見出し画像

【新卒メンバーが企画立案】“生成AI×ゲーム”の新コンセプトモデル「言霊の迷宮」開発者へインタビュー

今夏、京都で開催した日本最大級のインディーゲームイベント「BitSummit2024」に“生成AI×ゲーム”の新コンセプトモデル「言霊の迷宮」を出展!

現地にて「言霊の迷宮」の企画・開発を担当した新卒メンバー早瀬さん・高橋さん、そして出展に携わった松本さんに、本プロジェクト企画の経緯や出展後の振り返りについてお話を伺いました。

※本記事はモリカトロンAIラボに掲載された「BitSummit2024」レポートの一部を転載したものです。

■ゲーム概要
“生成AI×ゲーム”の新コンセプトモデル
「言霊の迷宮 - 人とAIが紡ぐ無限の冒険物語 -」

冒険者“モリック”の物語を、あなたの言葉の力で導いてあげるゲームです。
生成AIを駆使して、リアルタイムに冒険物語を生成しています。プレイヤーが入力した自由な言葉によって物語が変化していきます。
また、最大10人が連携して1つの物語を生成します。前の人の「予言」により、次の人が冒険するダンジョンの様子が変わるため、10人で物語を紡いでいくことができます。
※本ゲームはゲーム開発に生成AIを活用するために研究・制作されたコンセプトモデルです。


自己紹介

―まず皆さんのポジションと今回のプロジェクトにおける役割を教えていただければと思います。

松本:私はプロジェクトマネジャー(PM)として、受託案件の進行管理から今回のような内製のプロジェクトを担当してきました。『言霊の迷宮』では同じくPMをやりつつ、企画のフォローやAIのプロンプト部分も担当していました。

早瀬:僕はAIエンジニアとして、受託のサービスなどの開発に携わってきました。『言霊の迷宮』のプロジェクトではゲームのデザインやバランス調整、実装ではバックエンドを主に担当しました。

高橋:私もAIエンジニアとしてモリカトロンの業務に携わっております。昨年は『Red Ram』というゲームの企画と開発をやらせていただきました。今回は早瀬さんにバックエンドをやっていただいて、クライアント側を私がやるという形で開発に携わりました。


開発の経緯

―『言霊の迷宮』の開発に至るまでの経緯を教えていただければと思います。全体のゲームデザインや世界設定はどのようなアイデアから生まれたのでしょうか。

高橋:昨年のBitSummit Let's Go!!に出展した『Red Ram』の反響を受けて今年もモリカトロンで作品を出展しようということでプロジェクトが始まりました。まず『Red Ram』で得られた知見を踏まえて、よりインパクトの強いゲームを作ろうと考えました。

具体的にはリアルタイムにコンテンツが生成される驚きを作りたいということ、もう一つはAIゲームはAIが生成したコンテンツだけではなく、プレイヤーが何を入力するかが面白さにつながるという知見があったので、この二つをうまく統合しようと考えました。

世界設定については、プレイヤーが何を入力してどんなものが生成されても違和感なく受け入れられる世界観にすることが一番重要でした。あまり現実的な世界観にしてしまうと、例えば「ペンギンが空を飛んでる」など少し変わった入力をした結果物語が生成されると、違和感が大きくなりすぎてしまいます。ですから多少荒唐無稽でも違和感のないように、よくあるファンタジーの世界でダンジョンを攻略していくという設定にしました。

今回は良い意味で行き当たりばったりを楽しむゲームにしたので、そこが生成AIとの相性が良かったのだと思います。

早瀬:AIを使う長所は、こじつけを勝手にしてくれるところです。今回はゲーム攻略的な要素をつけることを意識しました。つまり、より良い結果を得るためにどう入力したらいいかをプレイヤーが考えられるデザインを心がけました。

松本:パラメータを使った遊びやTRPGのようなストーリーを作る遊びなど、プレイヤーによって違った楽しみ方ができるようにできましたね。アイテムの能力を示すパラメータを入力する時も、実は裏で入力された内容からパラメータをLLMで定義しているので、そのために何の能力を付与しようかを考える人もいれば、逆に敢えてまったく役に立たなそうなアイテムのプロンプトを入力してどんな物語が出るかを楽しむ人もいたり。AIならではの入出力の寛容さを活かせたし、それがゲーム全体の楽しさにつながったのだと思います。


