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『ポーランドのラジオ局がAIが作るチャンネルを立ち上げ賛否両論』~【web3&AI-テックビジネスのアイディアのタネ】2024.10.29

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■ポーランドのラジオ局がAIが作るチャンネルを立ち上げ賛否両論【Media Innovation Weekly】10/28号

ポーランドの公共ラジオ局が思い切った実験に踏み切り、賛否両論で騒動になっているようです。人気のなかった1つのチャンネルを廃止し、AIキャスターが提供するチャンネルに置き換えたというものです(Note from Poland / CNN)。

AIが流暢に言葉をしゃべるようになったことはよく知られていますが、日本語については学習データの不足から「これはAIだな」とわかってしまうのがまだまだ現状です。一方、英語は特に、人間がしゃべっているのと区別がつかないレベルだと言われています。

ヒトと区別がつかないほどのAIボイスが実現されれば、ラジオやポッドキャストを全部AIで作ってしまおうというアイディアはすぐに思いつくわけですが、それを日本でいうNHKのような公共ラジオでチャンネルまるごとAIラジオ化をやってしまったのがポーランド。

一般人のやるポッドキャスト番組、またはコーナーなど番組の一部ならまだしも、公共放送の1チャンネルをすべてAIボイスで作ってしまうというのは、AI推しの私から見ても、思い切ったことをしたなぁと感じます。そしてやはり、賛否両論というか異論噴出というか、反対のための署名活動も起きたのだそうです。

このポーランドの公共ラジオのAIチャンネル化は、日本の地上波ラジオでも起きるかもしれない、AI時代のラジオの先行事例だと捉えて見ると興味深いと感じます。

全文はMedia Innovationの無料登録者限定の記事に詳しく紹介されていますので、是非登録して読んでみてください。

AIチャンネル化の概要

今回AIチャンネル化したポーランドの公共ラジオ「OFFラジオ・クラクフ」は、20代の3人のAIキャラクターを設定、そのAIがしゃべり手として出演する、Z世代をターゲットにした音楽、映画、ファッション、社会問題などを扱うチャンネルになりました。

音楽プレイリストはAIが作成、人間が監修しています。AIがしゃべるかたちですが、人間はコンテンツのチェックと監修に介在しています。

リスナーがほぼゼロまで減っていた

編集長のマルチン・プリット氏は「過去のチャンネルはリスナー数がゼロに近い状態で、他のチャンネルとコンテンツが重複していた」と説明。

Media Innovation「ポーランドのラジオ局がAIが作るチャンネルを立ち上げ賛否両論【Media Innovation Weekly】10/28号」より引用

AIによるチャンネルに切り替えた大きな理由が、「リスナー数がゼロに近い状態」だったことを挙げています。

公共放送ですから、主に受信料と政府の補助金(税金)の組み合わせによって運営され、国民に広く知る権利を担保する役割を担っています。

「リスナー数がゼロに近い状態」は税金の無駄遣いの誹りを受けても仕方がない状況です。「若年層へのアプローチを図る中でAI活用という実験的な取り組みを思いついた」ともしており、AIの話題性でリスナー獲得を目指したようですが、AIがしゃべるチャンネルにすればリスナーが増えるかというと別の話です。

AIを使ったコストダウン

しかし、AIはコストダウンには効きます。演者のギャランティはなくなり、収録設備も不要、24時間いつでも番組を作れます。人間のゲストを呼ぶことができない都合、ゲストのブッキングコストもゼロになります。

一字一句すべての台本が必要になる点はAIキャスターならではで、番組の作り方が大きく異なる部分です。ある意味ラジオドラマを毎回作るようなもので手間がかかります。しかし台本作りもAIが台頭してきている部分ではあります。

批判している人の論点

今回のポーランドの公共ラジオのAIラジオ化を批判している人の論点は以下のようなものです。

  • 危険な前例: AIチャンネル化の直前の番組が打ち切られた元キャスターのマテウシュ・デムスキ氏は、AIキャスターの導入がメディア業界全体にとって危険な前例となると考えています。解雇された当事者ですから、AIの台頭で人間が解雇されることを批判するポジションなのは理解できます。

  • 人間の創造性の重要性: 解雇されたデムスキ氏は「メディアは人間が作るものだ」と信じており、AIによるメディア制作に対して懸念を示しています。AIシステムが日常生活の一部になることを理解しながらも、創造性や人間らしい価値をメディアから失うことへの反対意見です。

  • 職の喪失: チャンネルのフルAI化に伴い、約12名のスタッフが職を失ったことが懸念されており、AI導入が人間の雇用に影響を与える点が問題視されています。

  • AIの役割と境界線への懸念: ポーランドのガヴコフスキ・デジタル相も、AIが一定の境界を越えているとして規制の必要性に言及しており、公的資金で運営される放送局でのAI導入の是非に疑問を呈しています。

  • 報道の質の維持: AI導入により、報道の質が低下するのではないかという懸念について、Media Innovationの記事上では指摘されています。これはポーランド国内の意見ではありませんが、人間のジャーナリストが持つ洞察力や共感性が欠如してしまう可能性があるとしています。

