なぜ、こんな牛肉を生産できるのだろうと思い、ますます関心を深めていきます。

同じ感覚で話ができる環境

年に1,2回長崎に行くようになった有田さん。今では奥さんも単独で行くほどの関係になっています。

「農業体験や畜産だけでなく、訪ねた時にできる会話に共感することが多いんです。学校教育の中ではタブーになっている話も、森川さんの所だったら話すことができます。これまでの世の中がひっくり返るという話も聞きますが、共感することばかりです(有田さん)」

また失敗に対する考え方も、有田さんに共通する点があったようです。

「学校教育では、失敗が敬遠されます。それもあって、教師は生徒に対して、失敗しないようにと教えるんです。そのため、生徒は自然と失敗しないような行動をとるようになってしまうんです。私は、たくさん失敗してほしいと思っています。森川放牧畜産には、その失敗が当たり前につまっています。作業をしていて、失敗したとしても『それも経験だ』と受け入れてくれるんです(有田さん)」

大自然を前にして、失敗しないような行動を繰り返していると、何もできなくなってしまうのでしょう。失敗を経験と捉えられる器の大きさは、自然と共存している証なのかもしれません。

食と向き合うことで見えてきた未来図

森川放牧畜産に行くようになり、普段の食事について考えるようになった有田さん。

「普段、口にしている食事の中には、体に良くないものが含まれていると知りました。実際に、それらを口にしないようにすると体調が良くなったんです。逆に体にいいといわれる食材を口にするようにすると、体重も減って太りにくくなりました(有田さん)」

特に、都会に住んでいると食材と家庭の距離が離れてしまいます。その分、食材について考える機会も減ってしまうのでしょう。『土から離れては生きてはいけないのよ』といわれるのは、こういうことなのかもしれません。

「食事に気を付けるようになっただけではなく、自分たちでも作物を育てるようになりました。今は岡山で米を作り、4月からは富田林で妻が畑を始めました。これまで夫婦で山登りをして、自然が好きだという共通点があったので、夫婦で楽しく作物を育てています(有田さん)」



自分たちで作物を育てられれば、安心安全な食材が手に入りますね。万が一の時でも、食に困ることも無くなりそうです。これからの時代は「農」との距離をどれだけ近づけるかがポイントではないかと筆者は考えさせられました。

「今は、古民家を探しています。なかなか見つからないですけどね。昔の武士は、自分の屋敷に畑があり、仕事をしながら農作業をしていたといいます。自分もそんな生活を目指したいですね(有田さん)」

以前から、古民家には関心を持たれていたそうですが、農業へのかかわりは森川家にかかわってからとのことです。森川家との出会いにより『土から離れない』生活が実現されたわけですね。
畑の横にバドミントンのコートを作って、農作業の合間に遊べる環境もイメージされているようですよ。

「農作業は、食べ物が生産できるだけでなく、人とのつながりが実感できる仕事です。一緒に作業をした人たちと、一仕事終えた後に喜び合えるのは幸せですね。生徒にはそんな大人になって欲しいと思っています。まずは、自分からやっていきますよ(有田さん)」

コントロールの難しいシャトルと、ラケットを通じてかかわるバドミントンの関係性は、自然と人間の関係に近いのかもしれません。コントロールの難しい自然を、土を通じてかかわる農業は、同じ図式であると筆者は考えます。そんな関係性を生徒たちに伝える有田さんが、どのような場所を作っていくのか、とても楽しみです。

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