プロジェクトの課題と解決策

―今回の企画、最初は早瀬さんと高橋さんがそれぞれ別々の企画を立てられて検討した結果、その二つの企画の要素を抽出して融合させることで『言霊の迷宮』の開発に至ったと伺いました。そのあたりも踏まえて、大変だった所や直面した課題をどう乗り越えたのかをお話しいただければと思います。

早瀬:僕はゲーム性や戦略性を重視したかったので、当初はカードゲームの企画を立てていました。言葉を組み合わせてステータスなどが生成されるゲームでしたが、実際に作ってみると、どうしても攻略のために生成される値の出力が乱数で生成されたランダムっぽくなってしまいます。要は当たりが出るまでガチャを回して生成し直せばいいというデザインになってしまったのです。プレイヤーが納得できそうな数値になるようにも修正してみましたが、今度は超大量のルールで作ったデータとあまり変わらなくなってしまい、新しいプレイ感を得られるゲームデザインとは思えずに悩んでいました。

高橋:私の方はAIを使うパーティーゲームを作りたくて、陣取りをみんなでしてバトルするゲームを企画しました。先に駆け引きが必要な部分を作って、社内でも「これ良さそうじゃない」という反応をいただけたので早い段階でプロトタイプを作りましたが、いざできたものをみんなでやってみると、最初は面白くてもすぐに飽きてしまうことが分かりました。要するに今ひとつ魅力が足りなかったのです。
よくよく分析したところ、そのゲームにはAIをわざわざ使っているからこその面白さがないという結論に至りました。パネルをめくるとAIの生成イラストが現れるゲームでしたが、AIを使える部分はほぼそれくらいです。ゲーム性自体にAIを組み込めていない所がやはりネックで、なかなかそこから進まず行き詰まってしまいました。

―その両者をうまく統合しながら『言霊の迷宮』の開発に至ったのですね。色々とディスカッションされたと思いますが、どういう要素を取り入れて今回の企画に至ったのでしょう。

高橋:早瀬さんのカードゲーム的な要素を入れるアイデアからは、プレイヤーが入力した意図が反映されたコンテンツを出力できるように調整したことでゲームの魅力につなげることができました。一方で私のアイデアからは、AIの魅力を全面に出すというよりは他のプレイヤーとコミュニケーションを取りながら遊ぶゲーム性を取り入れました。
これら二つの要素を素直に統合したことで今回の『言霊の迷宮』になりました。私が出したアイデアのパーティーゲームっぽさは前のプレイヤーから次のプレイヤーへ生成されたものを受け渡すところに反映されましたし、早瀬さんのアイデアは入力されたテキストからアイテムや物語が生成されることで反映されました。最終的には両者のいいとこ取りをしてうまくまとめることができました。


「BitSummit」の反響

―実際に出来上がった『言霊の迷宮』をBitSummitに出展されましたが、反響はどうでしたか?

高橋:ありがたいことに昨年以上に盛況かつ好評でした。子どもからお年寄りまで多様な年齢層の方がいらっしゃって、その場で自分の言葉がアイテムという形に生成されることに驚きながら笑顔になってくださったのが印象的でした。

早瀬:AIを使って遊べるゲームは得られるゲーム体験が従来のゲームとは異なるため、正直なところお客様の反応が読めないという不安が出展当日までありました。しかし実際に目の前で反響を見ると想像以上にお客さんのリアクションが良かったのが嬉しかったです。

高橋:「発売はいつですか?」という質問を何人もの方からいただきましたよね。

早瀬:そうですね。「Steamで出てますか?」とか、結構聞かれましたね。

松本:ビジネス方面からお話をすると、AIを現場に取り入れたいという開発者の方も大勢ブースにいらっしゃって、お話を伺えたのも良かったです。試験導入はしているものの実際にゲームの中のシステムとして組み込む場合、企画内容に対してどのような形であるべきか、そもそもどこまで何ができるのかをなかなか見積れないため、なかなかAIに手を出しづらいという意見が多かった印象です。そういう所もモリカトロンには蓄積したノウハウがあるので、ぜひ気軽にご相談いただけたらと思います、という宣伝をしていました。


実験的なAIゲームを開発していく意義

―実際に企画開発をされてゲーム開発にAIを組み込んでいくことの意義とともに難しさもあったと思います。モリカトロンでは、昨年の『Red Ram』に引き続き生成AIを実装したゲームを開発して発表されたので、こうした提案をモリカトロンがしていくことの意義についてのお考えを皆さんからお伺いできればと思います。

松本:この20〜30年で3DCGを使った映像表現の進歩があったり、ソーシャルゲームのような配信や遊び方が登場して定着するなど、色々なゲーム体験が増えてきました。今は生成AIも台頭してきましたが、基本的な遊びの新しい体験もAIを使ってまだまだ提案していける余地はあると思っています。