批判の論点のズレ

マテウシュ・デムスキ氏や他の反対者の主張は、主に自分たちが解雇されたことへの不満と、それに対するAIの導入という選択肢への批判が結びついています。しかし、これは本質的な問題とずれていると感じます。

元々、リスナーがほとんどいなかったという状況から、従来の形式ではチャンネルの持続が困難だったことが、改革の主な動機です。この背景を踏まえれば、AI導入自体は番組をリフレッシュし、ターゲット層を変えてリスナーを増やすための試みとして理解できます。

そもそもデムスキ氏は、リスナー数がほぼゼロな番組を担当していながら、AIラジオへの反対の署名活動を約8200人ぶん集められるなら、8200人に聴かれる努力を番組担当中にすればいいのにと感じてしまいます。

そのデムスキ氏の「メディアは人間が作るもの」という考え方も、いち個人の価値観に過ぎません。技術の進化はメディア業界に限らず多くの分野で続いており、すべてを人間の手作業で作ることが価値を持つという考え方は、現代のメディア制作の実態からかけ離れています。多くの部分でテクノロジーが活用され、効率化されているのが現状です。

また、ガヴコフスキ・デジタル相の「一定の境界線を越えている」という主張も、具体的な理由が不明確であり、説得力に欠ける部分があります。受信料を支払う国民が、AIの番組制作に納得できないという主張であれば一定の理解はできますが、リスナーがほぼいないチャンネルに受信料を使い続けることもまた、無駄遣いと捉えられます。

AIの導入はリスナー数を増やす手段であり、新しいトライをしているということです。チャンネルまるごと全部いきなりAI化するのは極端かなとも思います。しかしながら、極端だからこそ話題になったことは否めません。

結局のところ、今回のAI導入に対する批判は、AIそのものに対する懸念というよりは、変化に対する不安や慣れ親しんだ形を失うことへの抵抗が多分に含まれているように思えます。また、人間の解雇によってコストダウンを実現したことは事実で、ラジオに限らず「自分もAIに置き換えられて解雇されるかも」というリアリティが高まったことも異論につながったのだろうと思います。

日本のラジオはどうなる?

日本の民放ラジオ局は99局あります(コミュニティラジオなどを除く民放連加盟ラジオ局の数)。その中でも首都圏について、6月の聴取率調査の結果が衝撃的でした。個々の番組ではなくラジオリスナーがどのくらいいるのかを測る指標SIU(Sets in use)が4%を割り込んだとのことです。

首都圏は地方よりラジオを聴く人の割合が低いため、全国平均すれば4%は超えているでしょうし、4%未満といっても首都圏の人口と掛け算すれば、東京都1400万人のうち4%というだけでも56万人ものリスナー数になります。

とはいえ、どんどんラジオが聴かれなくなってきているということです。

今回のポーランドの公共ラジオの「リスナー数がゼロに近かった」が、本当にゼロやひと桁だったのか、数百人レベルでもゼロに等しいと感じるのかの程度感覚はわかりませんが、日本のローカルラジオ局でも程度の捉え方によっては「ゼロに近い」という放送局や番組があるのも事実です。

短期的にリスナー数を大幅に増やしたり、その結果で広告収益を増やしたり、または全く別のビジネスを成功させるのは困難で再現性が低いものです。リスナーが減り広告収益が減れば、経営的に真っ先にやることはコストダウンです。

AIによるコストダウンの誘惑は、今のラジオ局にとってはとても強く感じるのではないでしょうか。

とはいえ、やはり本質的に必要なのはリスナー数を増やすことです。ポーランドではチャンネルまるごとAI化するという極端な施策で注目を集めることに成功しました。ここまで極端なことをする日本のラジオ局はないでしょうけれど、AIをコストダウンだけでなくリスナー獲得に使う方法が編み出されるとよいなと思います。

AIがしゃべる番組が聴きたいか?

うーん、いちラジオファンとしてはどうでしょうね。技術的に興味はありますし一度は聴いてみますが…人間と区別がつかないほどAIが人間っぽいフリートークをするようになれば、AIだからというのはどうでもよくなると思いますが、現状のradikoに入るAI音声のCMは全部気持ち悪いと感じます。日本語だとまだまだ厳しいのでしょうね。

しかし人間だから面白いというわけでもありませんし、あまりにも頻繁に同じCMばかり流れる某局では、そのCMが流れるたびに広告主とCMのナレーターが嫌いになります(笑)だったらAIが毎回違う声とセリフに変えてくれた方がマシかなとも思います。放送だと無理ですけどね。

人間でもAIでも、面白ければどちらも聴きます。AIならではの自分だけにパーソナライズされた番組はよいかもしれません。自分が興味のあるニュースを朝まとめて10分番組にしてくれるだとかは便利そうです。

便利を超えて面白い番組となると、今のところAIでは難しいのかなと思います。私が面白いと思う番組は全部「体験談を話す番組」です。AIは自律的にオリジナルな体験をしに行くことがないので、体験談が語れません。体験談を生成してしまえばそれっぽい番組は作れるのでしょうが、その限界に挑戦するような番組があれば聴いてみたいとは思います。

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