小さな本屋の意地
この本は『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』(ポプラ社)の改訂版です。
最後の章を約30ページほど加筆し、改題して別の出版社から出た本です。
小説ですからフィクションなのですが、
この本に出てくる実在の人物・小林由美子さんの言葉は
実際に著者の川上徹也さんに語ったノンフィクションです。
ところどころに出てくる由美子さんのセリフが痛快です。
今回は「小さな本屋の意地」のような箇所を、短く編集してお届けします。
本屋をやって何がつらかったかって売れる本が店に入ってこんのよ。
当時は『キン肉マン』が大人気やった。
大きな本屋には山積みになってんのに
取次は小さな本屋には5冊くらいしか卸してくれへんの。
そんな1日で売り切れや。
その理不尽さにホンマに腹立った。
どうしたら出版社から一目置いてもらえるか、考えた。
圧倒的に大きいのは集英社、小学館、講談社の3社や。
そこで思いついたのが大手出版社が出す「全集」を売ることやった。
全10巻となると結構いい値段する。
これは大きい書店でもどんどん売れるわけやない。
これらの本は事前予約してもらってその数だけ本屋に入ってくる。
書店業界では「企画もの」と呼んでいた。
この「企画もの」で勝負して大手の本屋に勝てたら
出版社から一目置いてもらえると思ったんや
最初の本は料理の全集で1巻1200円で全12巻。
そう簡単に売れる金額やない。それで配達先のお客さんの家を
一軒一軒歩いて説明して回ったんや。
私も現物など見たこともない本やった。
最終的に40セット予約してもらった。
それ以来、出版社の企画ものが出るたびに
一軒一軒丁寧に説明して回って予約を取った。
50件、100件の予約を取った。
全国トップになったこともあったな。
そうなると『キン肉マン』が
勝手に100冊入荷するようになったんや
そしたらこの喜びを仲間の本屋にも
味あわせてあげたいと思うようになった。
そんな感激があったら一生の思い出になるやん。
そしたら苦しいこと、悔しいことがあっても
本屋を続けていこうという気持ちになると思うねん。
ある時、『日本国語大辞典』という1冊7000円の大型辞書で
「200冊予約販売したら東京へご招待」という企画があってん。
仲間の本屋に、「その企画で一緒に東京に行こう」と呼びかけたんや。
みんな「そんなん無理や」と言う。
「ダメで元々やん。50冊でも終わっても1冊7000円やで。
そこそこの儲けになるやんか。
挑戦して損することは何一つもないやん。
達成したらものすごい感動が待っている。
一緒に挑戦しようや」って説得した。
そしたら6つの本屋のうち3つの本屋が200冊を達成して
東京行きの切符を手に入れた。すごいやろ?
でもな、報奨金が欲しくて売ったんやないんや。
小さな本屋の意地を見せたかったかもしれんな。
この出来事はみんなの想い出としてずっと残ってて、
当時の仲間と会ったら必ずこの思い出話をするんよ。