ただ一方で、ゲームにAIを組み込んで感じた難しさもたくさんあって、その最たるものが、良いプレイヤー体験を安定して提供し続けることでした。AIは確率的に出力をするものなので、プランナーがいかにプロンプトでAI体験が最善になるように組んだとしても、意図しない出力をされてしまうことがあります。今回の場合は、特に物語生成のチューニングに苦労しました。60点、50点を取るのはとても簡単でしたが、それを90点、100点の楽しさを安定して出力できるようにチューニングすることには苦労しました。

―どの部分がボトルネックになっていったんでしょうか。

松本:出力するものを評価する指標が「物語の面白さ」という杓子定規に定義しづらいものでしたから、その部分をどう言葉で落とし込むかが難しかったですね。「こういう物語にして」というプロンプトを積み重ねれば積み重ねるほど、従来のようにルールベースでガチガチに締めているのと変わらなくなってしまう。そうなるとAIを使って得られるはずの寛容さがあまりなくなってきてしまうので、ルールベースとAIを使うところのバランスを取らなくてはいけませんでした。

今回は生成された10話を1セットとして完結する物語という形式にしたので、10話の中で起伏をつけてある程度のカタルシスを得られるようにしたいと思いました。何もガードレールを設定せずに組んでしまうと、思わぬ入力をプレイヤーがした際に本当にあさっての出力になってしまいます。それを防ぐための工夫として、緩やかなガードレールを静的なデータとして入れました。例えば1話では「どこそこにたどり着くための旅路」を描き、9話くらいに「何々の秘密を発見する」といったおおまかなプロットを導入します。それとプレイヤーの入力を融合することで、たとえカオスではあっても大枠のシナリオから外れずに物語を生成できるようにしました。そういう部分のチューニングが大変でした。

こうした試行錯誤や工夫をしながらAIをゲーム作品に実装することでゲーム開発の現場で使っている人の悩みも肌で感じやすくなると思うので、今後も続けていきたいと思います。

早瀬:今回のようにゲームの中にAIを使うことで、今までと異なる面白さを持つゲームデザインを実現させることができます。
苦労した点としては、高い品質の体験ができるように生成物のクオリティを安定させて出力することです。もう一つは、もっと作り込みたいという欲求とのバランスを取る必要があることでした。生成AIはしばしば嘘をつくので、戦略性を重視して厳密に作り込みすぎると、嘘によってうまくいかなくなったり、うまくできたとしてもルールベースと変わらない状態になってしまいがちです。むしろ生成AIの嘘を上手に使う方がうまく行くように思いました。生成AIは入力が適当でも大抵の場合は何かしらをこじつけて出力してくれます。その性質を活かしつつ戦略性を作り込みすぎない。そうしたバランス感覚を持つことが重要かなと思います。

モリカトロンがAIを使ったゲーム開発をする意義は、AIをしっかりゲーム内に組み込んでいくことは、なかなか商用ゲームでは難しいとされるなかで、AIを使うことで得られる今までにない面白い体験の事例を見せられることだと思います。

高橋:なかなか今のゲームに組み込めていない所を見せていく意義はありますよね。私は映画『レディ・プレイヤー1』と同じことがAIでいつか実現できるんじゃないかと本当に思っていたりします。それくらいのポテンシャルがAIにはあると思います。

難しさについては、企画と技術のバランスを取ることが大変でしたね。それこそ『レディ・プレイヤー1』の世界を作りたいと思っても、今すぐには難しいでしょう。企画をふくらませすぎると技術的な実現のほうがかなり困難になってきますし、一方で今あるAIの技術をリサーチして、これを使ったゲームを作るという技術ベースでの企画に寄りすぎると、ただAI技術を使っただけのつまらないものになりがちです。そういう意味でも両者のバランスが難しいと思ってます。

日本のゲームAIのコミュニティはまだ小さいので、モリカトロンはそれを牽引していく企業でありたいと思います。日本初のゲームAI専門会社として創業した会社ですから、私たちもゲームにAIを組み込んでいく魅力や技術についての発信を積極的に行って、AIゲームのコミュニティを広げることに貢献したいなと思っています。


Editor:高橋ミレイ


「言霊の迷宮」の生成物語(閲覧用)

これまで生成された『言霊の迷宮』の物語を読むことができます。


参考リンク

モリカトロンAIラボ
「BitSummit2024」レポート記事(全文)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?